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ソフトバンク 米企業買収白紙に

8月11日 14時25分

新井俊毅記者

買収に次ぐ買収で事業を拡大してきた「ソフトバンク」。アメリカでのビジネスを拡大するため、傘下のアメリカ第3位の携帯電話会社「スプリント」を通じて進めていた4位「TモバイルUS」の買収に向けた交渉を打ち切ることが今月に入って明らかになりました。孫正義社長の大勝負はなぜ後退を迫られることになったのか経済部の新井俊毅記者が解説します。

Tモバイル買収は“うわさ”

「Tモバイル買収のうわさが絶え間なく出ていましたけど、ソフトバンクとしては正式に一度もコメントしたことはありません。したがって今回も正式なコメントをすることはない、ということです」

今月8日の決算会見で淡々とこう述べた孫社長。しかし、時折悔しさをにじませる発言もみられました。

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「今のアメリカの通信業界は大手2社のシェアが大きすぎる。中国の三国志を見れば、非常に長い期間、非常に激しい戦争があった訳だが、規模がほぼ変わらないものが三つどもえで戦うほうが激しい戦いになることは歴史が証明している」と述べ、中国の歴史を引き合いにアメリカ通信業界を三分する意義を改めて語ったのです。

アメリカでは本音で語る

「ソフトバンク」が全米3位の携帯電話会社「スプリント」買収を完了したのが去年7月。4位の「TモバイルUS」の買収を検討していることが明らかになったのは、それから半年もたたない去年12月のことでした。孫社長は「スプリント」に加えて「TモバイルUS」を傘下に収めることができれば、規模の面からも全米トップの「ベライゾン」や2位の「AT&T」に対抗できると考えていました。

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みずからアメリカ西海岸・シリコンバレーの拠点に陣取り、講演会でスピーチしたり、テレビに出演したりして思いを語りました。高校を中退してからアメリカで教育を受けた孫社長にとって英語はお手のもの。

実は孫社長、アメリカではかなり踏み込んだ発言をしていました。アメリカの人気インタビュー番組「チャーリー・ローズ・ショー」に出演した時のことです。ローズ氏の鋭い質問に対して孫社長が思わず本音を表す場面もありました。

「私たちには一定の規模が必要なのです。そうすればヘビー級の3社による競争ができるようになります。そうなれば、価格面、技術面で徹底的な競争が起きることになります。私はナンバーワンになりたいのです

ことし6月には「TモバイルUS」の親会社であるドイツ通信大手の「ドイツテレコム」との間で、買収について大筋合意したと伝えられ、交渉は大詰めの段階に入っているとみられていました。

立ちはだかる規制当局の壁

しかし、通信行政をつかさどるFCC=連邦通信委員会や企業の独占行為を監視する司法省反トラスト局といった規制当局は今回の買収について慎重な見方を示していました。アメリカの携帯電話市場は上位4社で9割近いシェアを占めており、3位の「スプリント」が4位の「TモバイルUS」を買収すれば消費者の選択肢が減り、競争が阻害されかねないという懸念が当局にはあるのです。司法省反トラスト局の幹部は「『再編によって4社が3社になることで競争環境がよくなる』というのは消費者にとって説得力がない」と述べていました。

3年前には「AT&T」が「TモバイルUSA」を390億ドル(当時の日本円で3兆円余)で買収する計画を表明しましたが、司法省はこれに反対して提訴に踏み切り「AT&T」は買収を断念した経緯があります。関係者は、ソフトバンクが買収に向けた交渉を打ち切ることになった背景に、こうした当局の慎重な姿勢があったと述べていました。

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孫社長、次の一手は

今回の交渉打ち切りによって「スプリント」は当面、単独での事業展開を余儀なくされることになります。「スプリント」の業績自体はことし4月から6月までの四半期決算ではコスト削減などが功を奏し最終損益が黒字に転換。孫社長も急回復を強調しました。

しかし、この期間の契約者数は前の四半期に比べ33万人減少。大手4社のなかでは唯一の純減、依然として厳しい経営が続いています。孫社長は、スプリント単独でのアメリカ市場の攻略方法について、通信環境を改善してつながりやすくすることで顧客を増やすこと、徹底したコスト削減の2点を挙げていました。

しかし、孫社長にとって「TモバイルUS」の買収がいったん白紙になったことは大きな誤算だったことは間違いありません。ライバル会社の幹部は早速「スプリント単独では規模で勝る上位2社に対抗するのは難しい。アメリカでの事業はソフトバンクの経営にとって重荷になるのではないか」と冷ややかな見方を示していました。

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これに対し孫社長はスプリントのCEOを交代させ、43歳の若いCEO、マルセロ・クラウレ氏を迎え営業攻勢に出ると予告しました。

「いろんな選択肢はあり頭をフル回転して考えている」と語る孫社長。果たして秘策はあるのか、次の一手に注目が集まります。


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