(2014年8月7日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
トルコ初の直接選挙による大統領選挙に臨むレジェップ・タイイップ・エルドアン首相〔AFPBB News〕
レバーとケバブを専門に扱うカフェを経営するエルマスさんは、レジェップ・タイイップ・エルドアン氏がトルコ首相に就く前の生活を振り返って、顔をしかめる。
「ここには、何もなかったんですよ」。エルマスさんは、カフェを営むイスタンブール郊外のスルタンベイリについて、こう語る。ここは、大都市での仕事を求めて、トルコの黒海地方からやって来た人たちが住み着いた町だ。
「道路は舗装されておらず、あそこの湖は汚くて臭かった。臭いのせいで、湖に近づくこともできなかったんですよ」
エルマスさんは、今ではすっかりきれいになった湖に向かう、装飾用の低木が並んだアスファルト舗装道路に目をやり、自分はエルドアン氏に投票すると語った。彼女の考えは、次第に色濃くなる権威主義への懸念にもかかわらず、10日に実施されるトルコ初の直接選挙による大統領選で、なぜエルドアン氏が圧倒的な有力候補なのかを説明する助けになる。
分裂した社会なのに、エルドアン氏の勝利が濃厚な理由
国民を二分する人物と見なされることもあるエルドアン氏について、すべてのトルコ人がこれほど満足しているわけではない。最近のピュー・リサーチ・センターの調査では、国民の48%がエルドアン氏を支持する一方、48%が不支持で、調査結果はトルコを分裂した社会として描き出していた。
エルドアン氏に批判的な向きは、昨年の大規模デモの弾圧、それに続く政府関連汚職の調査の妨害、ユーチューブとツイッターへのアクセス遮断の試みについて同氏を責めている。また彼らは、トルコの経済が短期の外国資金に依存していることと、トルコと近隣諸国および同盟諸国と関係が緊張したり敵対したりしていることを強調する。
だが、スルタンベイリでは、エルドアン氏率いるイスラム主義に根差す公正発展党(AKP)への支持率が今年3月の地方議会選で69%に達した。地元の党幹部らは、大統領選挙では支持率がこの数字を上回ると見ている。
スルタンベイリは、トルコ最大の都市でAKP支持の最強の牙城とも言える地域だ。エルドアン氏の支持基盤の中核を成すのは、AKPが2002年に政権を握ってから社会のトップに上り詰めた人々ではなく、貧しく、往々にして社会に取り残された、首相の言うところの「抑圧された」人々なのだ。