被爆者証言:動画をネットに 「見殺しに」苦しみ今も
毎日新聞 2014年08月08日 12時55分
◇東京のNPO、4部構成で計36分
人を見殺しにした私が生きていてもいいのだろうか−−。広島で原爆を経験した人たちの思いを切り取った映像「原爆は、人間として死ぬことも生きることもゆるさなかった」が、インターネットで公開されている。逃げる際、「周囲の人たちを見捨てた」という気持ちが負い目になって、今も被爆者たちを苦しめている。そこに焦点を当てて製作したNPO「ノーモア・ヒバクシャ記憶遺産を継承する会」(東京)は、原爆の非人道性を広く訴えられることから、続編や英語版も製作する。
映像は4部構成で計約36分。「少女3人を見捨ててしまった」と苦しむ札幌市の越智晴子さん(91)と、自宅の下敷きになった母を置いて逃げざるを得なかった同NPO代表の岩佐幹三(みきそう)さん(85)=千葉県船橋市=の証言を公開している。
「心の中で謝るしかなかった。人として許されない行為だった」。越智さんは被爆後に避難する際、3人の少女から「一緒に連れていって」とすがりつかれた。一人は骨が見えるほど背中が大きく裂け、セーラー服の少女はやけどで顔がボールのように大きく膨らんでいた。
一緒に逃げたものの、越智さん自身も大けがをしており、途中で会った兵隊に勧められ、少女たちに無人の救護所で助けを待つよう伝えた。3人は悲しそうに従ったという。
越智さんは戦後、血まみれの人々が「なぜお前だけ助かるのだ」と手を伸ばしてくる夢に悩まされた。「忘れられるなら忘れたいが、現実を訴え続けることが私の使命」と話す。
岩佐さんは、猛火が迫る中で動けなくなった母が、最後に唱えていた般若心経が耳に残る。「母は『逃げなさい』と言ったが、助けられなかった自分が殺したのと同然。僕らにとって戦争は終わらない」と話した。
映像は動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開。同NPOのホームページからも視聴できる。【稲生陽】