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コントラクト 2 -魂の契約- 作者:芥木章

フォルダ2 アリスと白兎

FILE-25 Cunning  [狡猾]


          シュヴァリエの活動報告及びエルメスの行動報告





 連戦連敗。ただいま10連敗中。どんだけだよ。


「チェックメイト」
「イヤー! また負けた!」
「エルメス様、相変わらずチェス弱過ぎです」
「ランスが強いんだよ」
「確かにそうですが、僕も手加減してるんですけど」
「そんな真実聞きたくなかった・・・」



 11歳のガキにチェスで全敗と言う結果に打ちひしがれるエルメス。今まで何度も挑んで一度も勝てたことがないらしい。やっぱバカだ。

 チェスは知恵を図るゲーム。正直エルメスに一番向いてないゲームと言える。エルメスにはジェンガあたりがお似合いだ。


「お前向いてねーんだよ。諦めろ」
「だって1回くらい勝ちたいじゃん」
「手加減してもらって負けてる奴がよく言うよ。お前にはムリムリ」
「じゃぁカイなら勝てるの?」

 エルメスの言葉にランスはギッと俺を睨みつける。なんだそれは、やる気満々か。


「ランスごときに俺が負けるわけねぇだろ」
「じゃぁ私の代わりにやって!」
「いーけど、圧倒的に勝ったりしたらランス泣くかもしんねぇしなぁ」
「誰が! 絶対勝つ!」
「言っとくけど手加減しねぇぞ」
「望むところだ!」


 というわけで、なんか俺とランスで対決することになった。

 ランスは11歳にしてエルメスを全敗させるだけあって、なかなかやりこんでいるらしい。まぁ、エルメスが弱いだけだけど。で、結果。



「チェックメイト」
「うわー! ウソだ!」
「ハハハハ、俺に勝とうなんて100年早えぇ」
「カイすごーい! 強いね!」
「いや、ランスもなかなか強い。でも、俺の方がもっと強い」
「マジあり得ない・・・こんな野蛮人に・・・」
「言っとくが俺は頭脳派だ。お前はやる方だけど、狡猾さに欠けるな。まだまだガキだ」
「くっそー!」
「親子対決はやっぱりパパの勝ちだな」


 「親子対決」? 親子じゃねぇ。ふざけんな。でも悔しがるランス、いいもの見れた。
 俺とランスのチェス勝負を面白がっていつの間にかシュヴァリエの奴らやシャンティ達も観戦してた。



「ていうか、カイは大人げないな。ランス相手に本気出して」
「うるせぇ。俺はウサギを狩るのにも全力を尽くす獅子のような男なの」
「場合によってはそれってバカだよ」
「うるっせぇな! バカ女に言われる筋合いねぇんだよ!」
「自分だってバカのくせに! ミナ様の命令だってロクに聞けないバカじゃん!」
「聞いてるよ! つーかエルメスのは命令じゃなくてただの我儘じゃねぇか! 俺は十分に聞いてますけど!」
「全然足りない。ミナ様の前に跪いて靴舐めろ」
「舐めるか! ふざけんな!」
「俺らは靴以外ならどこでも舐めるよ」
「うわ! やめろ、お前ら! エルメスを変な目で見るな!」
「アンタの部下も最低だね」
「“も”じゃねぇ、“は”だろ!」
「“も”だよ」


 全く、ムカつくバカ女とバカなシュヴァリエのせいで勝利の余韻はどっか行っちまったよ。エルメスは突然のセクハラ発言に困ってるし。可哀想に。
 エルメスをディフェンスしながらシュヴァリエ達に向いた。とりあえず、コイツらにもう一度釘を刺しておかねば。


「テメェら、俺のエルメスに指一本でも触れたらブッ殺すぞ」
「副長のじゃねぇじゃん」
「あ、間違えた。アーサーのエルメスに・・・」
「今更言い直しても遅えぇよ」


 痛恨のミス! 一番言ってはいけないことを公然と言い放ってしまった俺、残念! 一瞬激しく動揺したけど、今後の展開は予想できた。次のコイツらの言葉に期待。


「極度のシスコンだな」


 ホラ来た! よっしゃ! 神様ありがとう! 思わずガッツポーズしそうになる俺。
 シュヴァリエ達は一斉にシスコンコールを送り始めるけど、今回ばかりは全許し。敢えてその言葉を飲み込もう。


「カイ、もう否定しないの?」


 シスコン呼ばわりされて安心する俺に、微妙に痛いところを突いてきやがる俺のエルメス。が、そこも計算済みだ。

「いや、認めてねぇけど。いい加減反論するのに疲れたから、もう好きにさせる。勝手に言ってりゃいいんじゃね」
「あぁ、そうだね」


 クリアー! さっすが俺! なんで俺こんなに機転がきくんだろ、本当。マジ俺の脳は完璧だな。本当神はスゲェな。俺のような完璧な存在を作り出すなんて、本当俺スゲェ。
 しかし、エルメスは俺の脳を凌駕するほどの爆弾を投下する。


「ねぇ、私カイのなの?」
「え! い、え、えー・・・いや、違えぇよ。お前はアーサーのだ」
「でもさっき俺のって言った」
「あー・・・それはお前アレだよ。俺の友達ってことだ」
「そうなの?」
「そうだ。つーかそれ以外に何があるわけ?」
「・・・まぁ、そうですね」
「そうですよ」


 うっわ、微妙。エルメスは「なんっか釈然としないなぁ」みたいな納得できないみたいな顔してやがる。
 チクショー、俺はまだ修行が足りないのか。人生経験と言う名の修行が足りないのか。もう45だというのにまだ足りてねぇのか。つーか、良く考えたら今までこんなトラブルなかったからなぁ。しょうがねぇ。俺は悪くねぇ。ジュリオ様のせいだ。

 困ったことが起きたら全部ジュリオ様のせいだ。これでオッケイ。


 とりあえず、場の空気を入れ替える為に以前から気になってたことをシャンティに相談してみることにした。


「つーかお前らさぁ、いつまでミナって呼ぶ気だよ。もう今はエルメスなんだからエルメスって呼べ。アーサーも」
「なんでアンタにそんな事言われなきゃいけないわけ? ミナ様はミナ様じゃん」
「そりゃそうだけど。状況的に見てそれがマズそうだから言ってんの」
「なんでマズイの?」
「今俺らは逃亡中の身。エルメス達がインドにいた頃の事は調査でわかってる。一応死んだことにしてるし、城を焼いてきたから報告書なんかも燃えちまってると思うが、逃亡したことが発覚しないとも言い切れない。もし逃亡先としてここが怪しいってことになって、そん時調査員たちが俺達とアーサーやエルメスの名を聞いたら、お前らごと抹殺だ」
「それはいくらなんでも心配しすぎじゃないの?」
「しすぎるに越したことはねぇ。一応データも消したらしいし、その可能性は低いとは思うけど念のためだ。イスラムの奴らの事もあるし、こっちは生死がかかってんだからな」
「うーん、そっか。それもそうだな、わかった」


 何とかシャンティが納得してくれた。ずっとこの事は気にかかってたけど、アイツらはミナと伯爵を崇拝してたわけだし、その気持ちを無下にするのも可哀想な気はしたからな。
 でも、命には代えられねぇし、何よりシャンティ達まで死ぬようなことになったら大変どころの騒ぎじゃねぇ。

 とりあえず、納得してくれてよかった、と思ってたらシャンティが何か思いついたような顔をしてもう一度俺に振り向いた。


「でもさ、いくら名前変えたって、顔変えなきゃ見つかったらアウトじゃん?」
「そう、確かにそうなんだよな。でもこん中で顔変えられんのはエルメスとリオしかいねぇからなぁ」
「え? リオ顔変えられたの?」
「エルメス知らなかったっけ? なんか知らんけどアイツはそれができたから、潜入とかさせてたんだけど」
「あー、そうだったんだ。知らなかった」
「それよりどうすっかなぁ。うーん、なんとか頑張って変身能力を開発するか・・・難しいな。じゃぁ整形? いや、俺の美しい顔に傷をつけるなんざ許せん。大体手術中に元に戻りそうだな」
「何言ってんのアンタ・・・ていうか、アンタら目立つんだよ」
「だろうな。主に俺が美しいから」
「違えぇよ! 全員金髪だからだよ!」
「あぁ、そういえば。じゃぁとりあえず髪色を変えよう」


 というわけで、何色がいいかそれぞれアンケートを取ることに。エルメスとリオは除外。ランスもまだ子供だし除外。俺を含め、残りの10人の意見を紙に書かせた。


俺   「黒が1人、ブラウン1人、ライトブラウン3人、ベージュ2人、アッシュ? こいつは却下」
トリス 「なんで!?」
俺   「俺とカブるからダメ。それともお前俺に憧れてんの?」
トリス 「違えぇし! もう、じゃぁベージュでいい!」
俺   「じゃあベージュ3人・・・オイ、ブリーチって書いた奴誰だ」
パーシー「俺俺! プラチナブロンド目指す!」
俺   「テメェ相変わらずクリシュナさん目指してんのか。身の程を知れっつたのを忘れたか」
パーシー「えぇ!? 違うのに・・・じゃぁもう黒でいい」
俺   「えれぇ極端だな。じゃ、黒が2と。とりあえずこれで全員だな」
ペレアス「ん? 数が合わねぇぞ? あと一人足りなくないか?」
俺   「あぁ、俺は現状維持。俺はこの髪の色気に入ってるから」
キルシュ「えぇ!? 自分ばっかズリー!」
俺   「うるせぇ。俺は筆頭だからいいんだよ。さて、じゃぁ明日にでも買いに行くとするか。オイ、チャラ男3兄弟、お前ら暇だろ。明日行って来い」
キルシュ「自分だってヒマなくせに・・・」


 シュヴァリエ達はなんかブーブー言ってたが知ったこっちゃねぇ。一人くらい現状維持がいても問題ねぇ。それが俺なら尚更問題ねぇ。
 でも、この3人に行かせたのは俺の大失策だった。


 翌日、屋敷に立ち込める異臭から逃げるように部屋から出てエルメスと二人リビングでテレビを見ていると、急にチャラ男3兄弟が全速力で降りてきた。


キルシュ「敵を補足! 確保!」
パーシー「ヤー!」
リオ  「神妙にお縄に着きやがれ!」
俺   「は!? うわ、離せぇぇぇぇ!」


 3兄弟に強制連行されてキルシュの部屋に連れ込まれた俺は、パーシーとリオに床に組み伏せられるという無残な姿に。


「てめーら何すんだ! 離せ!」
「フハハハ、副長殿、そろそろ年貢の納め時ですよ」

 そう言ったキルシュがプラスチックの容器を一生懸命シャカシャカ振っている。


「え、ちょ、マジ、マジやめろ」
「さーてコレは何色でしょう? 当てたらやめてもいいけど」
「ブラウン!」
「残念!」
「ギャァァァァ!」


 キルシュはそりゃもう嬉しそうに笑いながら答えを外した俺の頭の上に、ドバドバとカラーリング剤をブッかけた。
 あぁ、これがついてしまったら染めねぇわけにいかねぇじゃねぇか。チクショー、クッソー! くせぇぇぇ!


 そして放置すること30分後。


キルシュ「さぁ、カイくんお風呂いこっかぁ」
パーシー「お兄ちゃん達がキレーキレーしてあげるからねー」
俺   「テメェらマジ覚えてろよ、マジぶっ殺す」


 相変わらず捕まったまま今度は風呂場に強制連行。浴室に入ると、そのままシャワーをぶっかけられる。


リオ  「ちょっと、俺にも水が飛ぶんだけど」
俺   「つーか普通頭にだけかけるだろ! 服ビショビショじゃねぇか! 着替え持って来い!」
キルシュ「自分で取りに行けば?」
俺   「マジ殺す・・・って、あー! 服に色移ってんじゃねーか! 俺のアルマーニ・・・テメェらマジ・・・マジ殺す!」
パーシー「ハイハイ、シャンプーするからじっとして。お客様おかゆいところございませんかー?」
俺   「お前らの存在が歯がゆいわ!」


 捕まったまま頭まで洗われた上にドライヤーまでご丁寧に掛けられた。ドライヤーの風になびく前髪を見て俺超ショックを受ける。


俺   「マジ・・・黒?」
リオ  「カッコいいよ」
キルシュ「似合ってる似合ってる」
パーシー「すげぇ副長っぽい。超ロック」
俺   「あり得ねぇ・・・黒とかマジあり得ねぇ。確かに俺はロックでニヒルなイケメンだけど、黒はねぇよ。黒はねぇ」
キルシュ「イヤイヤ、俺の見立てに狂いはなかったね」
俺   「主犯はお前か。覚えとけよ」


 で、そのまま引きずられて再びリビングへ。未だテレビに夢中なエルメスの隣に放り投げて、3兄弟は全力でその場から逃走した。


「クソ! アイツらブッ殺す!」

 すぐに追いかけようとして起き上がると、エルメスに腕を掴まれた。


「カイも髪染めたの?」
「アイツらに染められたんだよ!」
「カッコいいよ」
「そりゃ俺は何してもカッコいいけど! でも黒は俺の中では想定外だ! 黒はねぇ!」
「そんなことないよ。似合ってるよ、カッコいいよ」
「・・・・そーか?」
「うん。こっちの方がカイっぽくて好き」


 俺、撃沈。さすが媚びる女。男の喜びポイントをよくわかってる。あ、なるほど。アーサーはこの手管にやられたな。なるほど、良くわかった。

 とりあえず、エルメスに免じて3バカトリオは許してやることにした。で、服を着替えて再びリビングに降りると、他の染めた奴らもエルメスに報告していたようだ。


「みんなカッコイイ! ガラードはブラウンの方が似合うよー」
「そう? ありがとう」


 あのアマ! 誰にでも言いやがってムカつく! なんて打算的でズルい女だ! 
 瞬間的に相当キレて階段の手すりをボコボコにしてたら、後ろからランスが下りてきた。


「あれ? カイも染めたの?」
「不本意ながらな!」
「ふーん、似合ってるよ。超ダーク」
「ダーク!?」
「うん、すごい悪者っぽい」


 なんだろう、今日は本当になんなんだろう。なんで俺はこんなにイライラさせられるんだろう。
 微妙に反論する気力も起きなくて、ランスに手を引かれてリビングに降りると、シュヴァリエ達からもダークだの悪人だの怖いだの言われる始末。しかも最終的にそれが

「副長似合うー!」

 どういうことだよ。悪人ぽいのが似合うってどういうことだよ。俺は天使だぞ。ふざけんな。


「もぉ、カイ、そんなに落ち込むことないじゃない」
「落ち込んでねぇよ! 怒ってんだよ!」
「ちゃんと似合ってるよ?」
「それがムカつくんだよ!」
「なんで? ちょいワルっぽくてカッコイイよ」
「・・・ん?」
「なんか黒の方がミステリアスっぽくて、カッコイイ」
「まぁ、俺は何してもカッコいいからな」


 さすがエルメス。物は言いようとはこの事か。

悪人⇒☓  ちょいワル⇒〇 

 という図式が俺の中で確立してしまった。


キルシュ「ププ、見ろよ。あれ照れてんだぜ」
リオ  「俺らのお陰で大好きな妹チャンにカッコいいって言ってもらえたわけだし」
パーシー「むしろ俺らご褒美貰わなきゃいけないんじゃん」
俺   「そーだな。礼はキッチリ返してやる」
3兄弟 「ギャァァァァ!」

 やっぱ許せなかったからとりあえず殴った。次はコイツらピンクとかにしてやる。


「これでみんな変身完了だね。でも、くさい」


 顔の前でパタパタ手を振るエルメスに、リアルに落ち込んだ。

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