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2014-08-08

ライトノベルホラーの隆盛

 今年注目したいのが、ライトノベルホラーです。

 ライトノベルミステリとの相性の悪さについては散々議論されつつも、最近では『ビブリア古書堂の事件手帖』『珈琲店タレーランの事件簿』のようなラノベミステリが流行し、今では月単位で大量のラノベミステリが刊行されている状況になっています。

 このようなラノベミステリの隆盛の最中、ひっそりと創刊されたホラー系文庫レーベルがTO文庫とタソガレ文庫、すこし不思議文庫です。

 この3つはライトノベルを意識したビジュアル・内容のホラー作品を多く出しています。

 TO文庫は、倉阪鬼一郎殺人鬼教室B.A.D』、『だるまさんがころんだ』、飯田雪子『八木澤菊乃の遺言』などのラノベホラーをコンスタントに刊行。

殺人鬼教室 BAD (TO文庫)だるまさんがころんだ (TO文庫)八木澤菊乃の遺言 (TO文庫)

 『八木澤菊乃の遺言』のキャッチコピーイラストレーター繋がりで「文学少女』シリーズ好き必読!」というもので、出版社も作者も全然違うのにいいのかそれで。

 変わったものとしては、平山夢明原案の『厨坊アサシン』。筒井康隆石田衣良といった有名作家のライトノベル参入こそあれど、有名作家が原案についたライトノベルは希少です。

厨坊アサシン (TO文庫)

 タソガレ文庫はホラー文庫の老舗・竹書房が新設したレーベル

 牧野修奇病探偵 眠れない夜』、黒史郎丑之刻子、参ります。』など有名ホラー作家の起用が話題となりました。

奇病探偵 眠れない夜 (タソガレ文庫)丑之刻子、参ります。 (タソガレ文庫)

 しかし、2014年度からはレーベルが消滅して竹書房ホラー文庫と統合されました。その第一弾にあたる黒海老『定時制幽霊学級』は一般文庫では珍しく挿絵が導入されました。

定時制幽霊学級 (竹書房文庫)

 すこし不思議文庫は、ヒーロー文庫で名を上げた主婦の友社が創設したレーベル。創刊時の目玉は『怪談新耳袋』の木原浩勝による『サブライン707』で、全体的にラノベとYAの中間にある作風のものが多いです。

 さて、ホラー文庫の古巣といえば、角川ホラー文庫があります。一昔前までホラー映画のノベライズという印象の強かった角川ホラー文庫ラノベ化は一昨年前から指摘されており、昨年はさらに加速しました。

ホーンテッド・キャンパス (角川ホラー文庫)

 『戦争大臣』『流星事件』など、表紙的にも内容的にもライトノベル色の強い作品がコンスタントに刊行されていましたが、その流れを決定づけたのは『ホーンテッド・キャンパス』のヒットでしょう。ホーンテッドキャンパス以後、角川ホラー文庫ではライトノベルを意識した作品が急増し、KADOKAWA角川文庫/ホラー文庫にまたがるキャラクター文芸部署を立ち上げるなど本腰を入れ始めました。角川のキャラクター文芸部署の立ち上げは、新潮社講談社など大手出版社がビジネスとして「キャラクター文芸」に本格的に取り組むことの口火を切ったわけですが、それはまた別の機会にでも書きたいと思います。

魔女の子供はやってこない (角川ホラー文庫)鬼狩りの梓馬 (角川ホラー文庫)キリノセカイ  I.キオクの鍵 (角川ホラー文庫)ウラミズ (角川ホラー文庫)

 ホーンテッドキャンパス以後のラノベホラーとしては、挿絵のついたグロテスク暗黒魔法少女もの『魔女の子どもはやってこない』、何故ホラー文庫から出ているのか分からないほどの熱血少年漫画風ファンタジーバトルもの『鬼狩りの梓馬』、電子書籍オーディオブック)の書籍化タイトル『キリノセカイ』、イラストを『ビブリア古書堂の事件手帖』で知られる越島はぐが担当していることでも話題になった第20回日本ホラー小説大賞読者賞受賞作『ウラミズ』など。

 怪談文芸誌「幽」を抱えるMF文庫ダ・ヴィンチからもライトノベル作品が出ていますが、今年からは角川ホラー文庫との合併が進んでおり、今後継続されるかどうかはわかりません。

 この他にも、「Reゼロ」と並んで今年のネット小説の二大ビッグタイトルといわれている「師匠シリーズ」の書籍化も始まりました。

なぜこんなにもラノベホラーが流行っているのでしょうか?

その理由としては、以下の要因が考えられます。

・「妖怪や霊を出せばなにをやってもいい」という柔軟さ

 上記のラノベホラーのジャンルはかなりフリーダムで、例えば角川ホラー文庫の場合大学もの恋愛ミステリ(『ホーンテッドキャンパス』『ハサミ少女と追想フィルム』など)だのラブコメ(『幽霊詐欺師ミチヲ』)だのバトル(『流星事件』『忍びの森』など)だのファンタジー(『爛れた闇の帝国』など)だの作風もジャンルも全然違う作品が一レーベルに同居している状況にあります。妖怪や霊を倒す能力バトルものなども多く、オカルト要素さえあれば別にホラーでなくても構わないという柔軟なレーベルカラーがライトノベルとの親和性を高くしているのではないでしょうか。

・一般文芸で忌避されがちなファンタジー・SFの受け皿になっているのではないか

 昨今の一般文芸ではファンタジーやSFは忌避されがちで、特に『BEATLESS』『図書館の魔女』『折れた竜骨』といったライトノベル外の超大作FT・SFは年に数えるほどしか刊行されていないのが現状です。さらに、SFJAPANの休刊や日本ファンタジーノベル大賞の休止に代表されるように、SF・ファンタジーの受け皿は年々減少しています。

 ホラー文庫では『玩具修理者』『粘膜シリーズ』『戦都の陰陽師』などSFやファンタジーに属するジャンルの小説も多く集まっており、上記の「オカルト要素さえあれば別にホラーでなくても構わない」というレーベルカラーと合致していると考えます。(そもそもホラーとSF・ファンタジーは親和性が高いジャンルである。)

萌えと恐怖は相性がいいのではないか?

 昔からはホラーには美女が付き物で、例えばアメリカのホラー/ミステリパルプフィクション誌の表紙には怪物とともに、露出度の高い美女がこぞって描かれていました。今でもホラー映画にはアイドルが「ビビり役」として登場することが多く、新人アイドル登竜門になっています。

 最近ではフレディジェイソンがまさかの美少女化されるなど、萌えと恐怖は結構相性が良いのでは、ないでしょうか。

 そう考えると、今のホラー小説が「萌え化」して美少女が表紙に描かれまくっているのは意外なように見えて実はホラーのある種の原点に立ち返っているのかもしれません。

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