惑わす者
アバターが語った、旭人の新しい能力。
それは異様という他はなかった。
―― 幻惑 ――
それが目覚めた特殊能力であった。
催眠術なら単体――つまり個人にしか掛ける事ができない。
もちろん集団に掛ける事もできるが、大がかりな装置を準備しなければいけない。
しかし、幻惑は違う。集団催眠などというちゃちな物とは程度が違うのだ。
全ての物を欺く。そして惑わせる。
それ自体が本物であると、各々自らが思い込むのだ。
思い込ませる催眠術――暗示とは根本が異なる。
つまり、どういうことかと言うと。旭人自体が幻惑の源となる――それが新しい力なのだ。
「ま、お前が注文したカラコンとヘアカラー……無駄になったな」
「そ、そうか……確かに誤魔化す必要がなくなるのなら、いらないだろうな」
キャンセルまたはクーリングオフについて、後で調べなければいけない。
だが、今はそんなことはどうでもいい。
「それで、能力の規模はどのくらいなんだ? あと使い方も」
そう、それこそ大事。概念を具象する力――サイコキネシスの大本とは違い、使い方が理解できないのだ。
考えるだけでいいのだろうか。それとも手続きが必要なのか。
どちらにしても、見た事もない力を把握するなど不可能に近い。
「使い方……使い方なぁ……ぶっちゃげフェロモン?」
「はぁ?」
「いや、説明が難しいんだよな。
第一、お前が悪いんだぞ。お前の語彙力がないせいで説明が難しくなるんだからな」
確かにそうだ。アバターは起動するまでの旭人に従って構成される。寝るまでに蓄えた知識でしかアバターは説明する事はできない。
ただし、自らの能力を除いて……だが。
「う~ん。香りというか雰囲気というか……
たとえば、抽象的にオーラを感じるとかあるだろ?」
「飛龍みたいなやつか?」
「おい、本気で言ってるのか?」
もちろん、ジョークだが……あれは抽象的ではなく物理的に近い。
「時間を取らせるなよ、ったく……」
これも先ほどからかわれた分をやり返したに過ぎない。自分の分身だろうが、気にくわないものは気にくわないのだ。
「悪いな。続けてくれ」
「……まあ、いい。
あいつは何かやってくれる。あっちのやつは何か死にそうだ……とか」
「フラグってやつか?」
「ああ、それに近いかもな。あれは表現が難しいから、台詞で何とかしているような物だからな」
そこまで言われれば、なんとなくだが理解できた。
つまり――
「身体全てが発動体……」
「そう、つまり常時発動だ! それも効果が任意のな!」
それは凄い事だ。発動が理解できなければ、対抗する手段など無いのだから。
とはいえ、抵抗されたら効果はあらわれない、と考えた方がいいだろう。
それを相手に隠され、利用されたらしっぺ返しを受けることも考えられる。
「諸刃の剣ってやつだな」
「――それが理解できてるなら、特に注意することはないな」
「そして効果範囲は俺を視認できる領域全て。そう言う事だな?」
「ああ、その通りだ。問題は効果の威力の方だ」
惑わす力が皆無なら騙されない……ということだろう。
「――ん? 待てよ?
それだと、髪の色とか今は誤魔化せない可能性が高いんじゃないか?」
「今日、俺に勝てれば可能だと思うぜ……」
「そういうことか……
そうそう上手く事が運ぶとは、思っていなかったけどな」
そしてこの日、旭人はアバターに敗れる事になる。
彼はいつも通りアバターの裏をかこうとしただけ。
しかしアバターは、新たな力――幻惑を早速利用してきたのだ。
旭人の気を引くため、不自然な物を視界に生み出した。
抵抗することは可能だ。そうすることで、それが消えてなくなる。
だが、その間に隙が出来てしまうだろう……
とはいえ、そう簡単に引っ掛かるほど、旭人も単純ではなかった。
いかにも不自然なのだ。幻惑されたところで無視をすればいいだけのこと。
そしてしばらくは膠着状態にあった。そんなときアバターが幻惑の使い方を変化させたのだ。
いや、使わなくなったと言った方がいいだろう。
旭人には幻惑の効果がないと、アバターが諦めたものと思い込んでしまった。
もちろん注意はしていた。けれど撃ち合いのさなか、今までのパターンしか記憶していなかったのだ。
だから違う使い方をされてぼろが出た。
アバターは攻撃のフェイントを幻惑で使ってきた。いや、フェイントと言っていいのか判断に悩むところであった。
旭人からしてみれば、それは紛れもない攻撃なのだ。
しかし、防御してみればそれは虚像。その後の本命の一撃にやられてしまった――というわけだ。
旭人を倒したアバターは、[種]にポイントを注ぎ込んだ。
大玉にして6つ。それが今日の生み出されたポイントである。
サイキック能力で生活することで40、アバターと戦うことで10。さらに10増えたということは、無意識で幻惑を使っていたからだろうか。
しかし、効果を認識しなかった。そのことで、どのような幻惑を生み出していたかは不明であるが……
どちらにしても、アバターは意地悪することなく、[種]に使ってくれた。それは旭人にとってありがたい事であった。
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