(2014年8月11日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
米国が、2年半前に正式に見放し、実際はそれ以前からほぼ見捨てていた戦闘地域に舞い戻り、イラク北部のイスラム武装勢力に大規模な空爆を数回行った。
この空爆により、「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」の封じ込めに苦労しているクルド人の部隊とイラク政府軍への重圧は軽減されている。ISISはアルカイダから分派した武装組織で、2カ月前からイラク北部の領土を奪取・支配している。
だがイラクの地上に降りてみると、空爆が最前線にもたらしたインパクトは限定的なものであることが分かる。ISISの部隊を後退させるには至っておらず、むしろISISがプロパガンダで勝利を収めていると見なすこともできるからだ。
ISISの指導者層はまだ無傷であるうえに、この空爆に乗じて、自分たちの中東掌握を目指した戦いは米国と西側諸国によるこの地域の支配に終止符を打つ戦いの一環なのだと主張できるようになっている。
米軍による空爆、クルド人は一時的に士気を高めたが・・・
米国はクルド人自治区の境界の西側や、シリアとの国境に近いイラクの街シンジャールの近郊にあるISISの拠点に空爆を行った。バラク・オバマ大統領はこの行動を、クルド人自治区の主都エルビルを守り、ISISの攻撃にさらされているヤジド派やキリスト教徒などクルド民族少数派の人々を守るためだと表現した。
だが、米国による空からの支援に感謝しているクルド人でさえ、自分たちの部隊の限られた軍事力は敵が持つ高度な装備と戦術に対抗できずにいることを認めている。
「F18戦闘機から500ポンド爆弾を数発落とし、無人機攻撃を数回仕掛けるだけではISISを止められない」。元駐イラク米国大使で、現在、テキサスA&M大学ブッシュ・スクール・オブ・ガバメント・アンド・パブリック・サービスの学長を務めるライアン・クロッカー氏は本紙(英フィナンシャル・タイムズ)にこう語った。
「そもそもISISが(制圧を)意図していなかったエルビルの防衛が目的だったと言うのであれば、任務はもう終わり、我々は帰れる」