第1話 ことのはじまりの目覚め

※イラストは、「ひみつ」様に作成をお願いさせていただきました。
・拙作に興味を持っていただき、ありがとうございます。
・見切り発車の習作なので、至らないところが多いかと思いますが、温かい目で見守っていただけたら幸いです。
・お気づきの点やわかりにくい点など、何かございましたらお申し付けください。
・早々に鬼畜な展開が入る予定ですので、そういうのが苦手という方は、お気をつけ下さい。
それでは、よろしくお願いいたします。
俺の名は、柳生鉄馬(42歳♂)。
都心に勤めるサラリーマンだ。
そして、ここは、自宅の洗面所。
「…は?」
鏡の向こうでは、間の抜けた顔で銀髪美少女(推定12歳)がこちらを見ていた。
誰だ、こいつ。
「はあああああっ?!」
理不尽さへの戸惑いと不安、そして怒りを込めて、
鈴を転がしたような可愛らしい声が響き、
銀髪美少女(推定12歳)が洗面台を叩き、指を俺に突きつけてくる。
だが、わななくばかりでそれ以上の声が出ない。
…俺と全く同じように。
そして、
(ぐらっ)
「ひゃいっ?!」
勢い余って足場にしたダンボールを踏み外し、少女はバンザイして洗面台向こうに消えた。
「うぐ、あつつ……」
しこたま打ちつけた腰をさする。
さすったその手は小さかった。
お尻の感触も小ぶりなもので…。
思わず頭をふると、銀髪の前髪が視界に差し込んだ。
違和感に気づいたのは、朝起きてすぐだった。
寝間着が妙にだぶついている。
髪が重い、長い、肩や背中に引っかかっている、え、色がない?
手や指が妙に小さい。
部屋に比べ、視線が低い。
何か、胸に膨らみがある。
股間に"あれ"がなく、"あれ?"がある。
(は、はああっ?)
わけが分からず、寝ぼけ眼で洗面所の鏡を覗こうとして身長が足りず。
古本入れたダンボールを土台にしてやっと覗き込んだ結果がこれである。
ふらふら立ち上がり、俺は再び鏡を覗きこむ。
「何…なんだよ、これ?」
そこには愕然とした銀髪美少女(推定12歳)が一人映るのみ。
白磁のような矮躯にまとうのは、 ずっと大きな成人男性の灰色寝間着。
大きすぎて小ぶりな胸元が肌蹴てる。
というか、俺のパジャマだよ、これ。
そう。
この銀髪美少女(推定12歳)は、俺(42歳♂)…らしかった。
夢か? とも思ったが、すぐに否定する。
悲しいかな、42歳にもなると、こんな鮮明な夢は見れやしない。
これは現実だ。
そして、何故か「少女は俺だ」という強い自己認識もあった。
ただ、そんな認識があっても、結局何故こうなっているのかはわからない。
まったく、わけがわからない。
俺に、何があったんだ?
人を人とも思わぬ神や女神に騙されたか?
事故死でもしたっけ?
怪しげなヴァーチャルMMOはやってなかったよな?
こんな想像がぱっと浮かぶあたり、俺も大概ラノベ脳である。
ちなみに、どれも覚えがない。
とりあえず昨日の出来事を思い返してみる。
午後6時半 仕事が終わって我が家であるワンルームマンションに帰る。
「ただいま」といっても返事はない。
誰も居ないのだから、当然だ。
…寂しい。
午後7時 両親の遺影と共に飯を食べる。
ときどき、話しかけるが返事はない。
わかってるよ、当然だ。
…寂しい。
午後8時 パソコンでソーシャルゲームをやる。
楽しい。
…でも、寂しい。
午後10時 シャワーを浴び、身体を洗う。 すっきりした。
何も考えない。
これなら寂しくない。
午後11時 寝間着を着てベッドに一人寝転がる。
…寂しい。
どんだけさびしんぼなんだよ、俺?!
この身体(美少女)の謎を探ろうとしたら心の傷が開いたでござるの巻。
…何か涙が出てきた。
そう。 俺には、「家族」はいない。
4年前に父、2年前に母が他界。
妻子はいない。
というか、「年齢」イコール「彼女いない歴」だ。
「ははっ、はは、…はあ」
いつの間にか座り込んで、俯いてた。
何やってんだろ、俺?
自嘲の笑みを浮かべ、文庫と薄い本の散らばる室内を見渡す。
点きっ放しのPCが鈍い駆動音を立てている。
俺は「友達」がいない。
「友達」も無理なのだから「彼女」なんて到底無理。
そんなラノベな展開あるもんか!
ばーかばーかばーか!(総統閣下)
幼いころ、酷いイジメにあった。
元から人づき合いが苦手だったこともあり、
俺は、「家族」と「勉強」と「趣味」に逃げ込んだ。
勉強はできても人付き合いはダメ。
俺は、そんなダメ人間の典型だった。
その分、勉強は頑張った。
だから、一流の国立大学に行き、それなりの仕事に就けた。
しかし、それが限界だった。
「仕事」は、一人では出来ない。
事務屋なら、なおさら。
人付き合いが苦手な俺は、
営業でも総務でも人事でも、
職場の上司や同僚との折り合いが悪く、
失敗が続き、
人並みの出世すらできず、
ますます俺は、「家族」と「趣味」に傾倒した。
そして、こんな俺を愛してくれた父も母も亡くなって、
「趣味」に飽きた頃、
俺には、…何も、残っていなかった。
いや、俺(42歳♂)の人生を振り返るのは、いいか。
何の解決にもならないし、
俺(銀髪美少女)を泣かせるくらいしか意味がない。
…はあ。
「汗…」
僅かに、濡れた首筋、胸元を手のひらで拭う。
そこで、やっと思い出す。
午前2時頃、だろうか…、そうだ、すごくだるくて熱くて息ができず、
苦しかった、
『死にたくない』と絞りだすように零した記憶がある。
そのまま気絶したのか、後の記憶はない。
そのとき、"身体が造り替えられた"のだろうか?
まあ、だとしても、相変わらず何でこれ(美少女)になったのかがわからないのだが。
…はあ。
自棄になってこの身体(美少女)を指で慰めれば、多少なりとも気が晴れたのかもしれないが。
このときはただただ疲労感と困惑が強く、そんな気にもなれなかった。
部屋の時計を見上げる。
午前6時半。
本来なら、出社の準備を始める時間だ。
「今日、大事なプレセンあったのになあ…。
やっと、もらえた…チャンスだったのに」
失敗ばかりでほとんどまともな仕事を回してもらえなかった十余年。
ここ数年、一念発起して頑張って、やっと得た久方ぶりの晴れ舞台。
しかし。
小さな手のひらを見つめる。
「これじゃ、会社にいけないな…、はは」
ベッドの上、膝を抱えて、顔を埋める。
「もう係長昇進もムリ…かなあ?」
同期は、みんなすでに課長、部長になった奴もいる。
俺は、未だに主任止まり。
情けない…。
枕元に転がる携帯を手に取り、風邪で休むと部長に謝罪のメールを送る。
併せて、直属の上司(年下)に謝罪と引き継ぎ依頼のメールを送る。
覚束ない足取りで、ふらりと立ち上がり、
転がってたダンボールを再び洗面台の上に置き、
上に立って鏡を見る。
人生に疲れきった銀髪美少女(推定12歳)が映っていた。
だが、
悄然としてなお、そこに映る姿は、俺を惹きつけた。
透き通るような銀髪。
目鼻立ちのすっきりした整った顔立ち。
やや釣り気味ながらも大きな眼。
碧色の光彩をたたえた瞳。
淡桃色の柔らかそうな唇。
今までほとんど見たことがない掛け値なしの美少女だった。
こんな外見なら、俺みたいな無能でも、もう少しマシな人生だったろうか。
いや…、ないな。
どうせ俺は無能で馬鹿だから、ダメに決まってる。
そもそも。
「いくら綺麗でも、これじゃ暮らせない…よな?」
鏡の前の少女は、くたびれた顔で、哀しげに皮肉めいた笑みを浮かべている。
現代社会は、信用の積み重ねで動いている。
俺(42歳♂)の戸籍はもちろん、わずかながらに積み重ねた仕事も学歴も、この外見(推定12歳)では引き継げない。
これ(銀髪美少女)では、生きていけない。
非合法なロリコンAV女優や売春でもやれば日銭を稼げるだろうが、早死すること必至だろう。
何より、中身は男だ。
いくら身体が女でも、"男に抱かれる"のは、やっぱりイヤだ。
とはいえ。
飢えたら。
背に腹は変えられなくなるのだろうか?
ぶるり、と悪寒に身体が震える。
訳の分からない現状とどうにもならない現実に打ちのめされ、
壁に背を預け、何度目かのため息を漏らす。
「未だ、少し混乱してるな…」
朝起きたら、美少女になっていた。(※生活能力ゼロ)
カフカみたいに『虫』にならなかっただけマシなんだろうが…。
本当にわけがわからない。
汗ばんだ身体が少し重い。
「シャワー…、浴びよ…」
起きたばかりなのに、どっと疲れた気がする。
少女は、僅かに濡れたパジャマを脱ぎ散らかし、部屋付きの浴室へと向かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
降り注ぐ温水が白磁の肌を拭っていく。
心地いい。
風呂が一番だが、シャワー(これ)はシャワー(これ)のよさがある。
腰まで伸びた銀髪を軽く左右に振って、前髪を僅かに残す感じで軽く掻き上げる。
少し気が晴れて、自分の身体に目をやる余裕が出てくる。
そっと見下ろす。
それなりに膨らんだ胸元と淡い桜色の先端。
僅かに生えそろった恥毛。
腰にも贅肉がない。
自分(この少女)、それなりにスタイルは悪くないと思うのだが。
シャワー室に姿見はない。
見下ろした視線では、よくわからない。
身体が女性のせいだからか、心は男のままなのにあまり興奮しない。
ただ、興味はある。
(いいじゃないか、自分の身体なんだから、
先の見えない中で、ちょっとくらいの知的探究心、許してくれたっていいだろ?)
そんな、誰に向けるともしれない釈明を思い浮かべながら、
つい、呟いた。
「大きな鏡でもあればな…」
(ドスッ)
大鏡が突然宙に現れて、落ち、浴室の壁に引っ掛かった。
「ぴいっ?!」
可愛らしい悲鳴が上がる。
いや、上げたのは、少女か?
「あ」
ち、違う。 違うんだ。 俺(42歳♂)は、こんな声は普段は…、…え?
そんな俺自身への言い訳は、一瞬で止まった。
なぜなら。
鏡に映っていた少女は、慌てたポーズで涙目のままこちらを見ていた彼女は、
すごく…可憐だったから。
思わず、鏡の前の少女は鏡を覗きこむ。
肌の白さ、みずみずしさは言うに及ばず。
しなやかで長い脚。
適度にくびれた腰と丸みを帯びた尻。
形がよく、身体にほどよく見合った膨らみのある幼い乳房。
何より全体のバランスが取れていて、思わず見とれそうになる。
俺(42歳♂)は、少女偏向愛者ではなかったけれど。
幼くも男をそそらせる身体だと思った。
「や、や、やっ、いや待て!! そもそも、何で鏡出た?」
銀髪美少女は、思わず鏡を掴む。
当たり前だが、こんなもの、いきなり顕れるものじゃない。
「だいたいっ、俺は…、誰なんだよっ?」
鏡の中の美少女は、自分を睨み、そう問いかける。
せつな。
鏡から光の奔流が湧き上がる。
「わっ、わわっ?!」
思わず身を引いた少女の前で。
"それ"は、球状へと収斂し、眩いばかりの光を放ち、
視界一面が、白に塗り潰される。
「…っ?!」
思わず光を遮った左右の腕の隙間から、
一冊の赤く分厚い本が浮かんで見えた。
物語は、まだ始まったばかりですが、ここで一旦区切ります。
+注意+
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