夏のサマー

文章を書いています。

ゼロ年代をはてなで過ごした人間が単著を出した話

 安全ちゃんと結婚がしたかった。

 2008年ごろのことだ。僕ははてなダイアリーに好きなことを書き殴った。引きこもっていたので時間は有り余っていて、たった一行を2日推敲していたこともある。

 目標は明確だ。ブログをとにかく有名にして、アルファブロガーになること。一角の人間として認められて、ニートからライターになること。


 2003年ごろから「はてなアンテナ」を利用していた僕にとって、ヒーローは速水健朗であり、栗原裕一郎であり、吉田アミだった。もちろん、東浩紀の著作だって一通り読んで思想用語を覚えようとしたし、加野瀬未友の発言を追ってシーンの潮流を掴もうとしていた。

 はまちちゃんやコトリコのアナーキーで自由な立ち振る舞いに「自分が目指すべき場所はここだ」と思っていた。つまり、ユーモアある発言で世の中を挑発していくことだ。


 高校中退をしてすぐさま引きこもると、僕はパソコンにかじりついた。見るのは「はてな」だ。

 はてなキーワードの日記一覧や、はてなブックマークのタグが楽しいものを運んできてくれた。気になった検索ワードを深堀りしていけば、一日は24時間じゃ足りなかった。


 何年もはてなでROMっていると、何が面白がってもらえるのか、何となく掴めてきた。

 「かむかむごっくん」というブログを作って「こうすればウケるんじゃないか」とキワドイことをいっぱい書いていった。緑色のブログを意識していた。

 宇野常寛(ヘルシー女子大生)をネタにし、有村悠やsukebeningenに喧嘩を売ったりもした。だが、すべてが中途半端でイマイチ切れが悪かった。

 だって、山形浩生のような知性もないし、yomoyomoのような安定感もなく、町山智宏のようにプロレスが演じられるわけでもなし、小谷野敦のような該博な知識もないし、伊藤剛のような専門分野も、岩崎夏海のような文才があるわけでもなかったから。

 はてな匿名ダイアリー(通称・増田)でココロ社と並べられて語られたのがピークだ。


 付け焼き刃のはてブ狙いが持続するはずがなく、すぐに失速して更新は半年ほどで途絶えた。

 いくつかの記事にクレームがつくとビビってすぐに消し、やがてブログ自体を非公開にした。


 その頃から「Facebook」というサービスや、「セルフブランディング」という言葉が流通しだして、実名と顔を出して発言するのがクールなんだって人たちが現れはじめた。

 僕は冷笑しながらも、内心では大好きなものが時代遅れになっていくのを直感して、胸が張り裂けそうになっていた。

 今だってはてなーが「匿名の卑怯者」「アニメアイコン」と揶揄されるのを見ると、怒りが湧く。


「インターネットは発言の面白さが重要なんだよ。名前も肩書きも関係ない。一番ユニークなやつがヒーローなんだ!」


 そして、諧謔精神が旺盛でホットな人たちが集まるのがはてなだ。その中で僕は城を築こうとして、失敗してしまった。きっとよくあることなんだと思う。

 僕以上に才能があって、輝いていたスターたちも次第にいなくなってしまった。冒頭に書いた安全ちゃんだってそうだ。


「失敗だ。違う場所、違う方法を探すしかない」


 マニアックなネタはやめよう。他人をDisらずに、自分を前に出そう。そうやって何年か試行錯誤をした。その過程でかつての読者には「つまらなくなった」と言われてしまった。

 確かにそうかもしれない。僕の文章を一番読んでいるのは、僕だ。だからわかるよ。

 意気消沈し、気まぐれに増田で昔のノリで記事を書いては、ホットエントリーに入るのを見て気持ちを慰めていた。


今すぐ消えろ!日本のカルチャーシーンを「残念」にした戦犯4タイプ


 だけど、こんなことを続けていても未来はないとわかっていた。方向性を変えなきゃいけない。

 そうやって出来上がったのが「世界一即戦力な男」というウェブサイトである。


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 最新のウェブで何がウケるのかを研究して、集大成のつもりでぶつけてみた。

 従来の就活を反転させたこのウェブサイトは予想以上の反響があり、ドラマ化もされ、そして書籍になった。


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 16歳で引きこもり、はてなで成り上がろうとするも失敗して、様々な人と出会いながら試行錯誤を繰り返した10年間を本には書いた。ウェブにハマった人間の青春が封じ込められている。もちろん、そこから得られた教訓も書いた。


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『世界一即戦力な男――引きこもり・非モテ青年が音速で優良企業から内定をゲットした話』

著者:菊池良

ページ数:256

定価:1,400円(税別)


Amazon rakunten 公式サイト


【目次】

第1章 「引きこもり」というアイデンティティ

 悩んでから選ぶか? 選んでから悩むか?/逃げ道を用意するのは、卑怯か? 賢い選択か?/ネットは人間関係を希薄にするか? 濃密にするか?/嫉妬の感情は悪か? それとも…?

第2章 憧れの人物からの拒絶

 あなたには失敗する場所があるか? ないか?/面接で重んじられるのは常識か? あるいは個性か?/現代社会はコミュ障に厳しい? 意外と優しい?

第3章 22歳の大学1年生へ

 R −1ぐらんぷりに出ろと言われたら、出る? 出ない?/トラウマを消したい? 消したくない?/コミュ力が高いのは武蔵? 小次郎?/特別を目指すか? 普通を目指すか?

第4章 挫折から得られるもの

 短所を克服するのが先か? あるいは長所を伸ばすのが先か?/アウェイで戦うべきか? ホームで戦うべきか?/顔を見てから惚れるか? 惚れてから顔を見るか?

第5章 狂ったような挑戦の日々

 可能性が潜んでいるのは、知っている道か? 知らない道か?/水嶋ヒロになりたい? なりたくない?/セロリは好き? 嫌い?

第6章 自己PRサイト「世界一即戦力な男」の軌跡

 決断するのは、キクチか? ダニエルか?/キミには何ができるのか? そして何ができないのか?/待ち時間はムダか? それとも…?/愛の反対は憎しみか? 無関心か?

第7章 音速で内定をゲットした話

 企業は冷たい? 冷たくない?/面接では嘘をつく? 本音で勝負する?/就職活動はつらい? それとも楽しい?/内定はゴールか? スタートか?


 だけど、僕は今でもくすぶったままだ。あの頃に憧れたはてなダイアラーたちには少しも近づけていない。R.I.P.