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緩やかな闇 作者:ゆいりん

ACT2

2

 淡いピンクの地に、細かい花の模様が裾のラインに流れているタイプのものは、どっちかつーと少女趣味の気がみえる。
 襟刳りは、フリルっぽくなって広がっているから…スカーフか何かで誤魔化せばいいし。ウエストは、脇に付いているリボンを絞ればいいことだ。
 まったくよぅ。こんなタイプのワンピースを俺が着るわけないのに、なんだってこんなものを選んでくれたのかねぇ。
「…似合わなかったら、俺も進めないけどさあ。絶対ばれないと思うんだがぁ…やっぱ、駄目か?」
 わざと持ち上げたワンピースと朔馬少年の顔を見比べながら、俺は訴えかけるように視線を向ける。
「…西院寺も、女のカッコウするのか」
「俺? いや、このままで行くつもりだけど」
「そんな、ずるいっ!」
 ずるいって、お前なぁ…
「だって、俺の店の姿見られているかもしれないんだろう? だったら普段着の方が、見られていないから都合いいじゃん。論理は、朔馬くんの変装と一緒。ずるくないだろ」
 あらら、ふくれてる。ふくれてる。
 分かってないねえ。女装を変装って言っている俺のきの使い方が。ま、なんだかんだって言っても、朔馬少年は子供だもんな。
 ふむ。それじゃあ、攻め方を変えてみますか。
 俺は、さっきから朔馬少年腕の中でジッとしているナキの方へ指先を差し出した。
「なあ。ナキは、どう思う? やっぱ、変装した方がいいと思うだろう?」
 くりくりと顎の下を擽ると、気持ち良さそうに目を細めてくる。
 その様に、朔馬少年はひどくびっくりしたように目を見張り、まじまじと俺の顔を見上げてくる。
 な、なんだよ。ナキに触ったらいけなかったか? そりゃあ。初めて会ったときは、噛み付かれちゃったけど、あれは朔馬少年を護る為の行為で、俺は別になんとも思ってないぞぅ。だから、触るのも嫌じゃないし。どっちかっていうと、小動物は好きな方なほうだし。
「…絶対、ボクだって分からない?」
 心なしか剣がとれた呟きが、その口から漏れてきた。
 おっ? 心境の変化か?
「相手の目をごまかすためなんだよね」
 そうだ。と、頷く俺。
「…間違っても、面白そうだとか遊び心で女のカッコウにさせようって、思っていないんだよな」
 も…っ、勿論にきまっているじゃあないか。ははは…
「分かった。西院寺の言うとおりにする。髪の毛、染めてもいいよ」
 そう言って、朔馬少年は俺が取り上げていたワンピースの裾へと、溜め息混じりに指をのばしたのだった。
 しかし、事はそんなに上手く運ばなかった。どうにかこうにかカタチを造って玄関を開けた途端、俺達の前にデーンと真っ黒な車が乗り付けられていたのだった。



 玄関を開けたその場所に、恐ろしく場違いな車が横付けされていた。
「なんだこりゃ?」
 俺が、思わずそう呟いたのも分かってもらいたい。
 なにせ、待遇はいいと言っても、所詮は古目のアパート。少々くたびれた風合いの建築物である。その一般庶民の生活範囲に、いかにも別世界の住人と言えそうな面構えをしている連中が立っていれば、俺でなくても呆然としてしまうと言うものだろう。しかも、場違いをかもし出す車は、真っ黒な外車。目立つことこの上もない。加えて、立ち並ぶ輩も黒一色のいでたち。何かの映画に出てきそうな定番の服装である。
 と…その中に、一際視線を引く姿が現われた。そう、車からのご登場である。
「初めましてと、言うべきかな?」
 女が喜びそうな甘い声を発したその登場人物は、男の俺から見ても文句無しの美形だった。
 着方によっては、ダサくなってしまう藤色のスーツをそつなく着こなし、女性よりも莫大な費用を掛けているだろうと思わせる長髪を、嫌味なほど優雅に背中へと広げていた。 あーあ、まったくもう。いるんだよな。こういう奴って。
 切れ長の目も、高い鼻筋も、シニカルな笑みを浮かべる口元も、女の方々にはたまらなく魅力的に見えるという輩。スパイス的にワルっぽく見えるから、余計に気持ちが動くというものだろう。マコママや店のオネーサン達だって、垂涎すいぜんものだろう。
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