長野市松代町の松代大本営地下壕(ごう)の象山地下壕入り口に市が設置した看板で、朝鮮人労働者が工事に携わることになった経緯について「強制的に」と記した部分に、市がテープを貼って見えないようにしていることが7日、分かった。市観光振興課は外部から複数回、「朝鮮人の労働は強制ではなかったのではないか」との趣旨の電話やメールが届き、検討した結果と説明している。きちんとした検証をしないまま手を加えたことに対し、保存運動の関係者らは「議論が足りない」などと指摘している。
看板では工事の経緯や規模などの概要を説明している。「住民及び朝鮮人の人々が労働者として強制的に動員され、突貫工事をもって構築した」と記されていたが、昨年8月、市観光振興課の判断で「強制的に」の部分に粘着テープなどを貼った。
同課によると、年約10万人の見学者に配っているパンフレットの内容を昨年4月、1990年の壕公開以来初めて本格更新した。外部からの指摘が複数回寄せられ、検討した結果、全員が強制的に働かされたわけではないとし、「強制的に」の言葉を外した。変更については市教委文化財課にも照会したが、「不適切とは感じない」との回答だったとする。その後、庁内から、パンフレットと看板と記述が一致しないとの指摘があり、看板にテープを貼ったという。
観光振興課によると、壕の公開を始めてから、市民団体などが行った地元住民への聞き取り調査で、収入を得るために工事現場に来ていた朝鮮人がいたことや、朝鮮人と住民との間に交流があったことなどを確認。パンフレットの更新では「強制」があったと強調しないようにしたという。
看板へのテープの貼り付けについては、「強制だったという見解と強制ではなかったという見解があり、一方の見解を市が支持することになってはよくないと判断した」とする。
加藤久雄市長は7日、「強制的に」の部分を見えなくしたことについて取材に「全員が強制的に働かされたと受け取られかねない」と説明。「歴史的な遺産が現にあるということを多くの国民に知ってもらうため、市はさまざまな取り組みをしている」と話した。