「なんだ、これは」
港区にある東京慈恵会医科大学附属病院で患者のレントゲン(X線検査)写真を撮っていた放射線部の成田浩人技師長補佐は、その画像に異常を見つけた。
「撮影した画像に、黒くて細かい点が無数に写っていたんです。塵のように小さなものから、1~2㎜のものまで大きさはさまざま。普通、小さなゴミが付着していると、それが白く写し出されることはあるのですが、このような黒い点が写ったことはこれまでありませんでした」(成田氏)
この黒点はいったい何なのか。レントゲン機器を製造するメーカーの一つ、富士フイルムには、問い合わせが相次いでいた。
「最初に報告があったのは3月14日、福島県内の病院でした。その後、東北のほか、東京都内など関東近郊の医療機関から50件ほどの問い合わせがありました。このような現象は今回が初めてで、福島原発の事故によって放出されたきわめて微弱な放射性物質を検出したものだと推測しています」(メディカルシステム事業部主任・桒原(くわはら)幹三氏)
あくまでも、空気中に漂っていた放射性物質が写りこんだもので、撮影された患者が被曝しているということではないらしい。しかし、こうして画像に現れると不安にもなるのだが・・・。
「人体にはまったく影響はありません」
と、富士フイルムの担当者は強調する。
「今回、画像に写ったものが、どの程度の放射線量なのかは一概には言えませんが、1回の胸部X線撮影で受ける放射線の1万分の1以下だと考えて良いかと思います」(桒原氏)
胸部レントゲン検査の場合、1回あたりの被曝量はおよそ50マイクロシーベルト。その1万分の1となると、気にするほどではないようだ。ちなみに、黒点の数と大きさは、単純に「放射線量」の多さを示すものではなく、放射性物質が画像を写すプレートに「付着している時間」と放射能の強さに比例するという。よって、病院の休み明けの日などに多く確認されている。そして桒原氏は、最後にこう漏らした。
「機械が、それほど微量な放射線も感知する性能を持っているのだとご理解いただけるとありがたいのですが・・・」
確かにその技術はすごい。だが、微量ながらも都内に放射性物質が拡散していることを、意外な形で改めて証明してしまったようだ。
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