●巻頭特集 積極かん水のためのノウハウ
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水は光合成の原料。
「スムーズな生育」や「増収」のためにかん水は重要だが、
「肥料を効かせる」「温度を下げる」などのために活かす方法もある。
かん水をラクにする方法も含めて、農家の水やりの技を結集。水をたっぷりやるしくみ
サイフォンの原理で ラクラク無動力かん水
福島・東山広幸
中山間地の重力エネルギー
私は、見渡す限り平らな北海道の水田地帯で生まれ、現在は福島県いわき市の見渡す限り山ばかりという山間部で百姓をやっている。平野部に比べると中山間地に有利な点はほとんどないといっていいのだが、唯一あるとしたら、それは重力エネルギーが使えるということだろう。平たくいえば、落差(高低差)で水を流すことができるということだ。
一般に、減反田などでは水口から水を引くことができるが、畑として使う場合、田んぼのように一面湛水状態にするのは不都合で、できればかん水したいところだけに水を引きたい。もちろんエンジンポンプで引くこともできるが、サイフォンの原理を使えば燃料も不要で、長時間連続的にかん水をすることが可能だ。
いかなる動力も使っていないサトイモのかん水。サイフォンの原理で用水から水を引き、均等に穴を開けた塩ビパイプで散水している ポイントは「エア抜き」
サイフォンとは、低い排水口側の水が取水側の水を引っ張って水が連続的に流れる現象だ。100円前後で売られているあの灯油ポンプを思い出してもらえばいい。この原理を使えば、取水口と排水口に落差さえあれば、なんの動力も不要で、パイプが水面よりも高いところを通っても(水の流れが重力に逆らっても)かん水が可能である。
ただし、サイフォンの原理を利用するには、パイプやホースの中の空気を完全に抜かなくてはいけない(エア抜き)。これをしないと水はまったく出てこない。水を吸っても壊れない掃除機などの「真空ポンプ」を使えば簡単にエア抜きができるが、野良では電源を使えないことが多いし、そんな掃除機をふつうは持っていない。
そこで、水の重さを使ってエアを抜くのをお勧めする。やり方は、言葉で説明しにくいので次ページの図を見てほしい。
エア抜きは、用水の水面より高い部分が少なく、用水と排水口の落差が大きいほど容易だ。一度エア抜きをすれば、30cmほどの落差でもかん水は可能だが、落差が大きくてパイプが短いほど水量を多くすることができる。
エア抜きのやり方
エア抜きの様子 取水口は金網でガード 取水口にぴったりつけるとすぐ詰まる 黒色ポリエチレンパイプがお勧め
紹介した方法で水を引く場合、使用するパイプにはある程度の柔軟性が必要で、しかも負の水圧(負圧)で潰れにくいことも求められる。お勧めは水道用の黒色ポリエチレンパイプである。太さは様々あるが、20mm口径(ひと巻き120m)のものが水量もそこそこで、10a前後の畑のかん水には使いやすいと思う。
取水口には、落ち葉などで詰まらないよう、必ず網をつける。粗めの金網が目詰まりしにくくてよい。
また、排水側にバルブを付けておいて、使わない時はそのバルブを閉じておけば、かん水のたびにエア抜きする必要がなくなる。バルブを付けなくても、使わない時は排水口を用水の水面より少し高いところに上げておくだけでもよい。排水口を用水の水面より下げればまた水が出る。
なお、排水口からそのままウネ間かん水してもいいが、排水性のいい畑では、畑全体に水が行き届かない場合もある。そこで、穴を開けた塩ビパイプ(VU管。八九ページ写真)をつなげ、必要に応じてパイプに傾斜をつけると比較的均一に掛けることができる。
◇
中山間地で水田を転作している方は、ぜひかん水に利用してみてもらいたい。ただし、水の利用には水利権が必要な場合が多いので、トラブルのないように……。
(福島県いわき市)
※198ページからの連載記事もご覧ください。
この記事の掲載号『現代農業 2014年7月号』特集:積極かん水のためのノウハウ
イナ作 流し込み施肥を確実に/ボクは中学生農家/野菜 遅出しで当てるワザ/オレの果樹園にはこの草だ/いけるぞ!国産オリーブ/飼料米、豚にもじゃんじゃん食わせる/身体がよろこぶ農家の長靴/自分でできる 農家の井戸掘り/ブドウのこれっきり摘粒法 ほか。[本を詳しく見る]