長崎原爆の日:田上市長「戦争しないという誓い 揺らぐ」

毎日新聞 2014年08月09日 11時43分(最終更新 08月09日 16時43分)

69回目の「長崎原爆の日」の平和祈念式典を前に、合唱する被爆者歌う会「ひまわり」=長崎市の平和公園で2014年8月9日午前10時35分、金澤稔撮影
69回目の「長崎原爆の日」の平和祈念式典を前に、合唱する被爆者歌う会「ひまわり」=長崎市の平和公園で2014年8月9日午前10時35分、金澤稔撮影

 長崎は9日、69回目の「原爆の日」を迎えた。長崎市の平和公園で平和祈念式典が開かれ、田上富久・長崎市長は平和宣言で、安倍政権が7月に閣議決定した集団的自衛権の行使容認を巡る議論に言及し「『戦争をしない』という誓い、平和の原点が揺らぐことに対する不安と懸念の声に真摯(しんし)に向き合い、耳を傾けることを強く求める」と政府に呼び掛けた。一方、安倍晋三首相は「『核兵器のない世界』を実現するための取り組みを、さらに前に進める」と述べたが、2007年の第1次政権時に触れた「憲法の規定を順守」とする発言はなかった。

 台風11号の接近に伴い、3200人収容できる大型テントを前日に撤去するなどして迎えた。式典は午前10時35分に始まり、安倍首相ら約5900人が出席した。米国など核保有国を含め、過去最多となる海外50カ国の代表も参列し、原爆が投下された午前11時2分、全員で黙とうをささげた。

 平和宣言には、6日の広島市の平和宣言では言及されなかった「集団的自衛権」の文言が盛り込まれた。田上市長は「集団的自衛権の議論を機に、『平和国家』としての安全保障のあり方についてさまざまな意見が交わされている」とし、日本国憲法がうたう平和主義に触れ「『戦争をしない』という誓いは被爆国・日本の原点であり、被爆地・長崎の原点でもある」と述べた。

 そのうえで「被爆者たちが自らの体験を伝え続けた平和の原点が揺らいでいるのではないかという不安と懸念が、急ぐ議論のなかで生まれている」と、十分な議論を経ないままの憲法解釈変更への危機感をにじませ、国民の声に耳を傾けるよう政府に求めた。

 また、核兵器保有国と日本を含む「核の傘」の下にある国に対し、核兵器禁止を求める国々と協議の場を設けるよう呼び掛けた。日本政府には「核兵器の非人道性を一番理解している国として、先頭に立ってください」と訴えた。

 集団的自衛権の行使容認については、被爆者代表として「平和への誓い」を読んだ城臺(じょうだい)美弥子さん(75)も「日本国憲法を踏みにじる暴挙です」と厳しく批判した。

 安倍首相は「人類史上唯一の戦争被爆国として、核兵器の惨禍を体験した我が国には、確実に『核兵器のない世界』を実現していく責務がある。その非道を、後の世に、また世界に、伝え続ける務めがある」とあいさつした。集団的自衛権への言及はなく、原発問題にも触れなかった。

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