根性理論
二次創作ではありませんが色々危ない気がしました。
「昨日テレビを観ていた時にふと思いついたのだがね」
助手という名の小間使い、すなわちボクが白衣に着替えて研究所に顔を出すなり、待ち構えていた博士がそんなことを言い出した。
「また突然何です?」
「まぁ聞きたまえ」
おかしなことを思いつくこと自体は珍しくない。というより日常茶飯事だ。問題は、いつもなら有無を言わさず実験と称して仕掛けてくる博士が、今日は珍しく前口上を始めたことである。
前触れもなく電気で痺れたり毒で痺れたりガスで痺れたりさせられることが日常のボクとしては、むしろしっかり説明を始めるという状況の方が何だか怖い。
それって要するに、こっちも覚悟が必要なほどに危険か成功する確率が低いか死んでしまう可能性が高いかのいずれかでしかないのだから。
「あ、今日はちょっと有給をいただきたいのですが――」
「この実験が終わったら一週間くらいゆっくり休みたまえ」
間違いない。これは確実に入院コースだ。
「えっと、実は母が急病でして」
「今朝会ったがピンピンしていたぞ」
くそっ、これだからご近所さんというのは油断ができない。
「あーそのー……」
「何を警戒しているのか知らんが安心したまえ。これは君にとっても悪い話ではないはずだ」
「え?」
どういう意味だろうか。
「君の夢は確か、二次元の嫁と結婚することだったな?」
「いえ、そんな夢を語ったことは過去に一度もなかったと思いますけど……」
「何を言うんだね。もう二次元の中くらいにしか嫁が見つからないともっぱらの噂だよ?」
「聞いたことねーしっ。というか、何なんですか、その失礼千万な噂はっ。博士は誰から聞いたんですかっ?」
「え、君のお母さんだけど」
「あのババァ……」
帰ったら正座でお説教決定。
「まぁとにかくだ。これは三次元の住人であるところの我々が二次元に足を踏み入れようという感動的な発見なのだよ。次元の壁を越えられるなんて夢みたいな話だと思わないかね?」
「本当に可能なら、興味深い話ではありますけど――」
「だろうっ? それなら話は早い!」
食い気味に身を乗り出した博士は、即座に背後を振り返って白いトックリシャツを取り出した。
博士が何を考えてそんなものを取り出したのかはボクにはわからない。というかわかりたくない。確かめることすら脳内で拒否される始末である。
「じゃあ早速、このシャツで押し潰して――」
「博士」
何故か黄色いカエルが脳裏をよぎったボクは、そんな発想を振り払うように毅然とした態度で手を挙げた。
「何かね?」
「まさかとは思うのですが、それで押し潰しさえすれば誰でも二次元の住人になれるとか、そういう妄想を垂れ流すつもりじゃないですよね?」
「無論だとも」
どーせ昨日テレビで懐かしのアニメ特集とか見て思いついた一発ネタなのだろうと高をくくっていただけに、この間髪を入れない切り返しは少しばかり意外だった。
「……何か根拠があってのことなんですか?」
「君は忘れているかもしれないが、私も科学者の端くれだ」
「いえ、忘れていたというより初めて知りました」
科学者という領域を日本の国土だと仮定するなら、彼が居るのはバミューダトライアングルの向こうにあるかもしれない約束されていない楽園である。
「なかなか辛辣だね、相変わらず」
「それで、その根拠というのは?」
「うむ、そうだったね。この白いシャツで普通に押し潰したところで次元の壁を越えられないことは子供にもわかる」
「博士にもわかったんですね。それは良かったです」
「しかしだ。ある条件を満たすことで、我々は三次元人から二次元人へと転職できるのだよ」
「ダーマ神殿もビックリですね」
「その条件とは……」
「条件とは?」
「根性だっ!」
解散。
「待ちたまえ。どこに行くのだ?」
「おうちにかえります」
「相変わらず冗談キツいなぁ。まだ来てから十五分も経ってないじゃないか」
「私にも付き合える冗談と付き合えない冗談があるんです」
「私の見立てでは、君の根性は53万くらいあるハズだが」
「どこのフ○ーザですか!」
「まぁ落ち着きたまえ。根性によって二次元に移行できる、ここまではヨシとしようじゃないか」
「いや良くないです」
「しかし根性というものは数値として測りようがない。君はそう言いたいのだろう?」
「おいこら話聞けよ」
「だが私は昨日、根性を測る装置を作ってしまったのだ」
「無視すんなって……え?」
どんな戯言でもつい拾い上げてしまうのはボクの長所であり欠点である。
「だからね、作ったの。根性測定装置」
「いや、そんなのどうやって測るんですか?」
「はい、これ握って」
そう言って取り出したのは、誰がどう見ても握力計だった。
「これ、ただの握力計……」
「はい、握ってー。吸ってー、吐いてー。また吸ってー、はい握るっ!」
しまった。つい乗せられた。
「あ、いや、これはつい――」
「ふむ、48万KJか」
「何ですかKJって」
「根(K)性(J)の略に決まっとるだろうが。それにしてもフリー○にも届かんとは、少々情けないな、我が助手は」
「初めてですよ……ここまで私を馬鹿にしたお馬鹿さんは」
とりあえず、あと二回くらいは変身できそうな気がしてきた。
「まぁ少し不満だが仕方あるまい。とりあえずこれだけKJがあれば問題なかろう。早速世紀の実験にぐぼがぁっ!」
ボクの突き出された右手、というより握力計が顔面を直撃し、博士は盛大に吹っ飛ぶ。
「あ、すいません。溢れんばかりの根性が暴発しました」
「今のは痛かった……痛かったぞーーー!」
もう完全にドラ○ンボールだ、コレ。
というか、この流れなら根性理論を煙に巻けそうな気がした。明日にでも金髪に染めてスーパーサ○ヤ人ごっこでもすれば、完全に根性理論は頭から抜けるだろう。
ちなみにではあるが、ヒロシの中の人は悟空と一緒である(実にどうでもいい)
そんなワケで逃げ出したボクは、その足で美容院に立ち寄って金髪に染めると、悟空よろしくしっかり寝てから朝飯を食いまくり、筋斗雲に乗って颯爽と出勤してやる。ド根性○エルなどもう古いということを思い知らさねばならない。
「オッス、オラ悟空!」
金髪にこの挨拶だ。博士もさすがに面食らっている。
が、そんな態度も一瞬だった。
「何だ、その髪はっ。あ、螺旋丸だな。よし、ワシは千鳥だ。おい助手、さっさと構えんか!」
たった一晩で、時代はナ○トだったとさ。
しかし何というか、根性なんかなくても、博士は立派に二次元の人である。
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