【ワシントン=川合智之】米IBMと米コーネル大学はヒトの脳の情報伝達をまねた半導体技術を開発した。従来型のコンピューターに使われてきた半導体チップとは異なる概念で設計したもので、将来は人間が命令しなくても自ら学習して問題を解く人工知能の実現が期待できる。8日付の米科学誌サイエンスで発表する。
ヒトの脳の神経細胞は「シナプス」と呼ぶ組織で無数につながり、情報を伝えたり記憶したりする。限られた大きさにもかかわらず、わずかなエネルギーで複雑な作業をこなす脳を模した半導体チップができれば、人の脳と同等の作業ができるコンピューターが実現するとされる。
IBMの日米の研究所とコーネル大学の研究チームは、100万個の神経細胞と2億5600万個のシナプスを模した回路を持つ半導体チップを試作した。
研究チームは開発した半導体チップで、画像に映った人間などを識別することに成功。70ミリワットという超低消費電力で動作することを確かめた。
あらかじめ記録したプログラムに従って命令を順番に実行する従来型のコンピューターは「ノイマン型」と呼ばれる。コンピューターの父と呼ばれる数学者フォン・ノイマンが1946年に提案してから現在まで、全てのコンピューターはノイマン型を採用している。ただ半導体を微細加工してコンピューターの処理を高速化するというこれまでの手法は、加工技術が限界に近づいている。
IBMは限界を突破するため、脳のほか量子力学の原理を応用し「非ノイマン型」と呼ぶ次世代半導体の研究に取り組んできた。IBMは今回の成果を約10年間の研究の集大成とし、将来はボタン電池で動く切手サイズのスーパーコンピューターを実現できるとしている。
IBMの研究チームは開発したチップを大量に組み合わせれば、数千億個のシナプスを持つシステムも構築できるとしている。IBMは7月、今後5年間で総額30億ドル(約3000億円)を投じ、次世代半導体の開発に取り組む方針を表明した。脳をまねた半導体や、従来の微細加工技術の革新に加え、カーボンナノチューブなどの新素材の活用にも注力。ビッグデータと呼ぶ大量の情報を分析する高性能コンピューターなどへの応用を目指す。
研究は米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)が5300万ドル(約53億円)を助成した。同局はインターネットの開発などを主導した米政府の研究支援組織だ。
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