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生活保護のリアル みわよしこ

現状でも不足しているのに住宅扶助引き下げ?
入浴に3時間を要する障害者の過酷な「住」
――政策ウォッチ編・第72回

みわよしこ [フリーランス・ライター]
【政策ウォッチ編・第72回】 2014年8月8日
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2013年秋から、引き下げの検討が急ピッチで進められている住宅扶助。障害者の住宅扶助は、特別基準(通常の1.3倍)が適用されるため、現状でも特に「ゼイタクだ」と見られやすい。今回は、単身生活する重度障害者の生活を通じて、「健康で文化的な最低限度」の住生活を考える。

「重度障害者」といえども
暮らしぶりは人それぞれ

前回は、難病による重い運動障害のため、生活保護を利用して24時間全介助で生活する重度障害者・朝霧裕さん(35)の「住」・生活ぶり・制度への思いを紹介した。しかし、重度障害者もさまざまだ。障害や疾患が異なれば、生活ぶりは全く異なったものとなる。

 須釜直美さん(46)(本連載第33回参照)は、東京都多摩地域で、生活保護を利用して単身生活を送っている。生まれつきの骨形成不全症のため、全身の3ヵ所を骨折して生まれてきた須釜さんの骨は、その後も質・量とも十分に発育することはなかった。前回の朝霧さんと同様に、須釜さんもまた、歩行が可能だったことは一度もない。外出時は、須釜さんが利用できるように特別な配慮を行ってオーダーメイドされた電動車椅子を利用している。

 しかし須釜さんは、平坦な屋内でならば、車椅子の手動運転を行うことができる。このため、屋内では手動車椅子を利用している。また、補助具を用いれば、ベッドから手動車椅子へ・手動車椅子から電動車椅子への移乗を自分で行うこともできる。失敗して転落し、身体のあちこちを骨折し、数ヵ月間、寝たきり生活を送ったこともあるけれども……。

 もちろん、須釜さんの自力で行うことがまったく不可能なことも数多く存在する。その一つが入浴だ。

 SNSなどで知る須釜さんの暮らしぶりには、いくつかの「謎」があった。たとえば須釜さんの入浴は、1回あたり3時間ほどが必要だそうだ。筆者自身も長風呂が大好きなのだが、3時間も入浴することは困難だ。何をすれば、入浴に3時間かけることが可能なのだろうか?

 筆者は須釜さんのご好意で、入浴を見学させていただくことにした。

3時間もかかるのはなぜか?
入浴に至るまでのヘルパーの準備作業

入浴準備のため、浴室から台所に出された物品の数々。左下のマットの左側が、浴室入り口となっている
Photo by Yoshiko Miwa

 2014年8月のある日、夕方6時過ぎ、須釜さんの住まいで、女性のヘルパーさんが入浴の準備を始めた。ヘルパーさんはまず、食器の洗いカゴなど雑多な日用品が置かれているワゴンを、浴室に隣接する台所の隅に寄せた。それから、ふだんは浴室の中に収納されているものを、次から次へと台所に出していく。

 分別ゴミ箱、清掃用具、洗濯用品……。10分足らずの間に、台所は浴室から出されたものでいっぱいになる。しかし、「足の踏み場もない」という状態にはならない。須釜さんが車椅子で台所に入ってくるための動線・台所から浴室へと須釜さんを安全に移動させるための動線は確保されている。確保されている動線は、面積でいえば、1.5畳程度だろう。

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みわよしこ [フリーランス・ライター]

1963年、福岡市長浜生まれ。1990年、東京理科大学大学院修士課程(物理学専攻)修了後、電機メーカで半導体デバイスの研究・開発に10年間従事。在職中より執筆活動を開始、2000年より著述業に専念。主な守備範囲はコンピュータ全般。2004年、運動障害が発生(2007年に障害認定)したことから、社会保障・社会福祉に問題意識を向けはじめた。現在は電動車椅子を使用。東京23区西端近く、農園や竹やぶに囲まれた地域で、2匹の高齢猫と暮らす。日常雑記ブログはこちら


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急増する生活保護費の不正受給が社会問題化する昨今。「生活保護」制度自体の見直しまでもが取りざたされはじめている。本連載では、生活保護という制度・その周辺の人々の素顔を知ってもらうことを目的とし、制度そのものの解説とともに、生活保護受給者たちなどを取材。「ありのまま」の姿を紹介してゆく。

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