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これまでの放送

No.3464
2014年2月5日(水)放送
見つめて 触れて 語りかけて
~認知症ケア“ユマニチュード”~

病院に入院しているうちに、認知症が進んで、すっかり元気をなくしてしまったこちらの3人。
あるケアを受けたところ…。
元気に、お化粧。
Vサイン。
そして握手。
一体、何が起きたのでしょうか。
認知症の高齢者が急増する、医療の現場。
状況が理解できずに、治療を拒む人も多く、対応に追われています。
治療のために患者の動きを抑え、その結果、症状がさらに悪化してしまうことも、少なくありません。

病院看護師
「何とかこの状況を変えたいとは思いますけど、実際どうしていいのかわからない。」

この事態を打開しようと、先月(1月)、病院の団体が、研修会を開きました。
認知症の人に接するためのケア、フランス生まれの、ユマニチュードという手法を学びます。
これまでの接し方を改めることで、怒りっぽい、意欲がなくなるといった症状を、改善する効果が期待されています。

ユマニチュード考案者
「この方法で、認知症の高齢者だけでなく、家庭やケアに関わるすべての人たちが、穏やかに過ごせるようになるのです。」

認知症になっても、人と人とのつながりを、全うしようという認知症ケア、ユマニチュード。
その可能性を探ります。

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急増する認知症 苦悩する医療現場

東京・調布市にある救急病院です。
入院患者のおよそ7割が70歳以上。
認知症の人が増えているといいます。
去年(2013年)12月、感染症で入院した、87歳の山本卓一さんです。


看護師
「どうしたの?}

山本卓一さん
「寝られない。」

入院して、生活環境が一変した山本さん。
認知症の症状が、一気に進んでしまいました。
昼と夜とで行動が逆転。
一晩で10回以上、ナースコールを押してしまいます。

逆に日中は、意識がもうろうとして、ほとんど寝たきりの状態です。
突然、声を荒らげることも出てきました。
妻の康子さんは、毎日見舞いに来ていますが、意思の疎通が難しくなってきています。


看護師
「お名前、間違いないですか?」




妻 山本康子さん
「明日また来るから。」

山本卓一さん
「やめて。
やめろ。」

妻 山本康子さん
「攻撃的に話をするようになった。
精神的にもつらいし、身体的にも、私もまいってしまって。」



認知症の人が増える、全国の医療現場では、難しい課題に直面することが増えています。
患者が点滴を抜いたり、転倒したりすることを防ぐため、一時的にベッドへの拘束や、手足の自由を抑制することが増加。
その結果、不安やストレスから、暴力的になるなど、症状がさらに進むという、悪循環に陥っているといいます。

病院看護師
「その人のためにやっていることが、結果的に誰のためにやっているかわからない。
何とかこの状況を変えたいとは思うけど、どうしていいのかわからないのが現状です。」

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医療現場を変えれるか 新たな認知症ケア

医療現場で急増する、認知症の高齢者に、どう対応すればよいのか。
先月、病院の全国組織が、看護師や介護施設のスタッフを集めて、研修会を開きました。



講師は認知症の人へのケア、ユマニチュードを考案した、イヴ・ジネストさんです。





ユマニチュード考案者 イヴ・ジネストさん
「ユマニチュードの技術があれば、本人の望まない強制的ケアを、無くすことができるのです。」



このケアのねらいは、認知症の高齢者との、コミュニケーションの改善です。
フランスで35年前から研究が進み、今ではドイツやカナダなどでも、導入されています。
「見る」、「話す」、「触れる」、そして「立つ」の、4つが基本の要素。
具体的な150の手法で、構成されています。


まずは、見る。

看護師役
「おはようございます。」



ベッドの脇から見下ろすと、支配されているという感情を、患者に引き起こしてしまいます。





認知症の場合視野が狭くなっています。
そこで、視野の中心で捉えてもらえるよう、正面から患者に近づき、見つめます。




続いて、話す。

看護師役
「体、拭きます。」



最初に、ひと言かけただけで、あとは黙々とケアをすると、自分の存在が否定されていると、感じさせてしまいます。




看護師役
「とってもね、あったかくタオルしてきました。」

相手が心地よく感じることばを、穏やかな声で話しかけ続けます。


看護師役
「左手も上げますよ。
足、曲げていきますね。」

実況中継のように、説明しながら行うと、物事を忘れやすくなっている人でも、安心してケアを受け入れてくれます。

看護師役
「いいですか。
手、入れますね。」



そして、触れる。
体を起こすとき、つい手首をつかんでしまいがちです。




しかし、つかむ行為は相手に恐怖感を与え、自分で動こうという気持ちを、妨げてしまいます。





つかむのではなく、本人の動こうとする意思を生かして、下から支えることが大切です。





女性
「手でつかんじゃダメですよ。」




参加者の多くは、日頃のケアを、まだまだ改善できることに気付かされました。

ユマニチュード考案者 イヴ・ジネストさん
「スタンドアップ。
ノー!
ノーノーノー!」


看護師
「わかっているけど、できていない、行動としては。
改めて、どんなふうにやるかという、やり方が学べました。」



介護福祉士
「人と人としての関係作りが大事なのかなと、すごく感じました。」




この日、ジネストさんは調布の救急病院から依頼を受け、入院中に認知症が進んでしまった、山本さんを訪ねました。

まず、ユマニチュードの技術を学んだ看護師が、山本さんに、あいさつに行きます。





ユマニチュードインストラクター 看護師 林紗美さん
「こんにちは、山本さん。
はじめまして。」



見つめて、話しかけ、優しく触れる。
基本のテクニックです。

ユマニチュード考案者 イヴ・ジネストさん
「ハローサー。
ボンジュールムッシュー。」



ユマニチュードを活用した、リハビリが始まりました。
日中はほとんど反応がないか、逆に攻撃的なことばが多くなっていた山本さんですが、呼びかけに応え始めました。



ユマニチュード考案者 イヴ・ジネストさん
「もう片方も。
そうです。」



ユマニチュード考案者 イヴ・ジネストさん
「腕、上げてください。
僕のほうに触ってください。」



ユマニチュード考案者 イヴ・ジネストさん
「健康になりたいですか?
病気を治したいですか?」

山本卓一さん
「イエス。」

山本さん、30分ほどの間に、みるみる意欲がよみがえってきました。
攻撃的な言動はなくなり、以前の社交的な姿を取り戻していました。

看護師
「こんなこと、したことないですよ。」




妻 山本康子さん
「びっくりした。
本当に最初から、ちょっと顔をしかめたり、何かこんなことするんじゃないかと思ったんですけど、私のほうが、元気をもらったかもしれません。」


看護師
「患者さんにとって、いいケアをするための、ケア方法であるのはもちろんですけど、看護師にとっても喜びとか、楽しさを見つけられるケア方法かなと、奥さんの笑顔を見て感じました。」



ユマニチュード考案者 イヴ・ジネストさん
「認知症の方が相手でも、『あなたは人間』で『そこに存在している』と伝えるのが、ユマニチュードの哲学です。
この方法で、認知症の高齢者だけでなく、家族やケアに関わるすべての人たちが、穏やかに過ごせるようになるのです。」


ユマニチュードを、退院後の生活に生かそうという取り組みも、始まっています。





深田浩子さん
「来ましたよ。」




93歳の、深田あい子さんです。
去年12月、肺炎で入院したところ、認知症が悪化。
自分が生まれ故郷にいると、錯覚することが増えました。



深田あい子さん
「ここは遊び場だったもんね。
子どものとき、私が。」

深田髙さん
「ここが?」

深田あい子さん
「ここが遊び場。」

入院するまでは、軽い物忘れがあるくらいで、近所の散歩など、楽しみがたくさんあった深田さん。
病院での生活が続くうちに、自分で何かをする気力を、失ってしまいました。



深田浩子さん
「歩くのは難しいの?」

深田あい子さん
「当然歩けないもん。」

ユマニチュードインストラクター 看護師 林紗美さん
「真正面から。」




退院後の生活に備えて、家族にユマニチュードを身につけてもらい、リハビリを始めることになりました。
まずは見つめて、話すことから始めます。




深田浩子さん
「これからお着替えをしますよ。」

深田あい子さん
「起きないよ。」

深田浩子さん
「お着替えするの。」

ユマニチュードインストラクター 看護師 林紗美さん
「手、自分で上げられる?」

深田浩子さん
「おー、すごい、すごい。」

ユマニチュードインストラクター 看護師 林紗美さん
「脇を拭いてもらいましょう。」

ことばをかけ続けながらケアをしているうちに、深田さんは体を動かすことに、前向きになってきました。

深田浩子さん
「お尻上げてください。
できた。」



3日後、歩く練習に挑戦です。

ユマニチュードインストラクター 看護師 林紗美さん
「今日はすてきな先生が手伝ってくれるよ。」

ユマニチュードインストラクター 看護師 林紗美さん
「じゃあ、やってみましょうかご一緒に。」

ユマニチュード考案者 イヴ・ジネストさん
「OK、マダム。
カム、カム。」

ユマニチュードインストラクター 看護師 林紗美さん
「ああ、できた。」

ユマニチュード考案者 イヴ・ジネストさん
「OK。
1、2、1、2。」



自分の足で歩くこと。
わが家で暮らすための、第一歩です。

深田浩子さん
「やったー!
おばあちゃん、やったじゃん!」

ユマニチュード考案者 イヴ・ジネストさん
「ベリーナイス。」

ユマニチュード考案者 イヴ・ジネストさん
「とってもうまくいきましたね。
ありがとうございます。」

深田あい子さん
「ありがとう。」

深田髙さん
「1時間ぐらいですか。
認知症というものを、全然感じなかった。」



深田浩子さん
「おばあちゃん自身も、すごく前向きにとらえて、動いてみようかなという気持ちになってくれて、すごくうれしい。」

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医療現場を変えるか 新たな認知症ケア
ゲストイヴ・ジネストさん(ユマニチュード考案者)
ゲスト本田美和子さん(東京医療センター総合内科医長)

●ユマニチュードのケア 最も大事にしている部分は?

ジネストさん:ユマニチュードの哲学は、150のケースと合わせてあるんです。
私たちが友人である、そして人間であるということを、感じてもらうことは大切なんです。
そして私たちは、兄弟である、患者さんの兄弟である、患者さんも人間であるということを、伝えていくものなんです。
それを、技術と、それから考え方とが、一緒になっています。
私たちが、患者さんをまだ人間であると、そして私たちケアをする側と、患者さんが、本当に絆を築くというものが、このユマニチュードなんです。
治療する傷が、問題ではない。
それが中心ではないんですね。
ケアをする側と、そしてケアをされる側の、絆が中心になるんです。
そして私たち、患者さんも、私たちケアする側も幸せになるんです。
この映像で見た人たち、家族の方も、患者さんもそうなんですけれども、私たちにとっても大切なものを、いろいろプレゼントをしてくれました、毎日。
それがプレゼントの哲学でもあるんです、ユマニチュードとは。

●認知症患者と絆を結ぶのは、容易ではなさそうだが?

ジネストさん:そうですね。
説明をしても、認知はしてもらえないです。
そういう形で築くわけではないんです、絆を築くわけではないんです。
ちょうど赤ちゃんと、絆をつなぐのと同じように、あるいは、自分が好きな人を抱くような感じで、絆を作るわけですね。
例えば私が話をかけない、あるいは、まなざしをかけない、あるいは触らないというときが長かったら、私に忘れられていると思うかもしれません。
それは社会の中でもいえることです。
それでなかなか、でもそういう技術を学ぶということはないんです。
ですので、1日に8回ぐらいしか、まなざしをかけてもらわない人がいる。
でも、あなたとは何回も何回も見ました。
例えば、清拭(せいしき)を受ける患者さんは、話しかけられるのは20秒ぐらいしかないんですね。
そういう話すという技術を選ぶことによって、実は、人間が生きている、子どものときから受けている、人間の絆を作るということを、もう一度学び直しているんです。
私の友人だから絆を作りたい、治療は必ずしも、楽しいものばかりではありません。
ですから、その絆を、人間的な絆を作ることによって、この人はとてもいいことをやってくれる人だと、分かってもらえるんですね。
そのあとのケアは、すごく楽になります。

●医療現場で絆を結ぶことが難しくなっている理由を、どう見るか?

ジネストさん:まず、歴史的な困難というのがあります。
常に医療というのは、まずは治療をするということを、考えていったわけです。
しっかりと手術をしてもらうとか、包帯をしてもらうとかですね。
どうしても、やはり医療といいますと、まずは治療する技術になってしまうわけです。
そこでまずは、人間がいる、人間と接触するんだということを、少し忘れているのかもしれません。
私たちは、肌を触っているだけではなく、肌を触ることによって、脳に働きかけているんです。
ですから、清拭をする場合もそうですけれども、あなたは清拭をすることによって、人間なんですよ、そして、まだ人間として、ほかの人たちとも出会うことができるんですよ、ということを伝えているんですね。
そういうことをユマニチュードを通して、やろうとしていて、実際にビデオを見ると、それが成功しているのが分かります。

●ユマニチュードと医療現場で学んだ基礎 何が違うか?

本田さん:そうですね、私はこれまで、基礎看護とか基礎介護の分野では、見るとか、話すとか、触れるということについては、それぞれ教わってきているところではあると思うんですけれども、それを同時に、包括的に行うという点で、私は自分の経験から、これは新しいのではないかというふうに思っています。
介護の現場では、これまでもいろんな試みが行われていますし、成功している方々も、たくさんいらっしゃると思うんですけれども、でも例えば、85歳以上の方の、3人にお1人は、なんらかの認知の機能の低下があるという状態で、私の働いているような急性期病院ですと、その認知の機能が落ちている方が、急性期の病気になって、搬送されていらっしゃる。
私たちは、医療従事者として、病気の診断や治療に関しては、非常に経験の蓄積もありますし、自信もあるんですけれども、その治療の意味が分からないというような状況になっている。
認知の機能が落ちている方に、治療を受け入れてもらうには、どうすればいいかということに、さまざまな困難が生じています。
先ほどのVTRでも、抑制というものがありましたけれども、それは私たちが治療を患者さんに届けたいということを、実現するためのものです。

●これだけ手厚いケア、現実にできるのか?

本田さん:そうなんですよね。
でも実際のところ、おむつを替えようと思って、30分格闘して、患者さんといろいろお話しをして、お願いをしてうまくいかなかった例が、この技法を用いることで、2分半でうまくいったというケースも、私たちは実際経験しています。
なので、このケアを使って、最終的には短い時間で、ケアを実施することができるということを、ぜひ皆さまにもお伝えしたいと思います。

●認知症が怖くないと思えるようになるといいが?

ジネストさん:本当に、光を与えてくれるような人たちなんです。
私たちが何か施せば、それの100倍返ってきます。
で、攻撃的な患者さんはいないんです。
自分を守ろうとしているだけなんです。

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