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笹井芳樹博士が語った「これまでの道のり」と「再生医療の未来」

科学雑誌Newton 8月8日(金)11時46分配信

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笹井芳樹博士が語った「これまでの道のり」と「再生医療の未来」

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笹井芳樹博士が語った「これまでの道のり」と「再生医療の未来」
笹井芳樹博士(2012年8月撮影)

2014年8月5日に亡くなった理化学研究所の笹井芳樹博士は,発生学・幹細胞生物学などの生命科学分野で,数々の画期的な業績をあげてきた。研修医から基礎研究者へと転身し,再生医療への道すじを切り拓くまでの道のりを笹井博士に聞いた。(この記事は2012年8月に行われたインタビューを再掲したものです)

  ◇  ◇

もともとは内科医だとうかがっています。

──1980年代後半に研修医として,大学病院ではなく臨床の最前線だった病院に入りました。これからの医学に必要なことを肌で感じたいと思ったのです。
当時,脳のようすを撮影できるCTやMRIが通常の診療にも使えるようになり,高精度で診断できる病気がふえていました。ですが,神経の難病には,治療法や特効薬はないものが多かった。たとえば,いずれも運動障害がおきるALS(筋萎縮性側索硬化症)や脊髄小脳変性症などの患者さんも担当しました。そうしたなかで,体の中で脳がいちばんわかっておらず,脳がいたんだときの病気はいたましいことを知ったのです。


なぜ基礎研究をはじめたのですか?

──治療法を探るにしても,臨床医として研究できる範囲は限られると思ったことが一つです。また当時,脳の神経細胞ではたらく遺伝子の機能を,ごくわずかな細胞からでも調べることのできる分子神経生物学がちょうどはじまったころでした。これは革新的かもしれないと思い,大学院に進んで研究をはじめました。
研究する中で,脳は圧倒的に複雑であるにもかかわらず,きわめて精密に構築されることが,とても不思議だと思いました。細胞がふえつづけるだけなら,たんなる肉団子になるはずですよね。こんな複雑なものがどうやってできるのだろう,と思いました。そうして脳の発生を調べる基礎研究をスタートさせたわけです。
1993年にアメリカに留学し,カエルの胚を使って脳の発生の研究をつづけていました。脳は,胚の一部である外胚葉からできます。そして,外胚葉はよけいな刺激がなければ脳になるけれども,そうならないようにブレーキがかかっていることを明らかにしたのです。ハエや魚類のゼブラフィッシュでも,同じしくみでした。


幹細胞の研究をはじめたのは,そのあとのことですか?

──ええ。哺乳類の脳の発生も同じしくみなのか調べたかったのですが,哺乳類の胚を研究する方法は確立していませんでした。ちょうど京都大学にもどって新しいことをはじめようとしていたときだったこともあり,胚に近いES細胞(胚性幹細胞)を使いだしたのです。より単純な幹細胞を道具として使うことで,脳のでき方をより深く調べられるはずだと思いました。


ES細胞を使って,どういった研究をはじめたのでしょうか。

──はじめに,マウスのES細胞を,9割以上もの効率で脳の神経細胞に変化させることができる培養条件をみつけました。それは,培養液によけいな成分を入れないことでした。哺乳類でも,よけいな刺激がなければ神経細胞ができるしくみがあることがわかったのです。


両生類や魚類,哺乳類にも共通のしくみが明らかになったのですね。

──ただ,予想外なことがおきていました。脳の中には何百種類もの神経細胞がありますが,不思議なことに,脳内では1パーセントもない種類の神経細胞が,できた神経細胞の30パーセントも占めていたのです。なぜだろうと思いました。これが,望みの神経細胞を手に入れる今の研究につながり,発生学の研究を医療応用に生かすきっかけにもなりました。

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最終更新:8月8日(金)11時46分

科学雑誌Newton

 

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