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【社説】

生活保護下げ 最低限の保障水準守れ

 生活保護の基準引き下げは違憲として、受給者が国や自治体を相手取った集団訴訟が全国で始まった。基準下げは受給者のみならず経済的に苦しい家庭をも直撃する。健康で文化的な生活とは何か。

 猛暑続きで、熱中症になる危険があるのに、エアコンをつけられない。風呂は週一回で我慢している。これが憲法が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」といえるだろうか。

 愛知県内に住む受給者が先月末、国や自治体に減額処分の取り消し、慰謝料の支払いを求める集団訴訟を名古屋地裁に起こした。一日には三重県、埼玉県の受給者が提訴。原告数は全国で百人を超えた。訴訟への参加者は、少なくとも二十八都道府県に及ぶ見込みだ。

 厚生労働省は、昨年八月から来年四月まで、生活保護のうち食費や光熱費に充てる「生活扶助費」を6・5%引き下げる。下げ幅は過去最大。10%の減額となる世帯もある。受給世帯の約96%が影響を受ける。少子化が問題となる中、特に子どもが多い世帯ほど減額幅は大きく、子育て家庭の窮状が広がりかねない。

 しかも下げ幅は、保護世帯には無縁のパソコンやテレビなどの電気製品の価格の下落幅が考慮されており、基準の決め方自体に疑義がある。原告の怒りはもっともだ。

 生活保護の受給者数は二〇〇八年のリーマン・ショック後、急増した。その後、人気芸能人の母親が受給者だったことからバッシングが激化した。一二年末、安倍政権が誕生した直後に減額幅は決まった。現在、生活保護を受けているのは約百六十万世帯と過去最多の水準だ。

 生活保護基準は「国が保障する最低生活水準」として、他の生活支援制度の支給基準の目安となっている。

 経済的に苦しい家庭の子どもに給食費や学用品代を補助する「就学援助」もその一つだ。約百五十万人、六人に一人が利用しているが、生活保護の基準が引き下げられたことに連動し、一四年度七十一自治体が支給対象の基準を下げた。多くの子どもたちが援助対象から外れた。来年度、就学援助を縮小する自治体がさらに広がると懸念される。

 消費税が上がり、物価は上昇している。受給者の生命や健康のみならず、生活が苦しい家庭を守り、貧困の拡大に歯止めをかけるべきだ。国土強靱(きょうじん)化よりも、生活の強靱化だ。

 

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