「過労死ライン」とされる月100時間を超える残業が珍しくなかった。

 大半の社員が24時間続けて働いたことがあり、自宅に2週間帰れなかった人もいる。

 労使協定を超える残業などで労働基準監督署からたびたび勧告を受けながら、事態は改善されなかった。

 牛丼チェーン「すき家」を運営するゼンショーホールディングスの第三者委員会による報告書は、東証1部上場の企業グループの驚くべき実態をつまびらかにした。

 報告を生かし、労働環境を改善していけるのか、ゼンショーが厳しく問われるのは言うまでもない。労基署の体制の強化策なども課題だろう。

 しかし、これはすき家だけの問題なのだろうか。

 労基署は昨年9月、若者の「使い捨て」が疑われる企業を調査した。5千余の事業所のうち8割超で、違法な時間外労働や賃金不払い残業など、法律違反が見つかった。1カ月の残業が最長の社員を見ると、15%近い730事業所で100時間超、80時間超だと4分の1近い1230事業所に達した。

 別の調査では、賃金不払い残業は12年度で10万人余り、計104億円。ピークよりは減ったものの、依然高水準だ。

 正社員よりもアルバイトやパートなど非正社員を雇い、酷使する。「デフレ時代の勝ち組」とされたすき家と同じ手法をとってきた企業は少なくない。

 すき家の実態が知られるようになったのは、従業員がネットなどで同僚に呼びかけながら次々と退職し、多くの店舗が休業や営業短縮に追い込まれたことがきっかけだった。

 従業員が「反乱」できたのは、経済の持ち直しで求人が増え、他に働き口を見つけやすくなってきたからだろう。景気低迷が続いていれば、問題はより見えにくく、深刻になっていたかもしれない。

 最近、長時間労働で知られた企業を含め、非正社員を正社員に切り替え、賃金など待遇を良くする動きが目立つ。これも、人手不足の深刻さを反映したものだろう。

 半面、景気が悪くなったら、こうした企業はどう振る舞うのか、と心配にもなる。手のひらを返すようなことはないだろうか、と。

 すき家の決算は、店舗の大量休業も響き、初の最終赤字に転落する見通しになった。

 従業員を大切にしない企業には、しっぺ返しがある。経営者は胸に刻んでほしい。