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サユリ

サユリ(2)

作者:星野すみれ
喫茶店を出ると、あたしはロリータ服の殿堂と呼ばれるNaruiOneに向かった。
NaruiOneは、男性一人で入店するのには、気が引ける場所だろう。
あたしは”サユリ”の事を無視した感じでNaruiOneに入った。
そうする事で”サユリ”が一人で入店してきたように見せかけたのだ。
お人形のような衣装に身を固めた女の子達が”サユリ”の事を見る。
この男性は、なんだって「あたしたちの城」に入ってきたの。そんな感じの冷たい眼差しだ。

あたしは階段を使って地下にあるランジェリーショップに向かう。
「サユリちゃんは、どんなランジェリーが好きなの?」
滅多に男性が入店する事はないであろうその店で、他の客やスタッフが、あたし達に興味を抱いている事を十分に意識しながら言った。
「ね。これなんかどうかな?」
あたしは適当にランジェリーを選び、顔を真っ赤にしている”サユリ”にあてがってみた。
「うーん。いまいちイメージが沸かないなあ。多分似合うと思うんだけど・・・試着してみよっか?」
あたしは”サユリ”にランジェリーを押し付け、スタッフに近寄る。
「すいませーん。友達が試着したいって言うんですけど、いいですかあ」
スタッフは戸惑ったように、返答をする
「申し訳ございません・・・男の方のご試着はちょっと・・・」
まあ、そりゃあそうでしょうね。
あたしだって男が試着した下着なんか買いたくないもの。
「あの子、ああ見えても女の子なんですよー。ねー、サユリ」
あたしは、何処をどう見ても男にしか見えない”サユリ”に向かって言った。
「サユリちゃんは、ロリータな格好が大好きな女の子なんですよー。サユリちゃんもスタッフさんにも言ってあげなよー。あたしはロリータな格好が大好きな女の子ですって」
”サユリ”はランジェリーを持った儘、顔を真っ赤にしている。
他の客が、買い物をするフリをしながら、こちらを見ている。
興味半分、嫌悪感半分と言ったところか。
「・・・です・・・」
「サユリちゃん、恥ずかしがり屋さんなんだからー。もっとちゃんと言わないとスタッフさんに聞こえないよー」
「ご・・・ごめんなさい! 試着しなくて良いです! これください!」
そう来たか。なかなかやるじゃん。
”サユリ”は、そそくさと会計を済ませ、店の外にいるあたしの側にやってくる
「みちるさん、やっぱり無理です・・・」
ランジェリーショップの袋を手にして、震えながら”サユリ”が言う。
「何がどう無理なの?女の子同士で買い物を楽しんでるだけじゃない」
「ごめんなさい、本当、無理です・・・」
屈辱と絶望が綯い交ぜになった、良い表情だ。
あたしは、笑ってしまいそうになるのを堪えながら”サユリ”に言った。
「だから。何が無理なのか、言ってよ。あたしと買い物するのがつまらないの?」
「そっ・・・そうじゃないんですっ! ・・・ただ」
「ただ?」
「僕が女の子の下着や服を買うのは・・・無理です」
「どおして?」
「・・・だって・・・僕は、女の子じゃないから」
そんな事は百も承知だわ。だからやらせてるんじゃない。
「サユリちゃんは、自分が女の子じゃないって言うのね。じゃあ、あたしに嘘ついて近づいたって事をあなたのお友達とかに言っても良いのね?」
「・・・・」
俯く”サユリ”。その表情が、あたしのサド心をグイグイ刺激する。
「・・・いいです・・・」
ふーん。バラされても良いってか。それは殊勝な事だわね。
でもそれなら喫茶店であたしがお手洗いに立った時に逃げるべきだった。
今となっては、もう手遅れ。
「じゃあ、この写真も、お友達に見せちゃって良い?」
あたしは、そういうと、携帯の画面を見せた。
そこには、あたしが手渡したランジェリーを持ってランジェリーショップの中に立っている”サユリ”が映っていた。
「東京都Z区在住でX大学三期生、工藤総一クンは、NaruiOneで可愛いランジェリーを買う趣味がありまーす、っていろんな人に言っちゃっおっかなー」

”サユリ”の屈辱と絶望が綯い交ぜになった顔に、驚愕と、そしてほんの少しの怒りが付け加えられる。
人の顔は、これほどまでに複数の感情を表現出来るのだろうか、と思う。
「サユリちゃんが女の子ならランジェリー買うのも普通だと思うんだけどなー。男の人が、こんな場所でランジェリー買うとか変だと思わない?」

あたしは、いつでもほんの少しの「逃げる余地」を相手に与えている。
だけれどもその「逃げる余地」は、なかなか選択しにくい。
逃げる余地があるにも拘わらず見せながら「逃げられない」と思わせるのが、人を追い詰めていくものなのだ。

「ねえ。サユリちゃんは、女の子なの?それとも男なの?」
あたしは、敢えてこう聞いた。
此処で”サユリ”が「男」と答える可能性がある事も敢えて承知の上で。
「・・・なのこ・・・です」
「え?なんだって?」
喩え聞こえたとしても、二回は言わせるのが鉄則なのだけれど、今のは本当に聞こえなかった。
「・・・サユリは・・・おんなのこ・・・です」
「やっぱそうだよねー。じゃ、買った下着を着てきなよ。折角買ったんだしさ」
「えっ」
「サユリちゃん、今履いてる下着って、男物なんでしょ?それって変だよ。だから、今買った下着に履き替えないとー。勿論、ブラも付けてきてね。トイレあっちだから。早く着替えて来てね」
”サユリ”は、ランジェリーショップの袋を持って、泣きそうになりながらトイレに向かう。
あたしは”サユリ”から少し距離を置いてついていく。
男性が一人でゴスロリの殿堂と呼ばれるファッションビルの中を、ランジェリーショップの袋を持って歩いているのだ。否が応にも目立つ。
”サユリ”は、突き刺さるような視線を浴びせかけられながら、トイレに向かっている。
冷たい視線を浴びているのと、場慣れしていないところを歩いているからか、歩く速度が遅くなっている。それがまた注目を浴びる理由になっているのだけれど”サユリ”はそれに気づく事が出来ない。
”サユリ”は、やっとの事でトイレに辿りついた。
そして、トイレに入ろうとして、今まで見落としていた事実に気付かされたようだ。

女性専用のトイレしか無いのだ。

女性専用のファッションビルだと「ありがち」な光景なんだけどね。さてどうするかな。
あたしは、物陰から”サユリ”を観察していた。
あたしに助けを求めるように左右を見渡すが、あたしの姿は”サユリ”からは確認出来ない。
”サユリ”は、暫く躊躇していたが、思い切ってトイレに入った。
履けなかったと謝ってきても思い切りなじって、別の場所で履かせる予定だったんだけど
女性下着を持って女子トイレに入るという行動を起こしたわけだ。

「き・・・着替えてきました」
”サユリ”の着ているシャツの胸のあたりが、ほんの僅かだが膨らんでいるのがわかる。
今の”サユリ”は男物の服の下にブラジャーをつけてNaruiOneを徘徊している変態男性に見えることだろう。うふふ。
「やっぱ女の子は、可愛い下着のほうが良いもんねー。履いてた下着、捨ててっちゃおうか?」
あたしは”サユリ”が履いていた下着が入れられているであろう、ランジェリーショップの袋を”サユリ”の手から奪い取ろうとした。
「ちょっ・・・やめてください」
「この袋の中に入ってるの、男物の下着でしょ。そんなの、女の子のサユリちゃんが持ってるとかって変過ぎだよー」
「ちっ・・・違いますっ! この袋が可愛いから持っていたいんです!」
すげー言い訳。言い訳になってないし。
でも今は敢えて許す。
こうやって、ほんの少しだけ手綱を緩めて相手を油断させるのも「手」なのだ。
「わかったわ。じゃ、今度は服を見に行こう」

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