Act-4 シャルロット
翌朝。
余裕を持ってのんびり登校する。
「お?」
その道中、登校風景に見慣れないものを発見した。
まあこの町に来てまだ数日しか経ってないんだから見慣れないのは当然だけどそういう意味ではなく。
そしてその物珍しさは昨日の森嶋に対するようなネガティブなイメージではない。
むしろ逆。
背中まで届く鮮やかなブロンドが朝日に照らされてキラキラと輝く。
ブリーチが当たり前になった今の日本でもあれだけ見事な金髪はお目にかかれない。
あれが本場のナチュラルブロンドか。
制服からしても彼女が俺と同じ中学の生徒と見てまず間違いないだろう。
抜群に見栄えのいい後ろ姿を眺めながらせっかくだし挨拶の一つでも交わそうかと思案する。
だがしかし当然ながらあの少女とは初対面だ。
挨拶とは言え声をかけるのはなかなかにハードルが高い。せめて何かきっかけがないとな……。
まあ今無理に話しかけなくても同級生ならそのうちチャンスがあるよな、といかにもヘタレ的発想で速効諦めかけていると。
「ねぇ、そこにいるんでしょう?いつまでそうしているつもり?」
金髪の少女は突如足を止めて、しかし振り返ることをせず軽く空を仰いでそう言った。
「……あー、わりーな。ただ挨拶でもしようと思っただけなんだけど」
バッ。
弾かれたように少女が振り返る。
その顔は驚きに染められていた。そしてちょっと赤い。
「ワオ、マジで別嬪さん」
あまりの美貌に反応が意味もなくアメリカンナイズされてしまった。
しかしそんな馬鹿みたいなセリフにも少女はさらに赤面する。
その様子を見ながら俺は「外人なのに別嬪の意味知ってんだ」とか考えていた。
「~~~~ッ!」
ダッ。
「あー……」
顔を真っ赤にしたまま少女は走り去ってしまった。
悪いことしたかな。
それにしたって逃げることはないと思うけど。
「おい赤城!」
自称ライバル(笑)が現れた。
「人違いです」
「それはもういいんだよ。俺と勝負しろ!」
「イヤだけど」
「どっちが早く学校に着くか勝負だ!」
聞いちゃいねぇ。そしてなんだその幼稚な勝負は。
「オトナの中学生がそんな小学生みたいな真似できるかよ」
「んなことはどうでもいい。俺はお前に負けない」
「だから話を聞けって」
といってもどうせ断ってもしつこく食い下がってくるんだろう。
押し問答で朝から無駄な体力を使うくらいならさっさとやり過ごすことにした。
「――よーいドン」
不意を突き、堤を置いて走り出す。
「あ、おい待て!」
20メートルほど走って追い抜かれる。
俺は走るのをやめた。
それに気付かず堤はすごいスピードで遠ざかっていく。
さらば堤。
俺の中でアイツはすでに関わりたくない人間としてリストアップされているのだ。
ちなみにリストのトップは森嶋。
「おはよう、赤城くん。何してるの?」
堤を撒く間に抜き去っていたらしい梓ちゃんが不思議そうな顔をして話しかけてきた。
「梓ちゃんは心の清涼剤だなぁ」
「うん?」
ますます不思議そうな顔をして梓ちゃんは首を傾げた。
◇◇◇◇◇
そのまま梓ちゃんと肩を並べて登校することにした。
「ライバル?」
「そう。好敵手と書いてライバル」
「ちょっとアレな感じだね?」
「アレな感じだよな」
残念とか関わりたくないという意味合いのアレだ。
可能な限り顔を合わせたくない。
幸いそのまま堤とエンカウントすることなく教室にたどり着いた。
「シャル、おはよー」
教室に入るなり梓ちゃんが聞き慣れない単語を発する。
そこには先程走り去った金髪の少女がいた。
梓ちゃんの声に笑顔で振り返った彼女はその隣に立つ俺を見て目を丸くする。
「よ、さっきぶり。昨日転校してきた赤城悠介だ、よろしくな」
「…………」
「シャル?」
シャルは口をパクパクさせるばかりで言葉を継げられない。
「…わ……」
「「わ?」」
俺と梓ちゃんの声がハモる。
次の瞬間、シャルが爆発した。
「忘れろ~~~!」
「危ねっ!」
シャルが全力でスイングしたこん棒を紙一重で回避する。
耳元で鳴る風切り音がその威力の高さを教えてくれた。
「ってこん棒!?」
「こん棒じゃないわ!『デュランダル』よ!」
「名前はどうでもいい!」
なんでこんな物騒なモンを携帯してんだコイツ!
まさか海外の防犯グッズとかじゃないよな?
ひとまず追撃されない距離まで後ずさる。
「逃げるなぁ!」
「それは無茶な注文だ。殺す気かよ」
「殺しはしないわ。魔法でちょっと記憶を無くすだけだから」
魔法だと?まさかコイツもか?
「おい、一つ聞くぞ」
「何よ?」
「そのこん棒はなんだ?」
「だからこん棒じゃない!宝剣『デュランダル』よ!」
「どう見ても剣じゃなくて木の棒だけど」
「今は魔力を抑えるために力を封印してるの!プライマルモードじゃ魔法の杖としてしか使えないけどリリースすれば聖剣本来の――」
「待て待て待て」
頭が痛い。
そしてクラスメート達の視線も痛い。
「大丈夫よ、痛くないから」
野球のバット程のこん棒で2度3度と素振りしながらシャルがにじり寄ってくる。
嘘つけよ。絶対いてぇわ。
「だいたい消されるような記憶なくね?」
至極真っ当な疑問が頭を過る。
出会って10分足らずの間柄なんだけど。
「だってさっき、私の独り言を……!」
耳まで真っ赤にしながらシャルが俺を睨み付ける。
まさかあの空を仰ぎながら呟いてたやつか。俺の気配に気付いてたわけじゃないんだな。
あれが自分の世界に浸った行動だとしたら確かに目撃者を抹殺したくもなるだろう。
コイツは森嶋ほど振り切れてないらしい。とはいえ、だ。
「お前はクラスメート全員の記憶を消すつもりか?」
「へ?」
シャルが俺の視線を追いかけて振り替える。そこにあるのはクラスメート達のいたたまれない感を含んだ表情。
そりゃ“魔法”や“デュランダル”といった痛々しいフレーズを耳にすればそんな反応にもなろう。
「う……うわああああんっ!」
一拍の間を開けてから、シャルは両手で顔を押さえて教室を飛び出していった。どこ行くんだよ。
「……えーっと、アイツっていつもあんな感じなの?」
俺の問いかけにクラスメート達は一斉に首を縦に動かした。
……マジで?
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