遺伝情報:ゲノムの解読で進むイネ改良 精度99.99%
毎日新聞 2014年08月07日 10時03分(最終更新 08月07日 10時40分)
アジアを中心に多くの人々が主食にするお米。気候変動や人口増で、多収量で高温に強いイネの開発や改良が急務になっている。その効率を高めるイネの全遺伝情報(イネゲノム)の解読を主導したのは、農業生物資源研究所(生物研)のチームだ。
◇日本主導でデータ蓄積
イネは品種によって、乾燥に強かったり、病気に強かったりと個性がある。味も粘りけも違う。だが、かつての品種改良は、研究者の経験や知識が頼りだった。
効率的に進めるにはどうすればいいのか。研究者の関心は、デオキシリボ核酸(DNA)にある4種類の化学物質(塩基)の配列で決まる遺伝子に向かう。そして、遺伝子の情報を網羅するには、ゲノムの解読が必要不可欠になる。この作業の中核を担ったのは、解読完了時の2004年に、生物研のゲノム研究グループ長だった佐々木卓治・東京農大教授(67)だ。
イネゲノムの解読は、農林水産省や生物研が主導する国家プロジェクトとして1991年4月にスタートした。佐々木さんは同年10月に名古屋大から生物研に移ると、イネの染色体にあるDNAの順番などの位置を決める「遺伝地図」作りに取りかかった。
200近いイネ個体から、膨大な量のDNAを取り出しては、試薬に反応させる作業を繰り返した。それをさらに統計処理し、2000以上ものDNAの位置を特定した。「技術者には泊まり込む人もいた。日本人ならではの丁寧さと、根気の強さがあったからこそ当時の限界まで特定できた」と言う。
98年3月までの7年間をかけて地図を完成させるころには、国際的にも研究成果が評判になった。同年4月からは、日本を含む10カ国・地域で作る国際チーム内でイネの12対の染色体を分担し、本格的なゲノム解読を開始した。求める精度は99.99%。この精度を可能にしたのが日本が作った遺伝地図だった。「パズルで例えるなら、絵柄とピースがはっきりしていたからこそ、スムーズで精度良く解読できた」と目を細める。
国際チームは04年、99.99%の精度で解読を実現。この解析内容が世界的なデータベースとなった。
◇干ばつでも収穫
イネゲノムの解読によって品種改良は加速し始めた。特定の遺伝子が残っていることを確認しながら、交配を繰り返す「ゲノム育種」が、簡単にできるようになったことが大きい。国内を中心に10品種あまりが開発された。