BLEACH―虚圏に舞い降りた天使―《revival》 (幽閉フリューゲル)
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Episode.1「勧誘される天使」



――Side…

「さて、よく来てくれたね諸君。今日集まってくれたのはもう連絡済みだと思うが、改めて僕の口から伝えることがあるんだ」

薄暗く広い室内。
高いところから部屋全体を見下ろす眼鏡の男は、多少勿体ぶりながら部屋に居る者達に話しかけた。
男が見下ろす先に居る者は、破面(アランカル)と呼ばれるものたち。
所謂「悪霊」に分類される種族「(ホロウ)」が進化した形態であり、全員人間と同じ形をしている。
その下にある長い机を隔てて座っている破面(アランカル)達と、部屋の隅の方で立っている破面(アランカル)達がいる。
座っている8人は「十刃(エスパーダ)」と呼ばれる者たち。破面(アランカル)達の中でも特に力の強い者が集まった集団だ。本来10人居る筈なのだが、1人はサボっており来てはいない。そして、あともう1人は……。

「ヤミー・リヤルゴに代わって、新たな第10十刃(ディエス・エスパーダ)が誕生した」

男がそう伝えた瞬間、部屋の中がざわつき始めた。
十刃(エスパータ)の交代。
これはかなりのビッグイベントだ。十刃(エスパーダ)と呼ばれる者は、先ほど言った通り特に強い者たちの集団なわけだが、それは本当に別格の存在。並の破面(アランカル)達では手も足も出ないほどの力を兼ね備えた、化け物の集団。
その交代なのだから、当然のように皆驚く。今までいた十刃(エスパーダ)以上の力を持った化け物が増えるということなのだから。
空いているもう1つの席は、その交代した新しい十刃(エスパーダ)のものだったのだ。

「諸君、静かに」

そしてそのざわめきに負けない男の言葉で、一瞬で静まり返った。

「色々詮索してもらうのは構わないが、『彼女』を待たせるわけにはいかない。さて、早速『彼女』を紹介しよう。さぁ、入ってきてくれ」

男の声と同時に巨大な扉が開き始めた。
その扉から入ってきた『彼女』に、部屋のあちこちから視線が集まる。
入ってきた『彼女』は言ってみれば、『真っ白』の一言だった。
吸い込まれるような薄く緑かかった碧眼、真っ白なウェーブのかかった長い髪、そして真っ白な肌、整ってはいるがどこか子供っぽく迫力のない柔らかい表情を浮かべた顔、かなり膨らんでいる胸、それに釣り合っていないほど細い身体に、一般女子高生の平均よりも少しだけ高い程度の身長といった、世の中の女性の大半を嫉妬させるくらいの容姿の女だった。
ただ、ロングスカートのような白い死覇装(しはくしょう)仮面紋(エスティグマ)は珍しく無い代わりに、後頭部に真っ白い帽子のような大虚(メノス)だった頃の名残があるのを見ると、やはり彼女も破面(アランカル)だということがわかる。だがそれでも男なら、通り過ぎれば絶対に振り返るであろう絶世の美少女だった。
『彼女』は、藍染様がいる席の真下に来るように移動した。

「さぁ、皆に紹介してくれ」
「はい、藍染様」

『彼女』は返事をし、「藍染様」と呼んだ眼鏡の男、そしてその左右にそれぞれ立っていた狐目の男とドレッドヘアーの男にまずお辞儀をして、破面(アランカル)達がいる方に向き合った。

「皆さん、はじめまして。私は――」


――その1日前…


あたり一面には砂漠。
木らしい植物があっても枯れ果てており、触れると、まるで石英のようにパキパキと音を立てて崩れてしまう。
ここは『虚圏(ウェコムンド)』。私たち(ホロウ)のための空間。
天敵である死神すら、ここの動きを把握することはできない土地だ。

「……ふぅ、お腹減ったなぁ」

私はその砂漠の中心で寝転がっていた。
あー、もう。
弱い(ホロウ)は呼吸をするだけで充分な栄養が吸えるのに……私ぐらいまで(・・・・・・)に成長しちゃうと不便だよ。

「散歩でもしようかな……」

餌を探すためでもあるけど、ただここで寝るだけが暇だからだ。
折角散歩をするんだし、久しぶりに強い(ホロウ)を探してみよう。
別に私は戦闘狂なんかじゃない。これはただの暇つぶしのお遊び(・・・)だ。
この虚圏(ウェコムンド)には(ホロウ)以外にはなんにもない。
だから、私たち群れを持っていない(ホロウ)にとっての暇つぶしは、他の(ホロウ)と対峙することであり、またそれが、自身への進化や維持、そして栄養補給にも繋がる。まさに一石二鳥なことなのだ。まぁ、私はもう維持する必要はない(・・・・・)から、ほとんど栄養補給程度なんだけどね。

「少し、いいかな」
「ん?」

そろそろ起きるかどうか考えていたところで、ひとりの男の声が聞こえた。
声がした方を見ると、そこには3人の人物が立っている。
1人目は、まるで狐のように細目に白い髪の男。
2人目はドレッドヘアーっていうのかな。かなり特徴的な髪形をし、目のところには理科の実験とかで使われていそうなゴーグルを付け、ピシッと立っている褐色の男。

そして……私に話しかけてきた3人目

ギンとドレッドヘアーの人の間にいる男。
顔が綺麗で眼鏡をしていて優しそうに微笑んでいる。……が。
その姿を見ただけで圧倒されてしまった。
なぜだろう。この人には、逆らうことができない。いや、正確には、逆らってはいけないような(・・・・・・・・・・・・)気がする。
見た感じは温厚そうだ。あの優しそうな笑顔や綺麗な佇まいに品があるからだろう。
しかし……そんな彼の穏やかな表情に対し、彼のその黒い目は全然笑っていない。
なんだあの目は。私に対してなにも余計なことを考えていない目だ。私の本質を理解しようとしているような目だ。嫌ではないが、気味が悪い。
その男は、振り向いた私を見てさらにほほ笑む。三日月のように歪んだ口がまたなんとも不気味だ。
…………。

「珍しいね。虚圏(こんなところ)に死神が来るなんてね。しかもそのいい感じの霊圧と羽織……隊長さんだね。しかも3人も」

私はそう呟いたあと立ち上がり、男たちの方に向き合って笑顔で挨拶をした。

「こんにちは、私はエルシャヴァリアス・ファン・オルデンバルネフェルト。しがない悪霊風情だよ。長いから、呼ぶ時はエルって呼んでね」

そう自己紹介すると、眼鏡の男は面白そうに笑いながら話す。

「君のような最上級大虚(ヴァストローデ)が『しがない悪霊』なら、他の(ホロウ)達は一体なになのかな?」
「……ふーん」

私を最上級大虚(ヴァストローデ)だって見抜いたね。
女だし小さいからか、よく中級大虚(アジューカス)と間違われるんだけどな。まぁ、そういう舐めてきた中級大虚(バカ共)は全員私の胃袋の中に旅行しに行ったけどね。
このひとは違うね。ちゃんと物事を見透かすようないい目をしている。不気味だけど。隊長クラスの死神はみんなこんな目をしているのだろうか。

「僕は藍染(あいぜん)惣右介(そうすけ)。死神だよ」

男……藍染さんの声は非常に透き通っており、涼やかなものだった。しかし、そこに秘められた感情は全く見当もつかない。
顔や声だけ聞けば本当にいい人っぽく見えるのに、たったひとつ、目を見ただけで凍りついてしまいそうな男だ。普段温厚そうな人ほど、中に黒いものを溜めこんでいるという話は有名だが、彼はその象徴ともいえるほどどす黒いものを秘めていた。
でも、私にとっては好感が持てる。
単純な性格の人物よりも、こういう得体のしれない人物の方が色々想像できておもしろい。
隣に立っていた2人もそれぞれ、「市丸ギン」「東仙要」と名乗ってくれた。市丸さんに東仙さんね、覚えたよ。

「エル。早速だが、実は君にお願いというか、提案があるんだ」

有無を言わせず、やや強引に提案(・・)を言う藍染さん。
違うでしょ。どう考えても「命令」でしょ? そんな風に心の中で藍染さんにツッコム。
でも興味あるから聞いてみよう。

「君には僕達の仲間になって欲しいんだ」

……へぇ、面白いことを言う。私に「部下になれ」と命令してくるなんてね。
藍染さんは人差し指を立てながら続けた。

「当然、タダでとは言わない。君がこれを受けてくれるというのならば、君に特別な力を与えよう」
「特別な力……ですか」
「そうだ。その名も『破面(アランカル)』」

アランカル……?

「説明するより実際にやってみた方が速いと思うから具体的な説明は省略させて貰うよ。しかし、簡単に言えば、破面(アランカル)とは今の君の状態とは比べるまでもない、より大きな力だ。君が僕達と仲間になってくれるのなら、破面(アランカル)になれることを約束しよう」

「それに」と、藍染さんが続けた。

「僕の城……虚夜宮(ラス・ノーチェス)に住むようになれば、今まで会ったことのないような面白い強者と関わりが持てるはずだ。そうすれば今までのような退屈な日々から解放されるはずだよ」
「その提案、お受けさせていただきます」
「え? 即答なん?」

私の即答に市丸さんが軽く驚く。
そんなの当たり前じゃないか。明確すぎる環境の変化に加えて、力までくれるんだよ? 乗らないでどうするって話だ。退屈だった私にとって、これほど魅力的な提案はない。
それに今、藍染さんはバラガンの城であったはずの『虚夜宮(ラス・ノーチェス)を「僕の城」と呼んだ。ということはそのバラガンを下した、または、屈服させたと考えるのが当然。しかし、あのバラガンが簡単にやられるはずはない。ということは、バラガンを配下に置いたと考えるべきだ。あのバラガン(お爺ちゃん)を屈服させているとはね……ますます楽しそうじゃないか。
しかも虚夜宮(そこ)にはバラガン以外にも私と同じ最上級大虚(ヴァストローデ)がいるのだろうか。私のような最上級大虚(ヴァストローデ)を探し求めて勧誘しているんだ。いると考えていいだろう。本当に楽しそうだ。私の本性が出ちゃうよ。
この藍染って男は怪しさ満点だが、少なくともこちらが裏切らない限りはこっちに刃を向けやしないだろう。藍染に対しては絶対的な身の保証までされるんだ。あとはあくまでも自己責任。これは今までと同じ要領でやっていけばどうということはない。女だからと舐めてかかってきたら、喰らってやればいいし。
私は「敬語モード」に入る。飲み込んで部下になる以上、それなりの態度を取った方がいいと思ったからだ。

「話が早くて助かるよ。ありがとう」
「でも本当にいいのですか? こっちにいい条件ばかりのような気がしますが?」
「それくらい、君が僕達にとって貴重な存在というわけだよ。それに、君のような最上級大虚(強い虚)と友達になれると考えるならば、安い代償だと僕は考えているよ」
「そこまで私の実力を買っていただき、恐縮です。期待に応えられるように精一杯努力します」

そう言うと藍染()は嬉しいのか、いい手駒を見つけたことを喜んだのか、真意はよくわからないが頬笑む。
よくよく見れば、東仙さんは満足気に僅かばかり微笑んでいた。なんというか、誠実で真面目そうな人っぽいもんね。私のこの対応に感心してくれたのかな。それならいいな。出来るだけ楽しむためには、仲がいい人がいっぱいいた方がいいしね。
藍染様はそして立ち上がって私に手招きした。

「ついておいで。『虚夜宮《ラス・ノーチェス》に招くとともに、君にとってとても大切なことをするからね」
「大切なこと? アランカルとやらにしてくれることですか?」
「察しがよくて助かるよ。だけどもうひとつ、別の目的があるんだ」

「それはね」と藍染は眼鏡の奥の眼光を愉しそうに輝かせながら、言った。


「君には是非とも……十刃(エスパーダ)に就任して欲しいんだよ」




     ――To be continued…

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