【サンノゼ(米カリフォルニア州)】米IBMは、脳の機能をまねた半導体の開発で大きく進展したと述べている。

 IBMは、脳にあるニューロン(神経細胞)やシナプス(神経細胞の結合部)の機能や、その他の特徴をまねた演算処理用のマイクロチップ(半導体)を開発したと発表した。IBMは、この新しい半導体は、大半の在来型コンピューターで使われている基本的設計から大きく離れた設計で、パターンの認識やモノの分類といった作業に優れる一方、電力消費量が在来型のハードウェアよりもはるかに少なくて済むと述べている。

 IBMの開発した新型半導体は、科学誌サイエンスに掲載された論文で紹介された。それは、在来の半導体製造部門で劇的な突破口が近年少なくなっている折から、脳の機能をまねた半導体を設計しようとする同社や他の企業の努力の一環だ。ただし、この新型の半導体は、特殊な素材や生産プロセスを使うのではなく、標準的なデジタル技術も使っている。

 IBMは新型チップを市場に導入するタイミングに関する詳細をほとんど提供していないが、協力する可能性のあるパートナーとの協議をすでに始めていると述べた。同社は、複数のチップを接続し、可能なシステム設計を試験したと述べた。そして部屋サイズの超大型コンピューターから、津波のほか水中のその他の状況を感知するクラゲ型の浮遊装置に至るまで、この技術の応用例を想定しているという。

新型チップ「トゥルーノース」は消費電力を抑える設計となっている IBM

 IBMのアルマデン研究センターの研究者ダーメンドラ・モダ氏は「われわれは膨大な商業上の野望を抱いている」と述べた。同氏の肩書には、「脳から着想を得たコンピューティングの主任科学者」などがある。

 IBMの新型チップは「TrueNorth(トゥルーノース)」と命名され、サムスン電子がIBMのために製造した。サムスンは、スマートフォンやその他の携帯端末向けのマイクロプロセッサーを製造するのに用いるのと同じ製造技術を使ったという。IBMはまた、基本的な設計について、コーネル大学のニューヨーク市キャンパスの研究者と協力した。この協力事業は2008年以降、米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)から5300万ドル(約54億円)の助成金を得ている。

 IBMのこの新型チップは、在来型のマイクロプロセッサーの改善が鈍化するとの見通しを科学者やエンジニアたちが抱いている時期に発表された。歴史的にみると、メーカー各社は着実にチップの回路を縮小し、コストを削減する一方、演算速度を改善し、電力消費量を削減してきた。

 しかしチップメーカーはもはや在来型のプロセスでは劇的な改善を実現できない。とりわけ、必要な電力量が既に小都市の電力量に近づいているスーパー(超大型)コンピューターに取り組んでいる科学者たちにとってはそうだ。

 主要なスーパーコンピューターのユーザーである米ローレンス・バークレー国立研究所のホースト・サイモン副所長は、「電力は、われわれが前進する上で基本的な制約要因だ」と述べ、「この種の新型チップは、われわれが本当にアーキテクチャー(設計、構築)上の根本的な変化の境目にあることを示す兆候だ」と述べた。

 1940年代以降、大半のコンピューターやマイクロプロセッサーに使われた基本設計は、ノイマン型(数学者ジョン・フォン・ノイマンの名前にちなむ)と呼ばれており、演算を実施するコンポーネント(部分)と、データを保存する記憶回路の部分を分離している。命令やデータといった情報単位(ビット)は、これらの部分間をつなぐ「bus(バス)」によって行き来する。活動は内部時計によって同期化される。モダ氏によれば、このスキームは、繰り返される一連の数字を合計するなどのタスクにはうまく機能する。そしてこの内部クロック(プロセッサーが動作するクロック)のタイミングパルスの頻度が増加し、それにつれてチップはこの種の作業をこなすためにスピードがはるかに速くなった。

 しかし、そのような傾向だとチップの消費電力も増える傾向にある。一方、「バス」を通じてデータを行き来させると、演算が遅くなりがちだという。

 これと対照的に、脳はコンパクトで、とりわけ人の顔を認識したり、1つの音を別の音と区別したりといった作業に優れている、とモダ氏は話す。ニューロンという細胞は、近くに保存されている情報を処理・伝送し、シナプスという構造とつながっている。

 IBMによれば、トゥルーノースは54億(通常のパソコン用プロセッサーの4倍)のトランジスターを使って、100万個のニューロンと2億5600万個のシナプスに相当する力を生み出す。それらは4096個の「ニューロシナプティック・コア」という構造に組織化される。各コアは「クロスバー」という通信スキームを使って、データを保存、処理し、そして他のいかなるコアにも移動できる。

 モダ氏によれば、その設計は「イベント駆動型」だ。つまり、各コアは常に動いているのではなく、必要なときだけ動く。

 このスキームにより、チップはより省電力になる。比較可能な標準的なマイクロプロセッサーが1平方センチメートル当たり50~100ワットを消費するのに対し、トゥルーノースはわずか20ミリワット(1ミリワットは1ワットの1000分の1)しか消費しない、とIBMは述べている。

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