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各国の戦いを佐藤寿人はどう見た?

サンフレッチェ広島FW佐藤寿人選手へのインタビュー、第2部ではドイツが優勝を飾ったこの夏のブラジル・ワールドカップ(W杯)について話をうかがった。グループステージ敗退に終わった日本代表の問題点はどこにあったのだろうか…?

インタビュアー: チェーザレ・ポレンギ(Goal Japan編集長)


チェーザレ・ポレンギ(以下C): 次はW杯について聞きたいと思います。佐藤選手としては、どんなW杯でしたか?

佐藤寿人(以下S): ずっとポゼッションサッカーが主流だと言われていた流れが、この大会を機に変わっていくのかなと個人的に感じましたね。2006年に優勝したイタリアが2大会連続グループステージで敗退して、前回優勝したスペインも敗退して、やっぱり4年経つと選手も4つ歳を重ねてまったく違ってくる。その4年で大きく飛躍した国もあれば、非常に残念な結果に終わってしまった国もあります。

C: 日本代表は残念な結果でしたが…。

S: 個人的には、もっとできたんじゃないかという思いがすごく強いですね。選手を見ても、2006年のドイツのときのような、期待を抱かせるメンバーだったと思いますので。それでも結果が出なかったという落胆は強いです。

C: 2006年は準備が足りなかった気がしますが、今回はしっかりプランニングして、それでも結果が出なかった。前回とは違って、速くパスをつないで自分たちのサッカーをしようとしましたが、実際にサプライズを起こしたのはコスタリカやアルジェリアのように守備がしっかりしたチームでした。日本がこの舞台で攻撃的に戦うのはまだ早かったのでしょうか?

S: その通りだと思います。ある時間帯で見れば、攻撃で通用していたものもあったと思いますが、じゃあ守備はどうだったかと。(コンフェデレーションズ杯の)イタリア戦でもダメ、ブラジル戦でもダメとなったときに、それでも攻撃的にいける力があったのかと考えると、やっぱりもう少し守備にフォーカスするべきだったのかなと。

C: コンフェデ杯や親善試合を通して、見誤った部分があると。

S: もう何試合もやって、そういう結果が出ていましたよね。東欧遠征でセルビアとベラルーシに負けましたが、その後にベルギー、オランダで思いのほか五角以上の戦いができたというのがあったから、判断が難しくなった。その2試合の結果で、W杯でもやれるという見え方になってしまったのかもしれません。あの2試合次第では、まだ方向転換はいくらでもできたかもしれない。

C: これはメディアの責任もあると思いますが、日本ではフレンドリーマッチがすごく大切にされますね。

S: そこはもう絶対変えていかなければいけないですし、もっと力のあるチーム、W杯で対戦するような国と試合をしていかなければない。あとは、これは日本人の悪いところなのかもしれないですが、守備に対して非常にネガティブ。攻撃は良いこと、守るのはダメと。実際には守りがしっかりしているから攻められるというのもある。もちろんサッカーをやっている人たちは分かっているんですが、サッカーに深く携わっていない人は、攻撃が正義で守備が悪のように見ている。

C: それはやっぱり文化的なものでしょうね。イタリアだと良いセンターバック、良いサイドバックがすごく評価されるというのもありますが、日本だとDFはゲームの楽しむを壊す人だと思われていて、DFになりたいという子供は少ない。MFやSBと比べて、世界に通用するレベルのCBは少ないと思います。

S: リーグで対戦して、個々で言えば良い選手がいないこともないと思うんですが、どうしても注目されるのは攻撃の方。守備の良いところももっと見られるようにならないと、子供たちもDFをやろうというふうにはならない。もちろん、世界で戦うCBには背の高さも絶対条件として必要で、背の低いDFがやって勝てるほど世界は甘くない。攻撃は高さで勝負しなくてもクイックな動きで勝負できるけど、守備は相手がハイボールで仕掛けてきたら勝負しなければならない、そういうプレーの絶対数が多いので。

C: どう攻撃するかは自分で決められますが、守備は決められないですからね。日本にも背が高い子はいますが、みんなほかのスポーツに行ってしまいますね。バスケットとかバレーボールとか…。

S: GKもですね。本当に、188センチや190センチくらいの身長で、なおかつ足下もしっかりしているようなCBが必要だと思います。

C: 日本代表の守備に問題があるのはずっと分かっていたことですが、なぜ広島の3バックを使ってみなかったのかなと思います。2年間ほぼ同じメンバーで戦ってタイトルを獲って、バランスも取れている。たとえば東アジアカップなんかで、チャンスが与えられなかったのは残念だったと思います。

S: まあ、水本選手もなかなかコンスタントには呼ばれなかったですし、塩谷選手はここ1年で一気に出てきた部分もあるので…。彼はむしろこれからの4年間が大きなチャンス、大きな勝負でもあると思います。DFに限らないですが、ある程度の大枠は早い段階で決まっていたのかなと思いましたね。

C: それでは、日本代表から離れて、W杯では気に入ったチームや選手はいましたか?

S: 一番のサプライズだったのはオランダですね。伝統的なサッカーを捨てたけど、それぞれの特徴を生かしてゴールを奪うためのテンポなど、すごく勉強になりました。ダイレクトプレーが非常に多くて、一つのパスで状況を変えることもできた。決勝まで行ってもおかしくなかったですね。

C: ブラジルはどうでした? 衝撃的な最後になりましたが…。

S: 開催国としての期待も、大きなプレッシャーもあったんでしょうね。でも、ストライカーらしいストライカーがいなかったのは物足りなかった。ネイマールはストライカータイプではないし、フレッジはいまいちだった。2002年にドイツを破って優勝したときのロナウドのように、本当に点の取れるストライカーがいなかったですね。

C: ネイマールとチアゴ・シウバが抜けただけであんな結果になりましたが、それだけあの2人は大きかったということでしょうか。

S: 2年前のフランス遠征で対戦して0-4で負けたとき、僕はベンチから見てましたが、そのときのブラジルは本当に強かったんですけどね。もちろん去年のコンフェデも強かった。もしかしたら、厳しい予選を勝ち抜いていないというところで、経験が積めなかったのかもしれない。

C: この結果で、日本でのブラジルサッカーの印象が変わるでしょうか。今まで日本はブラジルが理想だと思っていて、ブラジル人選手が多かったですが、これでJリーグのブラジル人選手が減るでしょうか?(笑)

S: だからといって、ドイツから選手を獲ってこれるかな(笑)

C: 代表監督にドイツ人はいいんじゃないでしょうか? 真面目で、文化も似てる部分もあると思いますし。

S: ドイツは若い選手が多い中で優勝しているので、今後の4年間もそんなに崩れなさそうですね。ブンデスリーガも良いリーグになって、代表チームも強くなってきました。

C: 昔のドイツのイメージといえば、堅くて強いチームだったと思います。今はエジルやケディラ、ムスタフィやクローゼのように移民の子供たちも入ってきて、そういう選手たちが違った色を加えていると思います。98年のフランスと同じように多国籍なチームですね。日本でそういうことはできるでしょうか?

S: まあ、島国なのでなかなか難しいですよね。

C: 呂比須(ワグナー)やラモス(瑠偉)や、ハーフナー(マイク)なども、日本人にはない特徴を見せていると思います。

S: 一つの武器にはなりますね。

C: Jリーグで活躍している選手が日本人になってくれたら、いいかもしれないですけどね。レナト(川崎F)がなってくれればうれしいですし、ダニルソン(名古屋)もいいんじゃないかな。

S: もちろん(田中マルクス)闘莉王もすごく貢献してくれてますね。川崎にいたジュニーニョにもそういう話はありましたが、日本語の問題などもあってなかなか難しかったみたいですけどね。


インタビュー(1) 広島はなぜ勝てたのか

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