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アメーバの涙 作者:霧島まるは

そこから

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 久々の美容室のおかげで、ツカサは生き返った気分だ。

 三ヶ月もの異常な生活のせいで、彼のトレードマークの金髪は、ばっきり毛先から半分しか残っていなかったのだ。

 そして、今は保護されている宿舎で、ベッドにひっくり返っている。

 もう、寝る場所に困ることはないのだ。

 それが、嬉しかった。

「しっかし、大樹のヤツ、遅いな」

 一つ空のベッドに、悪態をつく。

 もうツカサは、彼を眼鏡とかネクラとか呼ばない。

 一緒に死線を潜り抜けた、頼もしいヤツだと思っている。

 しかし、格付けランキングでは、自分より下だと認識していたが。

「オレ達は、会いたい身内は面会できるようにしてくれるんだ、大樹のことはほっとけ」

 田島はそう言ったが、納得がいかないツカサだった。

 ヤツは、女に会いに行ったのだ。

 美容室の年上の女。

「いーよなー、今頃、いちゃいちゃしてんだろー」

 自分なら、朝まで帰らないだろう。

 なのに。

「ただいま」

 開く、ドア。

「バカ正直に、帰ってくんじゃねぇよ!」

 あまりの野暮天に、ツカサは一刀両断した。

 ありえねー!

「どうかした?」

 いきなり怒鳴られた事実の、説明を求めてくる。

 田島は豪快に笑っているし、ツカサは呆れ返っていた。

「あのねーちゃんと、ちゃんとイチャついてきたのかよ」

 ムカつくので、話のネタにしてやろうと、彼はジャブを繰り出す。

 答えに困ったり、焦ったりすれば、めっけものだ。

「……」

 大樹は、黙り込んだ。

 困っているのかもしれない、いいやそうだ、そうに違いない。

 ツカサが、そう認識して、勝ち誇ろうとした時。

「好きと…言ってきた」

 ドガシャッ!

 ツカサは――ベッドから、転がり落ちたのだった。

「そこからかよ!」

 想像を遥かにこえる展開に、どうしてもツカサは、つっこんでしまう。

「あっはっは」

 田島は、この上なく愉快そうだ。

 一人だけ静かなままの大樹は、やはり静かにこう言う。

「うん…そこから、なんだ」

 三ヶ月一緒にいた間、一度も見なかった、穏やかな顔をしている男が、そこにはいた。
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