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【社会】

今響け 不戦の鐘 あす長崎原爆投下時刻 一斉に

朗読劇を終えた若者と交流する鶴文乃さん(中)=茨城県筑西市の市立明野公民館で

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 長崎で被爆し、家族を亡くした作家鶴文乃(つるふみの)さん(73)=茨城県つくば市=が、長崎に原爆が投下された時刻に合わせて鐘を鳴らす「平和の鐘、一振り運動」を提唱している。九日は、安倍政権が集団的自衛権の行使を容認してから初の長崎原爆忌。戦争ができる国に向かう空気に憤る鶴さんは「平和を願う活動は、自ら動くことが大事」と話し、鐘の響きの広がりを願っている。 (松尾博史)

 「本来、寿命は神が決めるはずなのに、私は、人でなしの人の手で決められたのだ」

 三日、茨城県筑西市で開かれた被爆者体験記の朗読会。小学生から六十代までが登壇し、鶴さんが創作した詩も読み上げられた。

 客席で聴いた鶴さんは「小さい子も一生懸命に読んでいた。原爆で、あのくらいの年齢の子どもたちも死んだの。平和な世界にしなければと、感じてもらえたらうれしい」と語った。

 長崎市に生まれ、四歳のとき、爆心地から三・五キロほどの疎開先で被爆した。爆心地近くにいた父=当時(48)=と長兄=同(16)=を失い、貧しさの中で育ててくれた母を見て育った。

 戦後誕生した憲法九条は「被爆者の苦しみを癒やす贈り物」だったという。「肉親を失い、健康不安を抱えて生きてきた。ただ、自分たちの犠牲が平和憲法の礎になったと思えば、希望があった。二度と戦争をしないお墨付きのようで、救われた気がした」と振り返る。

 だから、集団的自衛権をめぐる安倍政権の閣議決定は受け入れられない。「戦争ができる国になる一歩を踏み出した。しかも、憲法改正手続きによらず、解釈変更で決めたことは納得できない」と憤る。

 鶴さんは約十五年前から、原爆投下を題材にした童話や被爆者の証言資料を英訳し、欧米やアジアの約二十カ国の学校などに送ってきた。二〇〇六年に始めた「平和の鐘、一振り運動」もその一環。長崎市の平和公園にある「長崎の鐘」が鳴り響く八月九日午前十一時二分に合わせ、国内外の寺や教会で一斉に鐘を鳴らす活動だ。

 インターネットなどで広がり、昨年は米国やフランス、オーストラリアなど国内外の約六十カ所で行われた。

 今年六月に初孫が生まれ、これまで以上に「戦争のない平和な世界になってほしい」と願う鶴さん。「生きている人は、命がつながる世界を残す努力をしなければならない。『誰かがやってくれる』と人ごとにせず、一人一人の自覚が必要ではないか」

 新たな気持ちが加わり、今年も九日につくば市内の寺で鐘を鳴らす。

 

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