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阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか) 本名:阿曽道昭。1974年9月12日生まれ、山形県出身。大川豊興業所属。趣味は、裁判傍聴、新興宗教一般。チャームポイントはひげ、スカート。主な著書に「裁判大噴火」「被告人前へ。」(河出書房)「裁判狂時代」「裁判狂事件簿」(河出文庫)、「被告人、もう一歩前へ。」(ゴマブックス)、「アホバカ裁判傍聴記」(創出版)。

大丈夫かなぁと思って郵便物を持ち帰ってました

12年11月20日 [22:27]

 今回は、先週火曜に行われた迫田洋之被告人の裁判傍聴記。罪名は、詐欺・窃盗・郵便法違反。事件の内容は逮捕時の記事から。

 郵便ハガキなど計264通を仕分けせず、自宅に持ち帰ったとして、郵便法違反の疑いで、郵便事業会社目黒支店社員・迫田洋之容疑者(51)を逮捕した。

 警視庁によると、迫田容疑者は、「仕分けがその日中に終らず、次の日の負担が大きくなるので持って帰った。捨ててはいない」と供述している。

 逮捕容疑は、2009年12月から2012年4月、郵便物を持ち帰り、自宅やリュックサックに隠し持っていた疑い。

 年賀状の季節になると、似たような事件は報じられたりするけど、ちょっと変わった内容の事件になります。

 まずは、10月9日の初公判。この日、起訴されたのは2件でした。1つは、今年の8月2日、東京都のスーパーで被告人が寿司に"レジにて半額"のシールを貼り、レジで944円分値引きで購入した詐欺罪の件。もう一つは、同時刻同店で焼酎1本(1980円)を盗んだ窃盗罪の件。

 報道された事件は初公判に間に合わなかったようです。

 検察官の冒頭陳述によると、被告人は毎月ちゃんと給料は貰っていたものの、毎月ケータイのゲーム代を払っていて経済的に困っていたという。

 そして、犯行当日。被告人はスーパーに入り、4リットル入りの焼酎を持っていたビニール袋に入れて、買い物カートにぶら下げて店内を見て回っていたらしい。鮮魚売り場で、"レジにて半額"のシールが貼ってある商品を見つけた被告人は、シール4枚を剥がし、定価で売っていた寿司のパックに貼り替え、レジで精算したとのこと。店を出たところで、警備員が被告人に声を掛け、取り押さえたというのが事件の詳細です。

 初公判は、これにて閉廷。

 そして、先週火曜に行われた第2回公判。この日、起訴されたのも2件でした。1つ目は平成21年12月14日~平成24年4月2日の間、被告人が勤めていた目黒区内の郵便局から、計239通の郵便物を自宅に持ち帰った件。もう1つは、8月2日に郵便物25通を持ち出し、リュックサック内に隠し持った件。

 検察官の冒頭陳述によると、被告人は郵便局内で、機械で住所が読み込めなかったハガキなどを地域ごとにまとめる"仕分け"の作業をしていたらしい。その仕分けがその日のうちに終らないと、作業が翌日に上乗せされるので、被告人の仕事は慢性的にたまっていたとのこと。そこで被告人は、仕事を早く終らせるため、平成20年から郵便物を隠すようになったという。

 8月2日に詐欺と窃盗で逮捕された際、リュックに郵便物25通が入っていたので、事件が発覚したというのが詳細になります。

 ちなみに、被告人の自宅には335通に郵便物があったけど、時効の都合で239通が起訴。一番古い物は平成20年7月21日の消印が捺してあったとのこと。

 そして、被告人質問。まずは、弁護人から。

弁護人「なぜ、半額シールを貼り替えたんですか?」
被告人「生活に困っていたので......」
弁護人「ちゃんと働いて給料貰ってたでしょ?」
被告人「家賃や光熱費、借金の返済、妻への仕送りなどで、手元に残るのは月4万円でした」
取調べではケータイ代って答えてた話なんだけど、それは後で検察官に厳しく質問されることに。

弁護人「ハガキの持ち帰りは何回やりました?」
被告人「正確な回数は覚えてません」
弁護人「10回以上?」
被告人「はい。もっとあったと思います」
弁護人「20回以上?」
被告人「そんなにはない思います」
今回、リュックに入っていたのと同数程度の持ち帰りをちょくちょくしていた状況のようですね。

弁護人「先ほどの冒頭陳述で検察官が朗読してましたが、仕分けが終らないと翌日分の仕事に上乗せになると。なぜ、終らないの?」
被告人「仕事が遅かったので......」
弁護人「誰かに相談は?」
被告人「上司に言ったら、時間内に終らせろと」
弁護人「無理だから持ち帰ったんでしょ。量を減らしてもらおうとか、長時間働くとかは?」
被告人「残業等は認められませんでした」
仕事量は減らしてもらえず、延長しての作業も禁止。日々、残った業務が上乗せされて焦ったんだろうけど、持ち帰ったハガキが20通程度ってのは、どういうことなんだろう? 忙しかったのかと推測できるけど。20通の持ち帰りでなんとかなったのは、仕分け作業が想像以上に時間のかかる仕事なのか、被告人の仕事が余程遅いのかどちらかでしょうね。

弁護人「あなたは謝罪文を538通書いていますが、上司にも書いたのはなぜですか?」
被告人「私の代わりにひとりひとりに謝罪に行ってもらってますので」
弁護人「あとは、あなたが持ち帰った郵便物の差出人と受取人にも書いたと。本件を知って、どう思ってるでしょう?」
被告人「真心込めたハガキが届かないと知って、頭にくると思います」
これだけの人数に謝罪文を書いている被告人は初めて見ました。特に、受取人は届くはずのハガキが届かずに謝罪文が届いているわけで、これ以上ない驚きの展開でしょうね。

 次は、検察官から。

検察官「毎月ケータイ代はいくらでした?」
被告人「2~4万円です」
検察官「取調べではもっと多いと言ってませんでしたか?」
被告人「多い時で、8~11万円位と」
検察官「何でそんなに?」
被告人「サイト見たり、通話したり......」
検察官「サイトって?」
被告人「ゲームサイトとかを見たり......」
検察官「お金使うってのは具体的に何ですか?」
被告人「サイトに繋ぐので......」
ん? 今年問題になったコンプガチャとかアイテム課金が膨らんで数万円って話じゃなく、ゲームサイトに接続した値段? どういうことだ?
検察官「え?......ん?なになに、ネットの使い放題の契約はしてないの?」
被告人「してませんでした」
え? なにそれ? パケ放題的なやつって、どの会社も数千円でしょ。

検察官「ちなみに通話っていうのは?」
被告人「妻が海外で入院してますので」
検察官「サイトと通話どっちが多いの?」
被告人「7:3でサイトの方ですね」
検察官「じゃあ、ゲームやめれば生活費の足しになりますよね?」
被告人「お金的に大丈夫かなぁ、と」
検察官「いやいや......、万引きまでして、大丈夫じゃないと思いますよ。ケータイもすぐに料金プランの変更できますよね?」
被告人「料金的に大丈夫かなぁと」
検察官「いやいや......大丈夫じゃないですよね」
この被告人のポジティブシンキングっぷり。「大丈夫かなぁと」が口癖のように思えてきます。

検察官「どうやっても仕事が終らなかったと。上司にちゃんと相談しました?」
被告人「一度しかしてません」
検察官「一度しかしなかったのは何故です?」
被告人「これでいこう、と」
検察官「でも、隠さなきゃいけないほどの仕事量なんでしょう?」
被告人「これで毎日やってるので、大丈夫かなぁと」
検察官「ハガキ持ち帰って、何が大丈夫なんですか!」
と、激怒されたところで質問終了。

 最後は、裁判官から。

裁判官「今後、ケータイのゲームはどうしますか?」
被告人「もうケータイは使いません。やめます」
と、脱ケータイ宣言して質問終了でした。

 この後、検察官が懲役1年6月を求刑して、閉廷。

 仕事も金銭もうまくいってないのに、「大丈夫かなぁと」言える被告人は、人生を達観してるのか鈍感なのか。

 どうでもいいけど、個人的には友人が絶対ポストに入れたと言っている一昨年の年賀状は未だに届いていないし、4年位前にラジオの取材先からラジオ局に送ったハガキも届かなかったんだよなぁ。一体、どうなってるんだろ? そのうち届くのかね。重要なものでもないし、特に届かなくても大丈夫かなぁと。

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