テレビ局記者は“24時間・常在戦場”
―新聞記者については、OBも含め、メディアで発言する人が多いと思いますが、それに比べるとテレビの報道記者については情報が少なく、世の中にあまり知られていない印象を持っています。新聞同様、基本的には新卒で入るパターンが多いと思いますが、安倍さんは中途採用ということですので、人材の流動性もあるのでしょうか。
安倍宏行氏(以下、安倍):僕は昭和30年生まれで、就職活動は第二次オイルショックの後だったので、就職難の時代でした。本当は商社マンを目指していたのですが、大手商社の採用は数名という超難関だったため、日産自動車に入社し、輸出を13年ほどやっていました。
その後、1992年にフジテレビに入社したのですが、その頃は、ありとあらゆる業種から採用していましたし、生え抜きの人ばかりではなかったので、仕事もしやすかったと思いますね。フジは東京のキー局の中でも後発でしたし、視聴率も"振り向けばテレ東"、つまり4位という時期がありました。そういうこともあって、わりと中途採用には積極的だったと思います。当時は、どのテレビ局も積極的に外部の人材を採用していました。特にTBSは雑誌や通信社から金融・経済に強い記者を十数名採用して、"一大経済部"を作ろうとしていたんです。
そういう意味で、人材の流動性はあるとも言えます。ただ、局にもよると思いますが、テレビ局の社員は辞めないんですよね。考えられないような給料で囲い込んでいますから、辞めようというインセンティブは基本的に働かないですよね。
―テレビ局の記者と新聞記者との違い、難しさはなんでしょうか。
安倍:「取材して記事を書く」という意味では同じです。アナウンサーがスタジオで読むための、長くて1分半分、短ければ30秒分程度の原稿を現場で書いて送稿します。最近では映像とともにウェブサイトに掲載されている記事も、記者が書いています。
ただ、テレビの場合は、画面に出てリポートする、“しゃべってなんぼ”という部分が新聞記者と圧倒的に違います。また、新聞記者は原稿の締め切りが、朝刊と夕刊の1日2回しかありませんが、テレビは締め切りがありません。24時間"常在戦場"で、何かあれば記事を書いて、必要であれば画面に出てしゃべるというのが特徴だと思います。
さらに、リポートを撮るということになると、現場にカメラマンが来て、その前でしゃべる。その映像が本社で編集され、オンエアされます。大きな事件・事故の場合は、現場に中継車が来て、生中継でしゃべるということもあります。NHKなどでよくみられるように、スタジオで記者が解説するというケースもありますから、そういう意味では、新聞記者と比べて特殊な技能を要求されるかもしれません。
今、お話ししたような内容が、本来のテレビ記者の仕事なんですが、おっさんの記者が出てきて噛みながらしゃべるよりも、若くて爽やかな男性アナや女子アナが出てきて「こちらが現場です」って言う方が良いでしょ、という視聴率至上主義、VTR至上主義になってきたために、そういう機会も減り、記者の存在感が薄れてきています。
こういう状況が、まさに最初の質問のような、テレビの記者ってあまり見ないけど何をしているんだろう、という疑問が生まれる理由になっているんだと思います。
"ニュース"と"ワイドショー"は何が違うのか?
―視聴者にとっては、"ニュース"と"ワイドショー"の境界は曖昧です。同じだと思っている人もいると思いますが、内部で制作している人間は、どのように切り分けて考えているのでしょうか。
安倍:確かに一般の人にはわからないと思いますね。最近では"ワイドショー"のことを"情報番組"と言っていますが、まず、ニュース番組とは作っている部局が違うんですね。フジテレビの場合、情報番組である「めざましテレビ」や「とくダネ!」、「Mr.サンデー」は、情報制作局が作っています。そして、ニュース番組である「スーパーニュース」やお昼の「スピーク」、夜の「ニュースJAPAN」は報道局が作っている。
情報番組はほとんどが外注で、放送時間も長いので、ものすごい数の制作会社・スタッフが関わっています。系列によってはバラエティの制作局が作っているパターンもあると思います。フジテレビの場合も午前中は、朝4時台から11時半くらいまで情報制作局の番組で埋まっていますよね。
基本的に、取材して原稿を書いて、映像を撮っているのは報道局です。それらの素材が情報制作局に貸し出されています。もちろん情報制作局も独自でカメラを回すんですが、一次素材は報道局が持っています。作っている人達は自分の番組だけを意識していますから、他の部署の番組については特段意識していません。ですから、視聴者の"全部同じフジテレビが作っているもの"という認識は、テレビマンにはあまりないのではないでしょうか。
トップや役員は両方を見ていますが、報道と情報制作が連携を密にしていないことには、問題があると思います。
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