写真・図版

[PR]

 米国防総省は8日(日本時間同日夜)、米軍がイラク北部で、イスラム過激派のミサイル発射施設に対する空爆を開始した、と発表した。同国北部でイスラム過激派による少数派の住民への迫害が深刻化しているとして、オバマ大統領が米軍の限定的な空爆を承認していた。

 米国防総省のカービー報道官が8日朝、米軍機2機がイラク北部の過激派の移動式ミサイル発射施設を攻撃したとの声明を発表した。同施設は、北部の主要都市アルビルを治めるクルド人勢力への攻撃拠点とされ、近くにいる米要員への脅威になっているという。

 イラク北部シンジャル地区では、スンニ派の過激組織「イスラム国」に追われたクルド系少数派やキリスト教徒ら数万人が山間部に避難。子ども40人が脱水症状のために亡くなるなど、状況が急速に悪化していた。

 こうした状況を受け、オバマ氏は7日夜、ホワイトハウスで緊急声明を発表。「(起こりうる)大虐殺を防ぐ力が我々にある以上、目をつぶるわけにいかない」と述べ、最悪の事態を防ぐため、米軍の限定空爆を承認したことを明らかにした。イラク政府からも支援要請があったという。また、米軍は同日、大型輸送機が現地上空から非常食8千食、大量の飲料水などを投下した。

 オバマ氏はいったんは終結させたイラクへの軍事介入に慎重だったが、事態の悪化を避けるため、イスラム過激派の施設に標的を絞った限定的な軍事介入に踏み切ったとみられる。声明では「米国がイラクで新たな戦争に巻き込まれることは認めない」とも述べ、米軍の地上部隊をイラクに再派遣しない方針も強調した。

 米国は2011年12月にイラクから完全撤退した。一方、11年のリビア内戦の際は、国連安全保障理事会で地上軍の侵攻を除く軍事力行使を認められると、地中海上の米軍艦船からリビアの軍事施設などに巡航ミサイルを撃ち込むなど、軍事介入した。

 13年8月、内戦状態にあったシリアの首都ダマスカス郊外で化学兵器サリンが使用されたと報じられると、米議会の承認を得たうえでアサド政権に武力行使に踏み切る方針を表明。しかし、アサド政権が化学兵器を国際的な管理下で廃棄していく方針に合意すると、シリア介入は見送った。(ワシントン=小林哲、金成隆一)