企業の社会的責任(以下、CSR)とは、企業が利潤の追求のみならず、社会へ与える影響を理解したうえで各ステークフォルダーに対して誠意をもった責任を果たすことを意味します。
ステークフォルダーとは投資家、債権者、顧客、取引先、従業員、地域社会、社会全体のことをさし、企業の事業活動はステークフォルダーに対して行うものであり、故に説明責任があり、それができなければ社会的信用が得られないため存在価値や存在意義がないという考え方が根底には存在します。
ステークフォルダーとは投資家、債権者、顧客、取引先、従業員、地域社会、社会全体のことをさし、企業の事業活動はステークフォルダーに対して行うものであり、故に説明責任があり、それができなければ社会的信用が得られないため存在価値や存在意義がないという考え方が根底には存在します。
●CSRを高める契機となった事件
CSR活動は80年代には欧米の大手企業を中心に取組みが行われていました。82年にある事件が米国を震撼させます。ジョンソン・エンド・ジョンソン社(以下、J&J)が発売する解熱鎮痛剤タイレノールに起因したタイレノール事件です。
タイレノール事件とは、82年9月29日にイリノイ州シカゴ市で発生しました。近隣住民がタイレノールを服用したところ、7名が亡くなるという痛ましい事態にまで発展します。その後、J&Jには、シカゴ・サンタイムズ紙から、シアン化合物が混入されたという情報がもたらされます。
J&Jの対応は素早く、情報がもたらされたのちに、メディアに対して積極的な情報公開をおこないます。当時では未だ目新しかった衛星放送、専用ダイアル設置、主要新聞での広告、TV放送、ラジオ放送などのあらゆる対策を迅速におこないました。その後、社内に特別委員会を設置して、全商品の回収、製造販売の無期限停止をおこないます。
また、原因特定のための最高権限を第三者機関に与えて、あらゆる調査権限を委ねました。商品が製造される製造ラインには企業秘密や特許技術が反映されていることが少なくありません。外部機関に調査権限を委ねることは企業秘密を開示することにもつながりますが、この重要な決定を速やかにくだします。
その後、毒物の混入ルートが判明することでJ&Jの対応は高い評価をされることになります。事故発生後約3ヵ月後の82年12月には事件前の売上の約8割迄回復することになり、国民がJ&Jの対応を好感した結果とも言われています。
●ミッションの本質を理解する
これらの対応のベースにはJ&Jのミッションである「我が信条」の存在が大きかったことが知られています。「我が信条」のなかでは、同指針に賛同することができない人は、J&Jで働くことができないことが明示されており、社員の日々の行動や判断の拠り所となっていることが理解できます。
ピーター・ドラッカーは「ミッションをもつことは、激動の世の中はますます重要となる。世界がどう変わろうとも、人は、誇りあるものの一員たることを必要とする。人生と仕事に意味を必要とする。絆と信条の共有を必要とする」と述べています(非営利組織の経営)。
これは、組織とは個人の集合体であり、組織に所属する各々が、ミッションを理解して行動し働くことで成果があがるものであり、ミッションに基づいた成果は豊かな生活と社会を生み出していくというものです。
なお、ミッションや価値観は、それがあるからと言って自動的に浸透していくものではありません。仮に素晴らしいミッションであっても、その重要性や価値を理解できなければ浸透はしません。ミッションに基づいた考え方や行動は、その役割と使命を理解した時にはじめて浸透していくものです。
●読者への示唆
企業が速やかな意思決定や迅速な対応をおこなうには、ミッションが必要です。ミッションは、企業の活動の原泉そのものだからです。2000年代初め、コンサルティング会社を中心にトリプルボトムラインという考え方が広まりました。企業の社会的責任は収益性と両立するとの考え方で、社会との調和を目指すことが、差別化や優位性につながるというものです。
現在、大手メディアや大企業の社会的責任が問われています。いま一度、自社のミッションを見直しながら再定義をする作業が必要なのかも知れません。
尾藤克之
経営コンサルタント
CSR活動は80年代には欧米の大手企業を中心に取組みが行われていました。82年にある事件が米国を震撼させます。ジョンソン・エンド・ジョンソン社(以下、J&J)が発売する解熱鎮痛剤タイレノールに起因したタイレノール事件です。
タイレノール事件とは、82年9月29日にイリノイ州シカゴ市で発生しました。近隣住民がタイレノールを服用したところ、7名が亡くなるという痛ましい事態にまで発展します。その後、J&Jには、シカゴ・サンタイムズ紙から、シアン化合物が混入されたという情報がもたらされます。
J&Jの対応は素早く、情報がもたらされたのちに、メディアに対して積極的な情報公開をおこないます。当時では未だ目新しかった衛星放送、専用ダイアル設置、主要新聞での広告、TV放送、ラジオ放送などのあらゆる対策を迅速におこないました。その後、社内に特別委員会を設置して、全商品の回収、製造販売の無期限停止をおこないます。
また、原因特定のための最高権限を第三者機関に与えて、あらゆる調査権限を委ねました。商品が製造される製造ラインには企業秘密や特許技術が反映されていることが少なくありません。外部機関に調査権限を委ねることは企業秘密を開示することにもつながりますが、この重要な決定を速やかにくだします。
その後、毒物の混入ルートが判明することでJ&Jの対応は高い評価をされることになります。事故発生後約3ヵ月後の82年12月には事件前の売上の約8割迄回復することになり、国民がJ&Jの対応を好感した結果とも言われています。
●ミッションの本質を理解する
これらの対応のベースにはJ&Jのミッションである「我が信条」の存在が大きかったことが知られています。「我が信条」のなかでは、同指針に賛同することができない人は、J&Jで働くことができないことが明示されており、社員の日々の行動や判断の拠り所となっていることが理解できます。
ピーター・ドラッカーは「ミッションをもつことは、激動の世の中はますます重要となる。世界がどう変わろうとも、人は、誇りあるものの一員たることを必要とする。人生と仕事に意味を必要とする。絆と信条の共有を必要とする」と述べています(非営利組織の経営)。
これは、組織とは個人の集合体であり、組織に所属する各々が、ミッションを理解して行動し働くことで成果があがるものであり、ミッションに基づいた成果は豊かな生活と社会を生み出していくというものです。
なお、ミッションや価値観は、それがあるからと言って自動的に浸透していくものではありません。仮に素晴らしいミッションであっても、その重要性や価値を理解できなければ浸透はしません。ミッションに基づいた考え方や行動は、その役割と使命を理解した時にはじめて浸透していくものです。
●読者への示唆
企業が速やかな意思決定や迅速な対応をおこなうには、ミッションが必要です。ミッションは、企業の活動の原泉そのものだからです。2000年代初め、コンサルティング会社を中心にトリプルボトムラインという考え方が広まりました。企業の社会的責任は収益性と両立するとの考え方で、社会との調和を目指すことが、差別化や優位性につながるというものです。
現在、大手メディアや大企業の社会的責任が問われています。いま一度、自社のミッションを見直しながら再定義をする作業が必要なのかも知れません。
尾藤克之
経営コンサルタント