Updated: Tokyo  2014/08/08 10:40  |  New York  2014/08/07 21:40  |  London  2014/08/08 02:40
 

トヨタとテスラ、両極端のパートナーはどのように衝突したのか

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  8月8日(ブルームバーグ):4年前、米テスラ・モーターズのイーロン・マスク会長はあるファンをカリフォルニアの自宅に招き、スポーツカー「ロードスター」のドライブに連れ出した。その来客とは世界最大の自動車メーカー、トヨタ自動車の豊田章男社長だ。

両者は数週間のうちに意気投合し、トヨタはテスラに5000万ドルを出資することに合意し、米カリフォルニア州で閉鎖していた工場を4200万ドルで売却した。トヨタの「RAV4」の電気自動車(EV)版の開発でも一致し、事情に詳しい関係者によると、その時点では提携がSUVのレクサスRXの電動モデルに拡大する可能性があったという。

現在は提携がほころび、共同開発の「RAV4 EV」は販売が現時点で2000台を下回ってる。マスク氏が提携強化のきっかけになると誇らしげに話していた車だったが、ガソリン仕様車の2倍というトヨタの価格設定や、入手がカリフォルニアに限られることでヒットする望みがなくなった。

より根本的には、事情に詳しい関係者によると、技術陣の衝突で提携に新たな展開が見込めなくなった。政略結婚をしても自動車業界では成功しないこともあるという教訓になる。トヨタはいまや、テスラの中核のEV市場から距離を置き、マスク氏があざ笑う燃料電池技術を推進している。

「2つの会社が成功しているというだけで、その2社が一緒に協力すればうまくいくとは限らない」と、インテリジェンス・オートモーティブ・アジアのマネジングディレクター、アシュビン・チョータイ氏は電話取材に指摘。「誰かが業界の体制を変えようとしていて、しかも最大手と手を組もうとしているときには、いろいろ複雑なことになるものだ」と話した。

共同開発車の詳細について、両社はコメントを控えた。

米国でほぼ80年ぶり

両社が提携に至る動機が双方の弱点を浮き彫りにした。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチによると、より機敏な相手から学ぼうとしたトヨタだが、今後5年間は業界平均のペースで新型車を出していくだろう。クライスラー以来ほぼ80年ぶりの2003年に設立されたテスラは米国新興自動車メーカーで、ものづくり能力を試す成長の最中にある。

提携が締結された10年5月、テスラ会長はこの提携を「歴史的」と呼び、トヨタはずっと素晴らしいと思っていた会社だと話した。提携の1カ月ほど前にテスラのロードスターに試乗した際、豊田氏は未来の風を感じると述べていた。

テスラにとって、この提携はお金になることを意味し、格安で最初の工場を入手したり、業界のリーダーと協力することで信用を得ることになった。

トヨタにもメリット

トヨタにとっては、この提携が意図せぬ急加速によるリコール問題に見舞われていた会社をよみがえらせるきっかけとなった。この投資はまた、もうかるものでもあった。

「豊田氏がマスク氏と今回の件でかかわるようになった際には電池分野の協力を超えたものに発展するとみていた」と、トヨタの北米事業を統括するジム・レンツ氏は5月に話した。「トヨタは自動車業界で起業家精神に富んだ小さなスタートを切ろうとしており、テスラの人たちと一緒に仕事をすることで、より迅速で起業家精神に富むようになるために学ぼうとしていた」という。

ほどなくして衝突し始めたと、このプロジェクトに詳しい関係者は話した。2人の元技術者によると、テスラ技術陣が共同開発車の初期デザインを提案した際に、トヨタ側はトランスミッションの中にあるべき部品が含まれていないと不快感を示した。

パーキングブレーキに関連した部品であり、テスラ側はロードスター開発で使って苦労した経験から、その代替として、電気パーキングブレーキの装着を提案したと、関係者が話した。双方の主張は平行線で、結局、トヨタ側が主張する部品を使うことで決着した。

テスラ提案を拒否

トヨタの技術陣はまた、共同開発車の電池パックの下側を保護するカバー装着というテスラ側の提案を拒否したと、関係者は話した。トヨタ側がカバーに関する責任を引き受けることで落ち着き、構造的な完成度を強化したという。

テスラは結局、今年3月にセダン「モデルS」にチタン・プレートを追加した。火災につながった衝突について米当局が調査したのを受けて、電池の保護を改善するためだ。

もう一つの衝突の要因は、減速した際にエネルギーを回収するテスラの特許技術だと、ジェフ・ライカー米ミシガン大学教授は話した。ライカー氏は昨年、共同開発車の技術陣と会っていた。

テスラのシステムではアクセル・ペダルを緩めるとブレーキがかかり始め、そのため、車ががたついて多少の慣れが必要になると、ライカー氏は話した。トヨタの技術陣は興ざめになると懸念した。双方とも自らのシステムを守ろうとするため、修正は骨が折れるものとなった。

トヨタとの協力から学ぶ

テスラ最高技術責任者(CTO)のJB・ストローベル氏はインタビューで、トヨタの天下一品の生産品質プロセスを高く評価し、協力から学んだと話した。ストロベール氏は、技術陣間で摩擦があったとの特別の話は知らないと話した。テスラ広報担当のサイモン・スプロウル氏は共同開発プロセスについてコメントを控えた。

「非常に異なる両社が違ったアプローチをした事例になる」と、トヨタ広報担当のジョン・ハンソン氏は話した。確かに困難なプロジェクトだったが、厳しい期限の中、スケジュール通りに製品が出てきたという。

豊田氏とマスク氏がプロジェクトを発表して2年後、共同開発車は12年に発売になった。モデルチェンジに7年かかることもある業界にあっては迅速だ。6月までの出荷は計1834台。両社は3年間で2600台の販売を計画していた。

共同開発車はリコールされたり、米運輸省道路交通安全局(NHTSA)の安全性の調査を受けたりしていないが、不満を持つ顧客の1人にトニー・ウィリアムズ氏がいる。

「悪夢だ」

ウィリアムズ氏は12年11月に購入したが、修理に30日以上かかり、モーター部品などの交換が必要になった。日産自動車の「リーフ」を運転したいと思っているが、まだEV版のRAV4に乗っている。

EV版RAV4は「とんでもない悪夢だ」と、加州サンディエゴに住むウィリアムズ氏は話した。

トヨタ広報担当のハンソン氏は、共同開発車に特別に広まった問題があるとは知らないと話した。共同開発車が発売されたときにオーナーのウェブサイトに提起された技術的な問題のいくつかについては解決を図ってきたという。

共同開発車が終了に近づく中、両社は異なる方向に進んでいる。米消費者団体専門誌コンシューマー・リポーツが最高の評価をしたモデルSでテスラは舞い上がっている。マスク氏は世界最大のリチウムイオン電池工場の建設を計画し、電動SUV「モデルX」の来年発売に備え、17年の小型セダン「モデル3」につなげようとしている。

燃料電池

一方、トヨタは水素燃料電池車に期待している。マスク氏は燃料電池(フューエルセル)を「ばかげた電池(フールセル)」として嘲笑していた。また、あまりにも複雑でコストがかかりすぎるため、燃料電池車は決して成功しないだろうと話していた。

「燃料電池を拒む競争相手は自らのリスクでそうしている」と、米国トヨタ販売のボブ・カーター副社長は話した。マスク氏や日産のカルロス・ゴーン氏などの燃料電池に対する批判について、「個人的には、まったく気にかけていない」という。

懸案があっても、両社は提携を諦めなかった。独BMWはトヨタとスポーツカーを共同開発しながら、テスラと提携協議をした。

両社は、これを最後に決別しないかもしれない。「トヨタとは物事を保留し、おそらく1、2年ぐらいして、また戻ってくることで合意した」と、マスク氏は6月3日のテスラ株主総会で話した。

両社は多くの点で真っ向から衝突していると、調査会社オートパシフィックの業界アナリストのエド・キム氏は指摘。トヨタはEVを重視していないため、テスラと再び協力するとはみていないという。

原題:How Tesla-Toyota Project Led to Culture Clash byOpposites: Cars

記事に関する記者への問い合わせ先:東京 Craig Trudell ctrudell1@bloomberg.net;ロサンゼルス Alan Ohnsman aohnsman@bloomberg.net

記事についてのエディターへの問い合わせ先:Young-Sam Cho ycho2@bloomberg.net浅井秀樹, 岡田雄至

更新日時: 2014/08/08 00:01 JST

 
 
 
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