第七章~運命の橋、現実~
この辺から恋愛が絡んでくるので醍醐味といえば醍醐味ですねw
その日の大音先輩は暗い顔をしていた。僕はとりあえず理由を聞いた。
先輩の落ち込んでいる理由を。
風が頬をかすめた。
「ガキンチョには・・・人の気持ちが分からないのか!」
「大音、落ち着け!」
「黙れ正人!」
「うるさい!
崎本さんに断られたからってそんな態度はあんまりだろう!」
さすがの先輩も黙った。僕はこの気まずい雰囲気のトリガーを引いた張本人だ。
すごく気が引ける。正人先輩が言うには大音先輩は崎本さんにこう言われたらしい。
「子供だましだ。俺は成功するかしないか解らないバクチはやらない」
『子供だまし』その言葉が先輩の胸を抉った。
「悪かったな。大音には後で謝るよう言っておくから、機嫌取り戻して!さっ」
別に機嫌が悪いわけではない。僕の眉間にしわが寄っていたのは、自分のせいだと思ったからだ。自分が作詞を満足にできていたら、崎本さんに連絡する必要はなかったわけで、全ては自分の力不足。なんとかするしかなかった。
「可愛くないガキだ」
「大音・・・あいつはあいつなりに一生懸命考えていると思う。それだけでもくみとってやれ。」
何気ない先輩達の会話が聞こえてしまったが、聞こえなかったことにして僕は学校を早退した。
家に着くには早すぎる。完璧にサボリだとばれるであろう。
そう思いプラプラしていた。静かな人気のない橋を見つけた。毎日の帰り道にこんな橋はあったのだろうか?
なんて素敵な夕焼けなんだろう。橋の上から是非見てみたい物だ。そう思い橋の真ん中へ近づく。誰か人がいた。
「誰・・・?」
声をかけられた。青い目をしたハーフの女の子だ。にしても何故こんな所に?人のことは言えないのだが。
「僕は栗山。栗山勝一」
「栗山君って呼んでいい?」
何だかドキドキしてくる
「うん。君はなんて言う名前なの?」
「私は・・・」
突然彼女が泣き出した。僕はどう対応していいのか解らずだった。
「落ち着いて!」
「とにかく落ち着いて話そう?」
何分もの説得の末彼女は泣きやんだ。言い方は悪いが僕は疲れた。
「取り乱してごめんなさい・・・」
「いや、別に大丈夫」
「名前ね・・・凜音蘭っていうの」
「素敵な名前じゃない!あのさ・・・」
「え?」
「少し聞きにくいんだけどさ」
気まずい空気が流れようとしているのを肌で感じた。
「うん?」
「さっきはどうして泣いたの?」
「栗山君はさ、音楽やってる?」
「うん。ギターやってるよ。ちょっと前から始めたばっかりだからマダマダだけどね。」
「ギターかぁ。私はその・・・作詞・・・なんだ」
作詞・・・作詞家が此処にいた。目の前にいる・・・!
「作詞やってるの!?実はうちのバンドでぼ・・・」
「でもね!もうやめたの」
「え・・・?なんで・・・」
「自分の世界観を出し切っても、世界観が違えば人は評価してくれない。人が評価してくれるためには自分の世界観をねじ曲げなければいけない。それって自分に嘘を吐くってことだから・・・だから・・・詞・・・全然書けなくて・・・音大も蹴って一人で作詞家としてやっていこうと誓ったのに・・・夢・・・終わっちゃった・・・。」
彼女の悲痛な叫びが身体を裂く。音楽の世界に入り立ての僕でもその辛さは少し解る気がする。僕はあの水面に揺れる夕日のように心が揺れていた。どうすればいいのだろう。とっさに出た一言。
「あのさ、ウチの部活に入らない?」
「え・・・?」
「あ、ウチの学校の部活動でメロディアスって言うバンド組んでるんだけどギターとベースとドラムしか担当がいなくて作詞担当がいないんだよ。だから蘭さんはどうかな?って・・・」
言っちゃったー
「じゃぁ、お言葉に甘えようかな?それからこれからは、『蘭』って呼んでね」
「うん。わかった!有り難う。じゃあ明日、第二中に4時頃来てくれないかな?迎えに行くから。」
「ありがとう!とっても楽しみにしているね」
コレで僕も少しは役に立ったのだろうか。
一人の少女を救いつつ、部活動の運命を決めつつ、僕は何かが始まる気がしてならなかった。そう思いを馳せていた矢先、頬に何かを感じた。
蘭がキスをした。僕の顔は真っ赤だったが夕日でごまかせたんだと信じた。
「え?いや・・・どうしたの?」
「栗山君は私を音楽の世界に戻してくれる唯一の人だから。キスくらい当たり前っ!」
ポカーンと口を開けたまま吃驚した。随分と積極的な子がこの世の中に残っていた物だ。大音先輩の積極性とどちらが上なのだろう?
僕は彼女の背を姿が消えるまで見つめていた。
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