環境ビジネス情報発信 コラム

環境ビジネス情報発信 コラム Vol.15

さかいIPC環境ビジネス研究会
環境ジャーナリスト 富永 秀一
富永 秀一氏

Vol.15「危機管理の前にリスク管理を(1)」

リスク管理と危機管理

昨年の東日本大震災以来、地震や原発事故についても積極的に情報発信しているためか、最近は、専門の環境やエネルギーの他、時々、災害、防災に関する講演の依頼も頂くようになりました。

今回はそんな時にお話ししている、リスク管理について書いてみます。

リスク管理と危機管理は似ているようで違います。

リスク管理(Risk management)が、これから起きる可能性がある危機への備えであるのに対し、危機管理(Crisis management)は、現実に起きてしまい、直面している危機への対応の事です。

これらはどちらも重要です。様々なリスクを検討してあらかじめ備えておけば、危機に至る前に回避できるかもしれませんし、危機が発生しても、素早く適切な危機管理をしやすくなります。また、危機管理の能力を鍛えておけば、時々刻々と変わる事態や、想定していなかった事態に直面しても、より被害の少ない対策を選べる可能性が高まります。

日本の場合、残念ながら、どちらもお粗末なケースがよく見られるのですが、特にリスク管理の甘さが目立ちます。

「想定不適当」を作らない

私なりに、東日本大震災以降、特に感じた、リスク管理において大切な事をまとめてみます。

地震にしても津波にしても、原発事故にしても、地球温暖化にしても、過去に起きた事や、一定の仮定に基づいたコンピューター・シミュレーションなどを元に、あるモデルケースを想定して対策を考えておくという手法がよく取られます。

それはもちろん必要な事です。

しかし、ここには落とし穴があります。一旦想定したそのモデルケースが、段々と一人歩きしはじめ、想定した事態が上限で、それ以上の事は起きないと考えられるようになっていくのです。

さらには、その想定を大きく超える事態は、「想定不適当」として、想定しない、或いは無視する、隠すという事まで行われるようになります。

今回の東日本大震災や、東京電力福島第一原発の事故は、そうした考え方こそ"不適当" であるという事実を突きつけました。

過去に起きた、宮城県沖地震や、明治三陸津波、昭和三陸津波などを想定して対策はしていても、それより大きな地震や津波の痕跡が、何年も前に見つかっていたのに、行政も電力会社も、そこまで想定するのは不適当だとして無視したり、速やかで適切な対応をしませんでした。

リスク管理が不十分だったと言えるでしょう。

限定したリスクしか想定していなかったつけが、死者・行方不明者1万9220人(1月24日現在)という、地震や津波の大きな犠牲であり、いまだに本当の意味での収束のゴールが見えない原発事故と言えます。

皆さんは大丈夫ですか?想定したくない事態、対策をするには手間や費用がかかるなどの理由で、リスクを限定していませんか?十分に起こりうる危機を「想定不適当」としていませんか?

最悪の事態を想定する

リスク管理において大切な事は、「最悪の事態」を想定する事です。

過去に起きた最悪の事態はもちろん、理論的にあり得る事であれば、それが例え起きそうにないように感じられたとしても、想定しなければなりません。

そうしておけば、最悪までには至らない事がほとんどですから、ひどい危機に遭ったとしても、慌てず、より適切な対応ができます。事態が深刻で、被害を防ぐ事が無理であっても、最小限に抑える事ができるでしょう。

歴史書によると、869年に起きた貞観地震の際、海岸から何kmも内陸の多賀城まで津波が達したとみられるという研究は明治時代からあり、ボーリング調査による津波堆積物の分析から、800~1100年に一度、仙台平野を10m前後の巨大津波が襲っていて、前回の襲来から1100年以上経過している事は、10年以上前から指摘されていました。

もちろん、巨大地震や巨大津波の発生を防ぐことはできません。しかし、最悪の事態が周知徹底されていれば、もっと多くの人が真剣に津波から逃げたのではないでしょうか。

原発事故もそうです。配管の破断により冷却水が失われ、原子炉の冷却ができなくなるとどうなるか、原子力安全基盤機構が、福島第一原発の事故より前にシミュレーションしていました。たとえ制御棒が入って核反応が止まっていても、崩壊熱によって、熱が溜まりやすい中心部は30分後に溶け始め、3時間後には圧力容器の底が抜け、やがて格納容器のコンクリート床面にめり込んでいくという内容です。このシミュレーションではガスを放出するベントが行われているのに対し、現実にはベントが遅れ、爆発が起きました。

もしこのシミュレーションや、巨大津波襲来の警告を真剣に検討し、リスク管理をしていたなら、非常用電源の確保やホウ素を入れた海水の注入が速やかに行われ、ここまでの事態にはならなかったかもしれません。

原発事故が最悪の事態に至った場合の危険性は非常に大きく、今回の福島第一原発の事故でも、事故前に発電所内にあった全ての放射性物質の1%程度しか出ていません。昨年4月12日夜の記者会見で東京電力が明らかにした10の20乗ベクレルのオーダーというデータを元に換算すると、原爆5万~10万個分に相当する放射性物質が発電所内にあった計算になります。もし格納容器の健全性が損なわれた状態で、どこか一か所でも本格的、継続的な再臨界が起きていたら、命を奪うレベルの中性子線を始めとする放射線が放出されて近寄れなくなり、それらすべてを放置して逃げるしかなくなっていたかもしれません。

今回は、現場の命がけの作業と、運が味方した事により、かろうじて最悪の事態を避けられたに過ぎません。他の原発で同じような事態になった時、また最悪を避けられる保障はありません。

また、今回は本州の東の端の福島で事故が起きました。かなりの放射性物質は海に向かいました。それでも今のように、たくさんの人々が苦しめられているのです。もし陸地の西側にある原発で事故が起きれば、被害者は何桁も多くなり、場所と事故のレベルによっては、最悪、日本の大半が住めない土地になる可能性もあります。

そうした、国がつぶれるような巨大なリスクに比べれば、一時的に多少電気代が上がる程度の問題は些末なことと思えるのですが、まだ政府は原発に未練があり、再生可能エネルギー導入には及び腰に見えますから、相変わらずリスクの評価ができていないとしか思えません。

みなさんは、例え考えたくもない事であっても、現実になる可能性があるのであれば、最悪の事態をしっかり想定し、それを防ぐ手段、被害を抑える手段を複数検討しておきましょう。

リスク管理のお話はまだあるのですが、長くなってしまいましたので、続きは次回にします。

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コラムは随時更新致します。次回もご期待ください。

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