被爆者手帳:4294件却下 「第三者証人2人」が壁
毎日新聞 2014年08月08日 08時30分
2013年度までの10年間に被爆者健康手帳の交付申請が全国で少なくとも8766件あった一方で、同期間の却下件数が4294件に上ることが、毎日新聞が47都道府県などに実施したアンケートで分かった。手帳取得を望みながら取得できない人の概数が判明するのは初めて。手帳の交付を巡っては、国が申請時に求めている被爆の証人を見つけるのが困難という指摘があり、支援団体は審査手法の改善を求めている。【樋口岳大、小畑英介】
◇04〜13年度申請8766件
厚生労働省は、手帳の申請、交付、却下の件数について、毎年自治体から報告を受けているが、「業務上まとめる必要がない」(健康局総務課)などの理由で公表していない。
毎日新聞は7月、手帳の交付業務を行っているすべての自治体(47都道府県と広島、長崎両市)に04〜13年度の手帳の申請、交付、却下件数を質問し、北海道、栃木県を除く47自治体から回答があった。回答があったすべての自治体で申請の記録があった。ただし13自治体は一部期間分しか答えていない。
04〜13年度の手帳の交付件数は計4285件。広島、長崎両県市が申請の大半を占め、4自治体の合計は、申請7355件▽交付3063件▽却下3840件−−だった。申請を取り下げたり死亡したりしたケースなどもある。
また、審査で難しい点を尋ねたところ、「証拠書類の散逸や証人の不在などにより、事実の調査、認定が極めて困難」(神奈川県)、「被爆時の記憶が断片的になってきている。死亡や所在不明により第三者の証言が得られない」(鹿児島県)などと回答。長崎市は「被爆者は高齢化して、記憶が薄れあいまいである」とした。
手帳取得を支援している長崎市の市民団体「在外被爆者支援連絡会」の平野伸人共同代表は「却下件数は驚くべき数字。行政は証拠がなければ認めないという姿勢ではなく、本人の申述を最大限尊重するなど、援護なき被爆者を生み出してはならないという原則に立って判断すべきだ」と指摘した。
◇69年後の申請 被爆者搬送の男性
長崎県長与町の松本兼敏さん(86)は、長崎原爆投下の翌日、被爆者を救護搬送した。被爆者を救護した人が被爆者健康手帳を取得できることを知らず、原爆投下から69年の今夏、やっと交付申請したが、被爆事実を証明する証人を探し出すことができなかった。