2014/08/08(金)更新
「海外編」に続き、渾身の「日本編」です。ここまで全体像をわかりやすくまとめた記事はなかったのではないか?と自負しております。「あまちゃん」で大友良英の音楽に触れた方々もどうぞ!
フリー・ジャズの世界的な動きについては、前回の「フリー・ジャズ超入門 15セレクションズ」を参考にしていただければと思う。日本におけるフリー・ジャズというのは、海外の動向に呼応しながらも、独自の発展を遂げていった。そこには衝動よりも論理を優先する日本的な感性があったようにも思われる。
高柳昌行らによって設立された新世紀音楽研究所が、シャンソン喫茶の「銀巴里」を借りてイヴェントを開始したのは1962年のことであった。この銀巴里セッションには、金井英人や富樫雅彦らのジャズ・アカデミーのメンバーに加え、若き日の山下洋輔や日野皓正なども参加している。世界的な規模で沸き上がってきた新しい音楽=フリー・ジャズを、自分たちのものにしようとする試みであった。
66年に山下洋輔トリオが結成され、テナー・サックスの中村誠一(のちに坂田明と交代)、ドラムスの森山威男といった鉄壁のメンバーによる演奏は、多方面から熱い支持を受けた。山下のグループには、菊地成孔、林栄一、小山彰太などが在籍しており、フリー系のスクールのような形相を呈していた時期もある。
他にも、阿部薫、高柳昌行、高木元輝といった孤高という呼び方が相応しい才能が多く排出されていくのだが、フリー・ジャズをロックやポップスにも近づけ、自由でへんてこな音楽にしていったのが、梅津和時、片山広明、早川岳晴らによる生活向上委員会オーケストラであったと思う。そしてその自由な発想が、不破大輔を中心とする渋さ知らズにも連なっていくのだ。
「ガリケードの中のジャズ」
69年の山下洋輔トリオのデビューは衝撃であった。ピアノを打ち叩き、さらには破壊までしてしまう。この異形の行動派ジャズは、音楽ファンだけでなく文化人などにもインパクトを与えていった。それは1969年という時代の激動期とも呼応している。このドキュメンタリー映像は、ガリケードが築かれた早稲田大学内での演奏で、制作したのはテレビマン時代の田原総一朗。
「ハロー・ドン・チェリー」
富樫雅彦は、秋吉敏子、渡辺貞夫などのコンボで活躍ののち、65年に自己のグループ、富樫雅彦カルテットを結成しフリー・フォームを追求していく。70年の事故により半身が不随となってしまうのだが、果敢にもパーカッショニストとして現役復帰する。その静寂と緊張感に溢れた演奏が、富樫雅彦の骨頂であるのだ。
「福島「パスタン」での演奏」
日本のフリー・ジャズ界が産み落とした気鋭のサックス奏者。29歳の若さで亡くなるまで、孤独なまでにフリー・インプロビゼーションの世界を疾走していった。演奏スタイルはサックスのソロが多かったのだが、ギタリストの高柳昌行とは『解体的交感』などの傑作を残している。「ぼくは誰よりも速くなりたい/寒さよりも、一人よりも、地球、アンドロメダよりも」は、阿部が残した有名な言葉。
「improvisation」
ギターという楽器の極限を追求したのが高柳昌行であった。若くしてプロとして活動を開始し、60年代の初頭に新たなる論理に基づくジャズを求めて新世界音楽研究所を発足させた。69年からは吉沢元治、豊住芳三郎といった猛者たちとニュー・ディレクションを結成。同時に、電子楽器やエフェクターを用いた実験的な演奏も始めている。これらは音響派の開祖であり、早すぎたエレクトロニカでもあったのだ。
「Inland Fish」
フリー系のベーシストといえば、やはりこの人であろう。高柳昌行らとグループを組んでいたこともあるが、基本的にはベース(コントラバス)のソロ。弓弾きや楽器を叩くなど、多彩なテクニックを駆使して、夢幻なる世界を繰り広げていた。本作は74年に新宿安田生命ホールでライヴ録音されたもの。無尽にイマジネーションが広がっていく。
「ORIGINATION」
吉沢元治トリオを経て富樫雅彦のグループに加入し、69年には日本のフリー・ジャズ史に燦然と輝く傑作『ウィ・ナウ・クリエイト』に参加した。その後も、高柳昌行や豊住芳三郎のグループに加わるなど、フリー界を邁進していった。この演奏は、ドラムス/パーカッションの土取利行とのデュオで、75年に渋谷のライヴハウスで録られている。
「安田節」
サックスの梅津和時を中心に、早川岳晴、原田依幸、片山広明、板谷博、安田伸二らが参加した、生活向上委員会オーケストラ(大管弦楽団)のメジャー・デビュー盤。生活向上委員会、略して生向委のアルバムがメジャーから発売されたのが不思議でもあるのだが、これも時代であったのか。ある意味、アート・アンサンブル・オブ・シカゴの日本版的な色合いもあるが、こちらのほうがノー天気でハチャメチャ。とはいえ、その背後にはどっしりとフリー・ジャズが構えているのだ。
「アケタの店40周年記念ライブ」
ジャズ・ピアニストでオカリーナ奏者、レーベル・オーナー、そしてライブハウス「アケタの店」の主人。自らを「天才アケタ」と自称しているのがピアニストの明田川荘之だ。そのスタイルも縦横無尽で、スライド・ピアノ系のオールド・スタイルで弾いていたかと思うと、次の瞬間には肘打ち、空手チョップのフリー・スタイルへと変貌、さらには歌まで飛び出すという奇抜なもの。それでいて自由にスウィングしまくっているところが、天才アケタである。
「MWSIK Part 1」
※こちらの動画は公開者の設定により別ウィンドウで再生されます。
大正11年生まれだというから、かなりのヴェテランの部類に入るのだが、その自由な気風から多くのミュージシャンから慕われていた。この79年のアルバムには、渡辺香津美、坂本龍一、望月英明、小山彰太らが参加して、世代を超えたインプロビゼーションが繰り広げられている。井上の荒れ狂うようなサックスの背後で、渡辺香津美がフリーキーなプレイを展開しているのが興味深い。
「はたらく人々」with 忌野清志郎
フリー・ジャズとロックとを結びつけたのが、この梅津和時であろう。忌野清志郎のバックでサックスを吹いている小柄な髭のおっさん、としてお馴染みかもしれない。この曲は、元生活向上委員会のメンバーたちと組んだD.U.B.(ドクトル梅津バンド)のアルバムで、忌野清志郎のヴォーカルがフィーチャーされている。梅津はその後も、KIKI BAND、こまっちゃクレズマなど、ジャンルを超えたバンドで活動を続けている。
横浜エアジン・ライヴ
渋さ知らズの代表曲のひとつ「ナーダム」の作者としても知られている。80年代に山下洋輔のグループに参加したことで頭角を現した。片山広明との双頭リーダー・バンド、デ・ガ・ショーや、CO2、フォトンなど、多くのユニットでも活躍しているが、最も新しいのが、岩見継吾、磯部潤、吉田隆一らと共に結成したガトス・ミーティングだ。乱雑に個性が集まり、得体のしれないパワーを発揮している。
「秘宝感」
山下洋輔の後継者といえば、このスガダイローだ。中学時代に山下のピアノを聞いて、ジャズに目覚めただけあり、鍵盤を強打するプレイ・スタイルも似ている。2014年には、その師である山下洋輔とのデュオ・アルバムを発表した。やはりユニットでの活動が多く、この秘宝感もそのひとつ。昭和歌謡的な世界がいつのまにかフリー・フォームになったり、その混濁ぶりが実に楽しい。
「Song For Che」
大友良英といえば、最近では「あまちゃん」の作曲家として国民的な名声を得ているが、元を正せばフリー系ギタリスト高柳昌行の弟子であった。その後は、ヒカシューのメンバーとなり独自の展開をみせていく。やはり根底にあるのは、フリー・フォームでありインプロであり、自身のグループGROUND-ZEROや、ニュー・ジャズ・クインテットなどでは、このあたりを演奏している。この曲は、チャーリー・ヘイデンがチェ・ゲバラに捧げて作ったものだ。
「Tohjingbow」(中村大、奥瀬健介、加藤崇之)
菊地雅晃、翠川敬基、ジョージ大塚、渋さ知らズらとのセッションを経て、現在は、ギター・ソロ、デュオなどで演奏することが多い。ガット・ギターによるボサ・ノヴァから、エフェクトをふんだんに使用した即興演奏まで、そのベクトルは非常に広い。ギターを音響的に使う発想などは、高柳昌行の影響も感じられるところである。
「ナーダム」
白塗りのダンサー、巨大なオブジェなど、アングラ的な要素が存分に染み付いたグループだ。ダンドリストの不破大輔を中心に80年代の末に結成され、日本国内だけでなく海外でも積極的に公演活動をおこなっている。メンバーには、片山広明、吉田隆一、内橋和久、早川岳晴、スガダイローなど、日本のフリー/インプロ系のミュージシャンが勢揃いしている。また、忌野清志郎、山下洋輔、山本精一、遠藤賢司らが共演したころもある。
第117回:フリー・ジャズ超入門海外編 15選
Drillspin column
DrillSpinとしては初めて踏み込む領域ですが、これは入門編。お気に入りが見つかったら深く掘って行っていただければと思います。日本編はまた後ほど!
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