高校野球の舞台となってきた阪神甲子園球場は、今夏で90歳だ。迎えて96回目の選手権大会が幕を開ける。

 初めて足を踏み入れた選手たちは、その大きさと美しさに胸を躍らせる。鮮やかな芝と黒土のグラウンドを、すり鉢状のスタンドが取り巻く。独特の雰囲気はほかに例を見ない。

 中等学校野球(当時)の人気沸騰で、阪神電鉄が甲子園を建設したのは1924(大正13)年。干支(えと)にちなんだ球場名は、野球のみならず、数々の全国競技大会の代名詞になった。

 波乱もあった。41~45年は戦争で大会は中断し、物資調達で大屋根が撤去された。かつての球児の戦死も相次いだ。戦後は米軍に接収され、球音が戻ったのは47年。95年は阪神大震災で被害を受けた。

 そうした歴史ものみ込んで伝統を育んできた大舞台は、少年たちを引きつけてやまない。

 全国の高校硬式野球部員は少子化の中でも堅調で、今年初めて17万人を超えた。3年生まで活動を続ける率も87・7%と、過去最高を更新した。

 ただ、暴力の悪弊は消えていない。今年も出場辞退した学校があり、愛知では監督が傷害容疑で逮捕された。元巨人の桑田真澄さんは「(暴力は)子どもの自立を妨げ、成長の芽を摘む」と語る。「指導に必要」は妄信でしかない。

 桑田さんの母校、PL学園(大阪)は昨年、暴力事件で前監督が辞めた。今年は野球経験のない校長が監督をつとめて、大阪大会に臨んだ。

 寮での上下関係を改め、選手交代やサインも自分たちで話し合って考えた。決勝で敗れたが、中川圭太主将は「責任をもってプレーすれば、結果はついてくる」と胸を張った。甲子園を夢見て、仲間と一緒に白球を追ったひと夏の経験は、人生の糧になるはずだ。

 夢舞台に出場する49代表を、甲子園ファンが待つ。選手権大会の総入場者はここ6年連続で80万人を超えている。

 地域の実力差の縮小が要因の一つだろう。この10年で、北海道、沖縄に初めて優勝旗が渡った。まだ優勝がない東北勢も昨夏、2校がベスト4に進んだ。

 甲子園を揺るがす声援はしばしば選手を急成長させる。今大会にも出場する佐賀北は07年、「がばい旋風」を巻き起こして頂点に駆け上がった。

 初めて夏の甲子園に出るのは9校だ。昨夏は初出場の前橋育英(群馬)が優勝した。この夏はどんな若い風が甲子園に吹くのか。期待したい。