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米Appleの元副社長が説く、人生とキャリアを充実させる8カ条
Inc.:ハイディ・ロイゼン氏は、シリコンバレーの有名人です。14年間、自分の会社を経営したあと、アップルの副社長としてデベロッパーとの関係構築に尽力してきました。現在は、DFJ Ventureの投資家の1人であり、また、スタンフォード大学で「Spirit of Entrepreneurship(起業家の精神)」という授業を教えています。ロイゼン氏は、広大なネットワークを持っており(おかげでハーバードビジネススクールのケーススタディにもなっているほど)、その影響力を優雅に行使しています。
今年の卒業式の前、彼女は母校のスタンフォード大学でスピーチを行い、30以上のテック業界の経験から学んことをシェアしました。その内容は、まるで未来の起業家に向けた学位授与式のスピーチのようであり、彼女の確かな経験に基づいた宝石のような格言に満ちていました。
ここで紹介する8つの信条は、ロイゼン氏がテック業界でキャリアを築き、ネットワークを広げ、イノベーションを起こしていくために大切にしてきたものです。このスピーチは、スタートしたばかりの起業家たちに向けたものですが、あらゆるステージにいる起業家にも、起業家ではない人にも役立つはずです。
1. 困難なことをしていないとしたら、あなたは時間を浪費している
メリンダ・ゲイツさん(ビルゲイツ氏の妻)が部屋に入ると、幼い娘さんが靴を履こうとがんばっていたそうです。「こんなの難しいわ」と少女は言いました。「しかし、私は困難が好きです。私はこの言葉を愛しています」とロイゼン氏。「困難なことをたくさんくぐり抜けた後になれば、最良の時とは困難な時であったことがわかるでしょう」
成功している起業家はフローに入るチャンスを常にうかがっています。「あなたは知っていますか? 能力の限界で働いているときの感覚を。何かにチャレンジして、うまくいかず、さらにチャレンジして、時間が矢のように過ぎ去っていくあの感覚を。それこそが、自分自身を本当に試している瞬間なのです」
毎日、毎週、自分に聞いて下さい。「自分は今、困難なことに取り組んでいるか?」と。多くの野心家たちが、自分の前途から困難なことを取り除こうと必死になっています。彼らは楽になりたいのです。あるいは、困難なことをせずに夢の仕事を手に入れようとしています。しかしそれは間違った考えです。とロイゼン氏。「手に入れてしまえば、退屈になるでしょう。困難なことを探してください。起業家であることの素晴らしさは、それが困難であることです。セーフィティーネットはありません。毎月の給料もありません。すべて自分でやらねばなりません」
2. あなたの倫理感が人生の明暗を決める
ロイゼン氏が最初の企業「T/Make」のCEOだったころ、スプリンクラーが故障して、倉庫の品がすべてダメになったことがありました。幸運なことに、ほとんどの物はあまり価値がないものでした。さらに幸運なことには、家主はその事実を知らず、保険ですべての損害を払うと申し出てくれました。「それは誘惑でした。うまくやれば、15万ドルを手にすることも可能だったのです」とロイゼン氏。「しかし、私は真実を報告しました。倉庫の品に価値がないことは、社員たちも知っていたからです。私がズルをすれば、社員たちにどんなメッセージが伝わったでしょうか?」
社員に模範を見せたいなら、自分のあらゆる行動に気を配ってください。企業のリーダーがお金を優先させれば、社員たちにズルをしてもいいというメッセージを送ったことになります。「それは、こう言うのと同じです。『ウソの経費報告書を提出してもいいですよ。会社の備品を家に持ち帰ってもいいですよ』」 そんなの当然でしょ、と言うかもしれませんが、実践するのは大変です、とロイゼン氏。「きっとこう思う時が来ます。簡単な道を歩いたっていいじゃないか。これくらいのことは言ってもいいじゃないか。売るためになら顧客に多少のウソをついたっていいじゃないかと」
彼女は続けます。「時にはうまくごまかせるでしょう。しかし、大抵はうまくいきません。あなたがすると決めたことが、あなたの会社の文化を作ります。倫理的な決断を迫られたとき何をするか。私自身、年齢を重ねるほど、このことの重要性が増していきました。それは、夜によく眠りたいからでもあります。そしてなによりも、一緒に働く人や、つながりを持つ人に対して、良い貢献者でいたいからです。そうするには、自分を常に高い基準に保ってください」
3. 直感は大抵正しい
スタンフォード大学の学生時代、ロイゼン氏は「ビジネスにおける創造性」という授業をとっていました。この授業は、学生に一週間のエクササイズをさせます。次の日に決断すべきことをひとつ書き、眠りにつきます。翌朝目覚めたら、直ちにそれを実行します。目的は、学生に直感的決断とはどういうものか、また、それがどれほど正しいかを教えることです。
とはいえ、近年、テックカルチャーは反対の方向へ向かっています。うんざりするほど膨大なデータを使って意思決定をするのです。「データが多いほど良い意思決定ができるという考えがあります。それが正しい時もあるでしょう。しかし、いつもではありません」とロイゼン氏。
「直感は、長年の経験と、これまで無意識に観察してきた人間性への理解に基いています。意識せずに獲得してきた情報をすべて駆使するとも言えます」彼女は、直感の大切さを苦労して学びました。とくに、誰と一緒に働くか、誰を雇い続けるか、誰を解雇するかなど、人についての意思決定をするときにです。「データを優先して、直感に従わなかったとき、大抵は後悔する結果に終わりました」
4. チーム選びが一番重要
「ほとんどの企業の命運を分けるのは、チームの質です」長年、ロイゼン氏は、多くの若い起業家が同じ過ちを犯すのを見てきました。彼らはアイデアを持って、自分のビジネスを始めます。しかし、役員を雇う段階になったとき、自分より知識がある人を招き入れようとしません。「彼らはおびやかされたくないのです。それで、自分と同じ年代で、同じような知識を持っている人を雇うのです」 これは大きな損失です。自分が脇に追いやられるのを恐れるばかりに、各分野のエキスパートを雇うチャンスを逃しているのです。
「部屋で一番かしこい人間でいたいなら、愚鈍なチームを作ることになります。自分より営業の知識がない人を営業副社長にしたいですか? 自分より会計の知識がない人をCFOにしたい? もちろん違いますよね」とロイゼン氏。「正しい人間を招き入れるリスクをとってください。そして、彼らを信頼してください。あなたの仕事は、そうした人に権限をもたせ、力を発揮させることです。私の目標は、いつも部屋で一番愚かな人間でいることです。本当に素晴らしく、最高の人たちに囲まれていたいからです。そのほうが、エキサイティングで、世界を変えるようなことができます」
5. 交渉とは、お互いのニーズの最適な交差点を見つけること
ロイゼン氏が受け持つビジネススクールの授業でこんなことがありました。学生たちは売り手と買い手に別れて、車の価格交渉をします。全員が同じ情報を与えられています。ところが、授業の終わりに調べてみると、取引価格の最高値と最低値が劇的なまでに違っていました。ロイゼン氏はショックを受けました。そして、取引とはどういうものかに気づいたそうです。彼女は言っています。最初、取引とはゼロサムゲームに見えるかもしれません。できるだけ高く売り、できるだけ安く買うべきだと。相手のことなど気にせず、ただ取引に勝てばいいのだと。
「私はもはや、人生にこのような取引があるとは信じていません」とロイゼン氏。「すべては関係性です。人生をゼロサムの取引だとみなせば、『先のことなど知らない、今、取れるだけ取ってやろう』と考えるかもしれません。しかし、関係性の視点で見れば、すべては違ってきます」
「人生にゼロサムゲームなどありません」
「もし私があなたと取引をするなら、自分だけでなく、あなたにも利益がもたらされるようにします。結果的に、ふたりとも恩恵を受けます。そして、あなたはまた私とビジネスをしたいと思うでしょう。これこそが、本当に本当に重要なことです」
ロイゼン氏は人生の大半をシリコンバレーで過ごしてきました。そして、同じ人と何度も何度も会ってきました。つまり、長い時間をかけて関係性を築いてきたわけです。FacebookやEtsyなど、関係性が見えるサイトの登場により、この傾向にますます拍車がかかっています。「あなたがしてきた取引の集合体があなたという人間を表現します。なぜなら、取引とは関係性だからです」とロイゼン氏。「誰かと会うときには、取引よりも関係性を考えてください。相手をよく知り、相手もあなたをよく知れば、お互いに助けあう関係になれます」
6. 人生は、本当に本当にきまぐれ
「悪いことは起きます。失敗もするでしょう。自分ではコントロールできないことも起こります。この事実に向き合う必要があります」こうした現実において、どうやって生き残ればいいのでしょうか? ましてや、成功するには? ロイゼン氏は短いアドバイスをしています。
「幸福の鍵は、期待値を下げること」
夢を追いかけるなという意味ではありません。その道中は完璧にはいかないことを覚悟せよということです。例えば、ロイゼン氏は海外旅行のとき、預けた荷持が紛失することや、フライトの到着が遅れること、現地でレンタカーが準備されていないことを常に想定しておくのだそうです。「起こりえる不測の事態はすべて想定しておきます。なので、それが実際に起きてもストレスを感じません」と彼女。「手荷物に着替えを持っているし、到着から2時間以内は会議を入れません。何かが起こることを想定しているので、いざ何も起きないと、うれしい驚きに変わります。つまり、ストレスの95%は自分で作り出しているのです」
ロイゼン氏は、計画を詳細に立てることで有名なひとりの起業家を覚えているそうです。物事がうまくいくには、すべてが完璧に予定通りに進む必要があります。しかし、当然そうはなりません。「すべてが完璧にいくと期待していれば、悪いことが起きるでしょう。次のマイルストーンに達する前に、お金を使い果たすかもしれません。人生のきまぐれを受け入れ、悪いことが起きても、また立ち上がってください」
「倒れて、起き上がるのを拒否すれば、残りの人生ずっと倒れたままです」
人生の「きまぐれ」には逆の顔もあります。本当に素晴らしいことが起きる可能性もあります。そうなったときに尻込みしてはいけません。どうなるかは誰にもわかりません。例えば、本当に最高な企業3社から、同時に仕事をオファーされたとします。「あなたは選択を間違え、その企業が倒産、失業してしまったとします。しかし、それはあなたが今まで経験した一番素晴らしいことかもしれません。安全な職に就いたままでは学べなかった大切なことを学べたのですから」
少し前、ロイゼン氏は一冊の本に出会いました。その本は、人々に、過去5年で自分に起きた最高と最悪のことを尋ねて回ったものです。驚くことに、ほとんどの人が同じことを訴えていたそうです。離婚、がん、失業、経験したことはさまざまだったとしてもです。「周りの人に、どんな出来事が人生を良い方向へ変えてくれたかと尋ねれば、きっとその回答に驚くでしょう。こういうことです。人生のきまぐれを受け入れれば、ときに、最悪の出来事が人生を良い方向へ導くのです」
7. 時間の使い方をよく考える
「あなたが持っているもので一番重要なものは時間です。時間は増やせないからです」
「お金と助けがあれば、時間を効率よく活用できるでしょう。しかし、1日の終わりには結局時間は使い果たされます。ですから、時間の使い方には本当に敏感でなければなりません」とロイゼン氏。「多くの人が物事にどれだけ時間がかかるか理解していません。1000通の未読メールを抱えて、『どうすればこれを処理できるんだ』と言うのです。解決策は、1日8時間のうち、仕事に5時間だけを割り当て、残りの3時間をメールの処理や、電話、情報の収集のために確保することです。誰かが、何かをする時間がないと訴えるとき、私はいつもこう言います『できます。ただ、それをすれば、ほかのことができなくなるだけです』」
ロイゼン氏のアドバイスはこうです。時間の使い方をすべて洗い出し、それぞれの重要度を調べます。どうでもいいタスクが時間を奪っていることに気づいてください。読書は時間がかかります。そして、本当は何に時間を使いたいのか、何が自分の能力を高めてくれるかをよく考えます。理想的にいけば、この作業で、内省と睡眠のための時間が少し確保できるでしょう。しかし、ロイゼン氏自身、これが簡単なことではないのを理解しています。
「私もかつて起業家だったとき、バランスのよい生活を送っていませんでした」と彼女。「私たちはいつも時間に追われています。やりたいことすべてをする時間がない時期だってあるでしょう」それでもトレードオフに気づいていればOKです、と彼女。仕事に使う時間が増えれば、家族や友人と過ごす時間が減ります。「大切な人との関係を維持するのに時間は必要ないという幻想があります。しかし、実際は必要です」完璧なバランスをとるのは難しいでしょう、しかし、挑戦し続けることが大切です。
「あなたが自分にスペースを与えなければ、あなたに起こる良いきまぐれを受け入れる余地もなくなります」
8. 「20 - 40 - 60ルール」
女優シャーリー・マクレーンもこのルールを信奉しています。「20歳のころは、他人が自分をどう思うかばかりを心配する。40歳では、ようやく目覚めてこう言う『他の人がどう思うかなんて気にするもんですか』 60歳になると、誰も自分のことなど考えていないことがわかる」最後のパートが一番重要です、とロイゼン氏。「最初から、誰もあなたのことなど考えていません」
これは、良いニュースでもあり、悪いニュースでもあります。逆に言えば、あなたがどんな状態でいるか誰も気にかけてくれないということです。収入は足りているか、仕事に満足しているか、人間関係は満たされているか、などについてです。「自分が自分の保護者にならねばなりません」とロイゼン氏。「好きでない仕事をしていても、それを変えられるのは自分だけです。オフィスに座っているだけで、誰かが答えを持ってきてくれるなんてことは起こりません」
「あなたの上司はあなたのことを考えていません。あなたの同僚はあなたのことを考えていません。あなたがあなたのことを考える必要があります」
手厳しいですね。しかし、多くの人が、他人からどう思われているかを気にすることで時間を浪費しています。そんな必要などないのに、です。ロイゼン氏は、長いフライトの後で会議に出席するときに、場違いな靴やシワだらけのスーツで登場してしまうことを恐れていたそうです。「おかしな格好をしていたら、人からなんと思われるかといつも心配していました。しかし、いざそうなった時に気づいたのです。私自身、会議の途中で、『この人は賢いけど、シワのあるジャケットを着ている。だから本当はたいしたことない人だろう』などと思ったことはないことに。誰もそんな風には考えたりしません」
人は、ほんの小さな過ちで、自分を過剰に責め立てます。会議で失言した、誰かの名前を間違えた...。何週間もが無駄に過ぎ、大切な人間関係が遠ざけられ、生産性は下降します。すべては、他人の評価を恐れるがゆえにです。「あなたもそんな状態でいるなら、思い出してください。あなたが自分のことを考えているほどは、他人はあなたのことを考えていません。だから、あまり心配する必要はないのです」
8 Gems on Building a Fulfilling Life and Career|First Round Review via Inc.
(訳:伊藤貴之)
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