閑話 その1 助祭 ライオネル・ブライアン
・二.五話とも零話とも位置づけしうる「閑話その1」です。
・今後出てくる予定の"二人"の顔見せ回です。
・今回は、主人公は出ません。
後で、"彼女"に聞いた話なのだが。
鉄馬が銀髪美少女に"戻る"前日の夜。
鉄馬の今後に、大きな影響を与えることとなる"ある人物達"が、成田空港で邂逅していた。
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「よう、ミルキィ先生、わざわざ出迎えご苦労さん」
"彼"は、鷹揚に手を掲げる。
2m近い長身に出っ張った腹。
これでも"彼"の出身地、アメリカでは痩せた方だというから救いがない。
脂のついた丸いサングラスの奥には獰猛で欲深な眼光。
無精髭を残した口元は、片側が釣り上がり、いかがわしい笑みが浮かんでいる。
聖衣をまとってなお、「胡散臭さ」を隠し切れない四十男。
それが、"彼"、アメリカ修道会 助祭 ライオネル・ブライアンという男だった。
(補足:助祭とは、カトリックで司祭に次ぐ聖職位のことである。)
「できれば、来ないで欲しかったんですけどね」
挨拶を受けたうら若き女司祭は、侮蔑の視線を隠すことなく返す。
イギリス聖教会 女司祭 ミルキィ・ホームズ。
(補足:イギリス聖教会では、教区によって女司祭を認めている。)
"彼女"もまた、非常に特徴的な外見を持った女性だった。
主に胸が。
体型がわかりにくい厚手の聖衣を持ってしてなお隠し切れない傲慢な胸囲は、
余裕でJカップ超えを果たしているものと推察される。
顔立ちも非常に整っており、
三つ編みにされた金髪は、薄暗い通路でも輝きをくすませることはない。
美しすぎる、扇情的過ぎるがゆえに、ポルノモデルとも見られかねない外見。
しかし、表情、仕草から醸しだされる"敬虔なる雰囲気"がそれを防いでいた。
ただ、今はその雰囲気も嫌悪の色が混じり、色々台無しであったのだが。
「そういや、ジムはどうした? 出迎え来いっていってたはずなんだが」
「貴方の"手下"さんでしたけっけ。 『今日も観光に行くから"仕事で忙しい"と伝えてくれッス』と聞いてますが」
「あのバカが…」
「貴方にはお似合いの手下じゃないですか」
「んだと、こらっ?」
「ふふん、代わりに性犯罪者を迎えに来た私に、少しは感謝してほしいものです」
「けっ、正直、女司祭は、勘弁して欲しかったんだがな。
どうせなら、もっと若い修道女の方が良かった」
「ちっ、ふざけないでください、ロリコンペドフェリア。
また、若い修道女に手を出してないでしょうね? この性犯罪者!」
"彼"は腰のポケットに手を突っ込んだまま、斜めに構え、
敬意等、全く感じられない視線で、"彼女"の胸元をジロジロ見る。
「残念だったな、熟成肉体。
今はもう、修道会から支給されてる"お手つき"としかヤッてねーっての」
「元はいえば、全員、貴方が子供の頃に毒牙に掛けた修道女達じゃないですかっ!
何が"お手つき"ですか、このクズがっ!」
"彼女"は、左腕で胸元を隠すと、どんっ、と司祭杖で床を叩き、睨む。
"彼"は、僅かに怯みつつも、不遜な態度は崩さない。
「そもそも手を出してるのは、"俺だけじゃない"んだがな。
ああ、聖教会にもそういう話あったな。 何なら証拠見せてやろうか?」
「…はあっ?」
「…ああっ?」
がるるるるるる、と今にもつかみ合いを始めような勢いで、
聖職者とはとうてい思えない怒気を撒き散らす二人。
会話の内容も危険きわまりない。
深夜で人が少ないのと、ここが「非聖神教/非英語圏 日本」なのが、せめてもの救いか。
(ちなみにここまでの会話は、全て英語である。)
ただ、すぐに咎める者こそいないものの、ここまで激しく言い争うと視線も集まり出す。
その中には、同郷たる外国人観光客も、少なからず混じっていた。
そういった空気に先に気づいたのは、"彼女"の方だった。
まあ、"彼"の方は、気づいててもやめなかった、というのが正解かもしれないが。
何にせよ、"彼女"は、何とか気を沈め、コホンと咳払いして"話"を先に進める。
「…まあ、いいでしょう。
ここでは、私が、貴方の上司に当たります。
予言された"聖敵"への対処に当たっては、私の指示にしっかり従ってもらいますらかね!」
「へいへい、中級聖法すら使えない無能のサポート、しっかりさせてもらいますよ。
女司祭?」
(…このっ!)
"彼"の言葉に、"彼女"の額に青筋が浮かぶが、何とか堪えて背中を向けて歩き出す。
それを"彼女"の降参のサインと受け取ったのか、
「何なら、女司祭の夜のお手伝いだってヤッてやってもいいんだぜ? ふひひっ」
調子づいた"彼"の軽口に、
「ふふっ…」
"彼女"は笑顔で振り返る。
「私はまだ23歳ですよ、クソペド野郎!」
(ゴンッ!)
「うごっ!?」
殺気を隠しきった一撃だった。
唐突に出された司祭杖の一撃は、
鈍い音と共に、"彼"を仰け反らせる。
巨体がグラグラっと揺れる。
僅かに飛んだ意識を戻すと、"彼"は、獰猛な殺気を"彼女"にぶつける。
「て、て、てめえっ、今、ほのかに"本気"で殴ったろっ?」
「"教育"です」
だが、"彼女"も慣れたものなのか、さらりと殺気を受け流し、
すたすたと先に歩いて行く。
「何考えてんだ、てめぇっ!」
「"教育"です。 これ以上近づくと"本気"で殴りますから、節度を持ってくださいね?」
「てめえ…っ、この"恩知らず"がっ!」
律儀に一定の距離を取りながら悪態を吐く、"彼"の言葉を受け流し、"彼女"は進む。
そんなやり取りは、空港を出るまで、
二、三度、"彼女"の一撃が"彼"の額にヒットしつつ、続いたのだった。
※試験的に(必要性の高い注釈を除き)前書きを削除しました。
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