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山田厚史の「世界かわら版」

安倍政権の原発輸出
原子力外交で復活するムラ

山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員]
【第35回】 2013年5月9日
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巨大企業と政府を結ぶ「官民一体体制」

 米国副大統領だったゴアが旗を振る「温暖化対策」は、日本政府が原発推進に舵を切る絶好の口実になった。

 こうした流れは経産省内部の勢力関係を変えた。電力自由化を主張するグループが排除され、電力独占体制護持・原発推進のグループが力をつけ巨額の予算がかかる六ヶ所村の原子力燃料サイクルが強行された。

 地域独占で資金と政治力を持つ電力会社、業界の後押しで自民党内で政策を仕切る族議員、電力会社や原子炉メーカーに天下る官僚機構、そして周辺の御用学者、といった強固な権力構造が原発推進へと動き出したのが2000年代である。

 朝日新聞に連載中の「プロメテウスの罠」によると2011年2月、原発関連企業や電力会社のトップによる「原子力ルネッサンス懇談会」が発足した。会長は元東大総長で原子核物理学者の有馬朗人氏、座長が日本原子力産業会長で新日鉄社長や経団連会長を務めた今井敬氏。そして座長代理が経産次官を前年に退いた望月氏だった。原子力に群がる巨大企業と政府を結ぶ「官民一体体制」である。

 電力会社など原発業界が頼りにしてきた政治家は甘利明氏である。自民党商工族の重鎮で原子力行政に深く関与してきた。2006年第一次安倍内閣で経産相に就任、エネ庁長官だった望月氏を次官に引き上げたのは甘利氏である。甘利大臣・望月次官の時に新潟県中越沖地震が発生、柏崎刈羽原発で火災が起きた。東京電力は適切な情報開示をしなかったが、経産省は東電の勝俣社長に引責辞任を求めなかった。甘利・望月体制による甘い措置がフクシマへの導火線となったともいわれる。

 政官財一体となった原発体制は民主党政権にも引き継がれ、福島第一原発の事故で幕間に隠れたが、自民党の政権復帰で再び舞台に上がった。

 甘利氏は経済政策全般をまとめる経済再生担当相になり、望月氏は日立製作所の社外取締役に収まっている。

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山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員]

やまだ あつし/1971年朝日新聞入社。青森・千葉支局員を経て経済記者。大蔵省、外務省、自動車業界、金融証券業界など担当。ロンドン特派員として東欧の市場経済化、EC市場統合などを取材、93年から編集委員。ハーバード大学ニーマンフェロー。朝日新聞特別編集委員(経済担当)として大蔵行政や金融業界の体質を問う記事を執筆。2000年からバンコク特派員。2012年からフリージャーナリスト。CS放送「朝日ニュースター」で、「パックインジャーナル」のコメンテーターなど務める。

 


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元朝日新聞編集員で、反骨のジャーナリスト山田厚史が、世界中で起こる政治・経済の森羅万象に鋭く切り込む。その独自の視点で、強者の論理の欺瞞や矛盾、市場原理の裏に潜む冷徹な打算を解き明かします。

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