お荷物社員、人材の不良債権、フリーライダー、マンネンヒラ……。企業の競争が激化する中、かつて大量採用されたバブル世代を待ち受ける“未来”は厳しさを増している。その一方で、経営者たちは「人財」、「人を大切にする経営」、「最後は人」など、組織内の人の重要性を公言する。
会社=COMPANYは、もともと「ともに(COM)パン(Pains)を食べる仲間(Y)」を意味する。「(食事など)何か一緒に行動する集団」である会社で、“人が働く”とはどういうことなのか?
北海道大学大学院准教授の長谷川英祐氏は、アリの生態を観察し、「組織存続には、働かないアリが必要不可欠」と説く。働かないアリの存在を認めるアリの社会からは、現代の人間社会が忘れつつある「会社=組織とは何か」を学ぶことができる。
「会社員とは、その場所に“いる”ことも大切な仕事」と確信してきた私、河合薫が、長谷川先生にお話を伺います。
河合:アリの生態ってとても面白いと思ったのですが、先生がアリ研究を始めたきっかけは、何かあったのですか? 子供のときに砂場遊びしながら、興味を抱いたとか。
長谷川:いえいえ、子供のころは、アリは好きじゃなかった(笑)。きっかけは大学生の時に読んだ、リチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』です。その中に働きアリの話が出てくるんです。アリって女王だけが子供を産んでいるわけですが、何で自分で子供を産まないのに、働くという性質が進化するのかに興味を持ちました。当時、今西進化論が流行っていて、それとはまったく異なるドーキンスの観点が斬新で研究を始めました。
※今西進化論とは、京都大学名誉教授の故今西錦司氏による生物の進化論で、「棲み分け進化論」とも言われる。
河合:『働かないアリには意義がある』というタイトルを見たときに、「ウソ! アリってみんな働いているじゃん」と思って手に取ったんですが、働かないアリの存在は、観察する中で見えてきたんですか?
長谷川:昔から、働かないアリがいるということ自体は分かっていたんです。だいたい2割は働いてなくて、その働いてない2割だけ取り出しても、働いている方の個体だけ取り出してもやっぱり元に戻ってしまうというのが、まことしやかに言われていた。でも、具体的なデータがなかった。それで、長期間観察を続けてみました。すると、集団の役に立つようなことを、何1つやらないアリが、100匹いると10〜20匹くらいいるということが分かりました。
河合:働かないって、ボーっとしてるってことなんですかね?
長谷川:そうです。ただぼうっとしていたり、自分の体の掃除をしていたり。アリの世界の労働って、子供の世話をするとか、餌を外に取りに行ったり、その餌を女王に与えたり、巣の掃除したりすることなんですが、働かないアリはコロニーのためになるようないわゆる労働を全然しないのです。