トップページ国際ニュース一覧イラク 新首相候補指名で混乱拍車に懸念
ニュース詳細

イラク 新首相候補指名で混乱拍車に懸念
8月12日 6時17分

アメリカ軍がイスラム過激派組織への空爆を続け緊迫した状態が続くイラクで、マリキ首相に代わる新しい首相候補にアバディ氏が指名されましたが、マリキ首相は強く反発していて、政治的な対立によってイラクの混乱に拍車がかかる懸念も出ています。

イラクでは、イスラム教スンニ派の過激派組織と政府軍との戦闘が2か月以上も続いていて、マリキ首相によるシーア派の優遇策へのスンニ派の不満が過激派の勢力拡大を招いたとして退陣を求める声が強まっていました。
こうしたなか、マスーム大統領は、11日、マリキ首相に代わる新しい首相候補に国民議会の副議長を務めるシーア派の政治家、ハイダル・アバディ氏を指名し、30日以内に内閣を発足させるよう要請しました。
これに対し、11日夜、テレビを通じて演説したマリキ首相は「危険な憲法違反だ。われわれはこの過ちを正す」と述べて退陣を明確に拒否しました。
アメリカなど各国は、過激派の掃討を進めて事態を鎮静化させるためにも、異なる宗派や民族が参加する挙国一致の政権作りを急ぐよう求めていることから、アバディ氏は、今後スンニ派やクルド人勢力の協力を得て新しい内閣の発足を目指すことになります。
しかし、マリキ首相が退陣を拒否し続ければ政治的な対立が激化し、イラクの混乱に拍車がかかる懸念も出ています。

アバディ氏の経歴

イラクの新しい首相候補に指名されたハイダル・アバディ氏は、バグダッド出身の62歳。マリキ首相と同じ、イスラム教シーア派の政党、ダーワ党の政治家です。
医師の家庭に生まれ、スンニ派中心のフセイン政権の下で2人の兄弟が捕まったため、イギリスに亡命し、イギリスのマンチェスター大学で電子工学を研究したあと、イギリスの民間会社でエンジニアとして働いたという経歴を持ちます。フセイン政権の崩壊後にイラクに帰国し、2003年の暫定内閣では、1年間、通信相を務め、日本を訪れたこともあります。
また、マリキ政権下では、首相顧問を務めたほか、2011年からは国家財務委員長を歴任し、先月から国民議会の副議長を務めるなど次の首相候補の1人と目されてきました。

「国民が受け入れられる政府を」

イラクのマスーム大統領がマリキ首相に代わる新しい首相候補に国民議会の副議長を務めるアバディ氏を指名し、内閣を発足させるよう要請したことを受けて、国連のパン・ギムン事務総長は、11日、報道官を通じて声明を発表し、「アバディ氏が、イラクのすべての国民が受け入れられる政府を、憲法が定める期限内に発足させることを期待する」として歓迎しました。
また、パン事務総長は「現在の政治的な緊張が、イスラム過激派組織による治安上の脅威と重なって、イラクをより危機的な状況に陥れることを懸念している」として、国内のすべての政治勢力に憲法に基づいた政治プロセスを尊重するよう呼びかけました。
一方、イスラム過激派組織によって、イラク北部の山岳地帯に追われた少数派のヤジディ教徒などの支援に当たっている、国連の人道問題調整事務所のドワイヤー報道官は、11日、現地と国連本部を電話で結んで記者会見を行いました。
この中で、ドワイヤー報道官は、人々が逃れているシンジャルの山岳地帯は長さ100キロ幅10キロほどの広さがあり、イラク軍などが航空機で支援物資を投下しているものの、多くの人々は45度以上の暑さの中で行き場を失っていて、特に山の南側ではなお過激派組織の攻撃にさらされているとして、強い危機感を示しました。

戦闘地域の現状

過激派組織は、イラク北部のクルド人自治区の中心都市アルビル近郊にまで迫り、これに対し、クルド人部隊がアメリカ軍の空爆の支援を受けて反撃に転じています。
アルビルから40キロほど離れた村には、多くのクルド人兵士や戦車などが待機していて緊迫した状況となっています。幹線道路沿いでは、10日、クルド人部隊と過激派組織の激しい戦闘が行われ、近くのレストランの壁には無数の銃弾の跡が残り、めちゃめちゃに破壊されて焼け焦げた車が放置されていました。
レストランの経営者の男性は「過激派組織は、まだここから10キロほど離れた村にいる。危険すぎて誰も村には戻れない」と話していました。
アルビルの中心部には、過激派組織の襲撃や戦闘から逃れた大勢の住民が建設中のビルや廃虚となった建物などに身を寄せています。建設途中で放置されたビルには、過激派組織が支配するモスルの近郊の町から子どもや老人を含むおよそ100人が避難してきていて、コンクリート片が散乱する地面に疲れ切った様子で座り込んでいました。
5日前に避難してきたという男性は「過激派組織は、宗教や宗派に関係なく、逆らう者はみんな殺している。ここでの避難生活はひどい状況だ。何とか早く家に戻れるようにしてほしい」と混乱の収束を一刻も早く願う心情を語っていました。

[関連ニュース]
k10013743521000.html

[関連ニュース]

  自動検索

米副大統領 イラク新首相候補に支持表明 (8月12日 5時49分)

イラク 大統領が新しい首相候補を指名 (8月11日 23時37分)

イラク クルド人部隊が反撃 一部地域奪還 (8月11日 17時54分)

イラク マリキ首相「続投」強調 (8月11日 13時09分)

米軍 3日連続でイラク北部を空爆 (8月11日 4時20分)

このページの先頭へ