テイエス整体院
「はぁ・・・」
誰もいなくなった夕方の野球部の部室で僕はため息をついた。
また僕だけ背番号をもらえなかった。
高校も2年生になって、他の同級生達はどんどん試合に出て活躍し始めているのに。
2年生では僕一人だけ、未だベンチにも入ったことがない。
そりゃ僕がヘタクソなのはわかってる。特にこれといった売りがないのは十分わかってるけど・・・。
でもこの現実は、小さい頃からスポーツといえば野球ばかりしてきた野球大好きの僕にとっては非常につらいものだった。
「あ、加藤君。まーた落ち込んでるの?」
「あやか、先輩・・・」
入ってきたのは1学年上のマネージャー、高島あやか先輩だった。
つやつやのストレートの黒髪をポニーでうしろにまとめて、着用した部活用のジャージの胸には、ほどよい、いやむしろかなり大きいのではないかと思えるふくらみ。
綺麗な光を宿した大きな黒い瞳と、10代の女の子特有のふっくらやわらかそうな頬。
部員の、いや、学校中の誰もが認める美人マネージャーだ。
「加藤君がすっごく努力してるのは私も監督もみんなも知ってる。本当によくがんばってると思うわ。監督も、加藤君みたいな熱いハート持ってる子は是非レギュラーにさせたいと思っているわ。でも、うちはそこそこ強豪でしょ?監督も『うちは学年関係なく実力主義で背番号を与える』って言ってる手前、示しがつかないし」
「わかってます。わかってますよ・・・。後輩達も気を使ってくれますし・・・。でも、その気遣いが逆につらいんです・・・・」
「なら、厳しいようだけど辞めるしかないかな?正直、私が見ていても加藤君が引退までに劇的にうまくなるとは思えないし。」
「はっきり、いいますね・・・」
「気遣いされるのは逆につらいんでしょ?後輩達に腫れもの扱いされたままで3年間終わるのが苦痛だったら、やめるのが一番じゃない。加藤君、勉強は学年トップ20に入ってるんだって?部活もしっかりやってるのにすごいわ。今から部活を辞めて勉強に専念して、そっちでスターになるのもありじゃないかな?自分の得意な分野でがんばるっていうことも十分素敵なことだと思うわよ?勉強なら将来にも直結してるし」
「でも・・・それじゃまるで僕が逃げたみたいだし。僕は、野球が大好きだし・・・野球部をやめたくはないんです」
「じゃあ、このまま毎日つらい気持ちで過ごしていくの?」
「・・・・・・・」
(小声)「ふむ、処置なしね。彼はあそこに連れて行ってみましょうか。ちょうど人手が足りないなと思ってたところだし、うまくすれば・・・」
「え?なんですか先輩」
「ううん、なんでもないの。こっちの話。・・・・ねえ加藤君。このあと下校するでしょ?ちょっと私に付き合ってくれない?イイトコロへつれてってあげるわよ?」
「それはかまいませんけど、イイトコロって何ですか?」
「それは着くまでのお楽しみ。いいから黙ってついてきなさい。あなたにとって、とてもイイコトがおこるはずだから。(小声)ついでに私にもね・・・」
「え?」
「なんでもない」
そう言われて先輩についていってみると、到着したのは町から少し外れたところにある小さな店だった。
「テイエス整体院・・・ここですか?」
「そうよ。あなた、悩みで頭も体もガチガチになっているわ。少しほぐしてもらいなさい。ここのおやっさんとても腕がいいから気持ちよくしてもらえると思うわよ」
「でも僕今日はお金そんなに持ってなくて」
「大丈夫よ。初回は無料だから」
「え、そうなんですか」
扉を開けて中に入る。
「おやっさーん!いるー?」
先輩が声を張ると、店の奥からぬっと男が顔を出した。
お、大きい・・・。
年齢はかなりいっているはずなのに190センチ以上はあるんじゃないかという長身に、まくった腕には盛り上がった筋肉、スキンヘッドに強面の顔。
現代に武蔵坊弁慶がいたらこんな感じなんじゃないかというような大男だった。
「おう、あやかか。どうだ最近の調子は」
男は眉ひとつ動かさず無愛想に発言した。
「私は絶好調よ。おやっさんも相変わらずのこっわい風貌ね」
「放っておけ。なんだ、今日は男連れか。お前、こういう生真面目そうなのがタイプなのか」
「からかわないでよ。せっかくお客つれてきてあげたのに。彼、野球部の後輩なんだけどいろいろ悩んでるみたいだったから連れてきてあげたの」
「ふうん」
「私のときみたいに、ちゃちゃっとやっちゃってあげてもらえるかな」
おやっさんは無表情のまま、のっしのっしと僕の前まで歩いてくる。
そして僕の目の前まで来ると、その巨木のような手で僕の頭の両側をがしっとつかんだ。
「う、うわっ」
動こうにもおやっさんの強力な両腕のためびくともしない。
そうやって僕の頭をつかんだまま十秒くらいじっとしていた。
「どう?読み取れた?」
あやか先輩が楽しそうに聞く。
「うむ。なるほど。この程度の悩みなら造作もないな」
「でしょ?はやくスッキリさせてあげて」
「えっと、悩みをスッキリって?」
「ちょいと失礼」
僕の質問に答えることなく、突然おやっさんは両手を使って僕の頭をひねった。
コキリ
小気味良い音を立てて首がなったと思うと、突然僕の全身が脱力した。
「あ・・・れ・・・」
崩れかかる僕をおやっさんの巨体が受け止める。
力が抜けたのは体だけではなかった。頭の中も力が抜けてしまったように思考力がなくなり、まるで自分が寝ぼけているような感覚に襲われる。
僕はおやっさんにひょいと抱きかかえられると、白いシーツが敷かれた台の上に仰向けに寝かされてしまった。
「せん・・・ぱい・・・・」
体も頭も思うようにならない僕はしゃべるのも精一杯だった。
「安心して。このおやっさんは顔は怖いけどとてもいい人だから。身を任せておきなさい。きっと気持ちいいわよ。いまから加藤君の心と体を矯正してくれるんだから」
「きょう、せい・・・・って?」
「加藤君は自分の理想と現実が解離している。だから苦しまなければならないのよ。おやっさんはね、そういう人の心と体を今の現実に合うように矯正してくれるの。そうすれば、とてもスッキリするわ。いままで悩んでいたのが嘘みたいに」
「え・・・・!?」
「さあ、そろそろ始めるぞ」
ポキポキとおやっさんが指を鳴らす。
「ちょ・・・っと、ま・・・・って。うわっ」
おやっさんは、動けずマグロと化した僕の体をもみ始めた。
もみっ、もみっ、もみっ、もみっ・・・・
優しく、丁寧に。全身の筋肉をもみしだく。
もまれたところは、強烈な快感が襲った後、いままでよりも更に力が入らなくなる。
まるで、筋肉が無くなってしまったみたいに。
き、気持ちいい・・・!
無骨なおやっさんの手からは想像できないような繊細な技に、僕の体はすっかりとろけたようになってしまっていた。
「ふう。とりあえず全身ほぐれたか。こやつ相当悩んでいたとみえる。かなり硬かったな」
「その硬さをこの短時間でほぐしちゃうなんて、さすがおやっさん!」
「世辞はよせ、あやか」
全身の筋肉をひととおりもみ終わると、おやっさんは僕の胸に手を置き、何かを造形するようにまたもみはじめた。
もみっ、もみっ、もみっ、もみっ・・・
もまれるたびに、快感とともに少しずつ胸に重量感が生まれてくる。
もみっ、もみっ、もみっ、もみっ・・・
重量感はどんどん大きくなり、次第にもまれるのに合わせて重量感の原因である何かがぷるぷる動くように感じるようになった。
「ちょっとお、ずるいわ。私のより大きいんじゃない?」
「ん?ああ、そうだったかな?」
「む、とぼけないのおやっさん!」
胸を散々もんだあと、おやっさんは僕の股間に手を伸ばし僕のイチモツをわしっとつかむ。
「え・・・・・ちょ・・・・そこは、やめ・・・・」
と精一杯声を出したところで、おやっさんは僕の言葉など耳に入っていないかのようだ。
もみっ、もみっ、もみっ、もみっ・・・・
またもや強烈な快感。
やばっ、先輩が見ている前で勃っちゃうかも・・・!
そう心配した僕だったが、モノは大きくなることはなく、むしろもまれている感覚が段々と小さくなっていくと、おやっさんはもんでいる指を僕の体の内側に向かって押し込み始めた。
ぎゅっ・・ぎゅっ・・・
おやっさんの押し込む指先から、体の中に空洞が出来ていくような奇妙な感覚。
なんだろうこれ。まるでお腹の中に新しい器官ができてくみたいな・・・
でも、気持ちいい・・・なんだか変な気持ちになる。
「うむ、こんなものかな」
おやっさんが押し込んでいた指を離した後には、慣れ親しんだモノがついている感覚が跡形も無くなっていた。
ぼ、僕の体。いったいどうなって・・・!?
首も動かせないので確認の仕様がない。
「さあ、じゃあ次の行程ね」
「うむ。骨格の矯正といくか」
バキッ、ボキッ、ポキッ、ドカッ、ズバッ、グシャア・・・・!!
そんな音させちゃいけないんじゃないかと思うような音を立てながら、おやっさんは僕の全身の骨という骨、関節という関節を曲げたり、伸ばしたり、ねじったり、引っ張ったり、押したりしていく。
まったく痛みはないのだが、段々と体が押し縮められているようなそんな不思議な感じがする。
四肢、体幹部を終えると、段々上の骨へ。
首の軟骨をいじられたときはさすがに苦しかった。
メリッ、メリメリッ、ボクッ!
「げほっ、げほっ、げほっ!く、び・・・は・・・・くる、しい・・・・」
たまらず声を上げたときに違和感に気づく。
あれ、いつもの声じゃない・・・。なんか、高くなってる!?
首を矯正し終えたおやっさんの手は顔へ。
頬骨や、鼻、顎、額などどんどんいじっていく。
ムリッ、ボカッ、ギュム、ポンッ、ドガシャッ!
「うむ。まずまずだな」
「わあっ、かわいい顔~!」
あやか先輩の声にドキッとする僕。
え・・・かわいい・・・?
「見て見て、加藤君。すっごく可愛い顔になったよ」
先輩がかざしてくれた鏡に映っていた僕は、短い髪をしたかわいい女の子で・・・・
!?・・・・女の子!?なんで僕女の子になってんだ?
「びっくりしたでしょう?でももう少しでこれが普通だと思えるようになるから大丈夫」
なにが大丈夫なものか!
僕は必死に全身を動かそうとするが、やはり体は麻痺したように動かない。
「なに・・・を・・・やめ・・・・て・・」
「だから大丈夫だって。じゃあおやっさん、もうそろそろ最後、いっちゃう!?」
「うむ。心の矯正といこう」
おやっさんは僕の頭の側に回りこむと、僕の頭を入念にマッサージし始めた。
もむっ、もむっ、もむっ、もむっ。
「!?・・・・・・・・・・・・っ」
いままでの快感を更にもう100倍くらい強くしたような感覚に、僕は言葉すら発することができない。
もむっ、もむっ、もむっ、もむっ。
マッサージしてるのは頭皮のはずなのに、頭の中までぐちゃぐちゃと粘土のようにこねられている感じ。
なんだか頭がむずむずして、同時に髪が長くなってきているように感じるがそんなこと気にできるほど頭は回っていない。
もむっ、もむっ、もむっ、もむっ。
頭の中こねられているせいで、し、思考が止まりそう・・・止まりそう・・・とま・・・・
った・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
僕が思考機能を停止したのを確認したかのように
おやっさんはマッサージのパターンを変える。
ぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅっ。
それにともなって粘土のようにぐちゃぐちゃにされた思考が、再び造形され組みあがっていく。だかそれは、さっきまでの思考の形とは少し異なったものだった。
ぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅっ、ぎゅっ。
頭の中が再構築されるにつれて意識がどんどんはっきりとして、体にも力がもどってくる。
「うむ。完成だ。」
おやっさんは最後の一押しをしたあと、手を離す。
その瞬間、完全に体に力が戻る。
「うーーん、スッキリしたあ!」
『私』は伸びをしながら起き上がる。
頭も、体も、とてもすがすがしい気分だ。今まで悩んでいたことが嘘のようになくなっている。
「気分よさそうね。どうだった?加藤君。いやもう加藤さん、かな?」
「先輩。私、わかりました。選手として活躍できないなら、女の子になってマネージャーとして野球部を支えていけばいいんですね!」
「そうよ。よく気づけたわね。これであなたは何も悩むことが無くなった。矯正されるって気持ちいいでしょう?」
「はい!どうしていままであんなに悩んでいたのか不思議なくらいです。もっと早く気づくべきだったんです。私は男の子でいちゃいけない。女の子になるべきなんだって」
「でしょ?実は私も加藤さんと同じ悩み抱えてたから、よくわかるよ」
「え!?じゃあ先輩も・・・?」
「ふふ、実は元野球部の男の子だったりするんだなー」
「うむ。良い出来だな」
おやっさんも腕組みして、無表情を装いながらも満足そう。
「そういえば、加藤さん。下の名前、なんていうの?」
「え・・・っと。私の名前は加藤まゆ・・・・。まゆです」
「まゆちゃんね。これからよろしく!ちょうどマネージャーひとりじゃ厳しいかなって思ってたのよ」
「あれ・・・私の男の時の名前がまったく思い出せないんですけど」
「世界も一緒に改変されてるからね。まゆちゃんもう生まれたときから女の子っていうことになっているはずだし。これからどんどん忘れてくわよ、男の子だったときのこと。私ももう男の子だったときのことはあまりはっきり思い出せないもん。でもこれから一生女として生きていくんだから必要ないわよ。」
「そっか。そうですよね!あやか先輩、これからよろしくお願いします!」
当たり前のように用意されていた女子制服に着替えた私は、先輩と帰り支度をする。
初めて姿見で全身を映すと私はふわふわのロングヘアのかわいい女の子になっていた。からだを押し縮められたので、今ではあやか先輩を少し見上げるほど背が縮んでいる。
でも、私の思考は矯正されているのでこの姿がとても気に入っていたし、むしろ男の姿をした私のほうが不自然に思えた。
帰り際、私はおやっさんに改めて御礼を言った。
「え、と。おやっさん。あの、本当にありがとうございました」
「俺の仕事は人々を世界に適合させて幸せにすること。それを淡々とこなしているだけだ。礼なら連れてきたあやかに言ってやるんだな」
「そうですが、でも、おやっさんの矯正術、とても気持ちよかったです。また来てもいいですか?」
「うむ。また悩むことがあったらいつでも来い。余計なことで悩まぬよう、矯正してやろう」
「ありがとうございます!おやっさん!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
まゆとあやかが帰った後、おやっさんこと店主はひと仕事終えた達成感にひたりながら一服する。
「うむ、顧客ひとり獲得っと」
相変わらず無表情な顔を崩さない店主だが、思考を矯正するだけでなく客をわざわざすべて女の子に生まれ変わらせてしまうのは店主の趣味以外の何物でもないということは、ここだけの秘密である。
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