松代大本営:朝鮮人労働者「強制的に」をテープで覆い隠す
毎日新聞 2014年08月09日 06時45分(最終更新 08月09日 11時08分)
太平洋戦争末期に作られた地下壕(ごう)「松代大本営」(長野市)について、朝鮮人労働者が工事にかかわった経緯を記した入り口の看板の「強制的に」との文言を同市がテープで覆っていたことが8日分かった。「強制ではないのでは」との外部の指摘を受け、昨年8月に見えないようにしたという。市観光振興課は「一部は強制ではないとの見方もあり、全員が強制的だったとの誤解を招く表現を改めた」と説明している。
市によると、1990年の公開当初から、入場者に無料で配るパンフレットと看板には「住民及び朝鮮人の方々が労働者として強制的に動員された」と記していた。
だが、外部からメールや電話で複数回、指摘があり、観光振興課が、壕を調査した元高校教諭や市教委文化財課に照会。収入を得るために参加した人や、地域住民と生活していた朝鮮人の存在を確認したため、昨年4月にパンフレットの表記を替え、それに合わせるため看板の文字も覆った。これまで抗議などはないという。
加藤久雄市長は8日の記者会見で「テープで隠したのはお粗末だった」と釈明。「強制があったかなかったかという論議ではなく、歴史の大きな遺産ということを国民に知ってもらうようにしたい」と述べた。市は今後、看板を書き直す方針。
「松代大本営の保存をすすめる会」(長野市)の阿藤満政副会長は「最盛期に工事に携わった約1万人のうち国民徴用令により朝鮮人約4000人が強制的に連行された。表現を変えるためには史実をしっかりと踏まえる必要がある」と話した。【稲垣衆史】
◇松代大本営
太平洋戦争末期に本土決戦最後の拠点とする目的で軍部が極秘に建設した地下壕(ごう)。1944年11月に着工し、7割ほど完成したところで終戦のため中止された。総延長は約10キロ。工事の状況や動員者の詳細は分かっていない。