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■特派員リポート 河野正樹(ヨーロッパ総局員)

 サッカーのワールドカップ(W杯)ブラジル大会を前に、6月13日の朝日新聞国際面「世界発」でアフリカから成功を夢見て欧州に渡る選手たちの現実を描いた。(http://digital.asahi.com/articles/DA3S11187123.html)その時に書ききれなかった1人の成功者の話を紹介したい。

 ベルギー・ブリュッセル郊外を拠点とするクラブ「ラ・ルー」には、不法滞在しながらプロを目指すアフリカ系の選手が集まる。ほとんどの選手がビザが取れず、プロになれない現実を知る。ただ数は少ないが、そこから抜け出した例もある。8月6日現在でスペイン1部レバンテに所属する元カメルーン代表FWアロイス・ノング(30)はその1人だ。

 ノングはカメルーン第2の都市ドゥアラで生まれ育った。プロ選手ではなかったノングが欧州に渡ったのは16歳の時だ。代理人と称するカメルーン人が「生活が楽になる。経済的な環境も整えるから」とノングの母を説得し、ノングは誘いに乗った。

 向かった先は旧宗主国フランスだった。「欧州でプレーしたいし、家族を楽にしたかった」。カメルーンでプロになっても、月給200ユーロ(約2万7千円)がやっと。欧州に行けばその10倍以上が稼げる。7人の選手とともに欧州に渡り、プロを目指した。

 ところが、滞在先のパリであてがわれたのは粗末な部屋だった。シャワーもなく、8人が眠るためのベッドもそろっていなかった。「部屋が狭くて、自分は床で寝ていた。12月に着いたのだけれど、半袖しか持っていなくて、初体験の欧州の冬は本当に寒かった」とノングは振り返る。それでも練習していつかプロになると夢を見ていた。