ACC賞審査委員会委員長
早乙女 治
多様な商品やサービスは人を幸せにするために生まれてくるもの、そしてその情報を伝える役割を持っている広告も、また違った意味で人々を幸せにしてくれています。クリエイターはアイデアという力で、表現に「華やかな変化」や「おもしろみ」を与え、ビジネスの成功のためのコミュニケーションに磨きをかける。そして人間の脳は、楽しいとき、幸せなときの出来事を、記憶に深く刻み込むメカニズムを持っていると言われています。第48回ACCCMフェスティバルではそんなすてきなCMとたくさん出会いたいと願って、審査テーマを「彩・IRODORI」とさせていただききました。
広告は経済を映す鏡でもある、とよく言われます。その影響でしょうか。今年の応募総数は昨年をやや下回り、2650本となりました。テレビが1878本、ラジオ772本。とはいえ大変な本数です。当然ながら、受賞を狙ってエントリーされた作品なのですから。
審査は一週目から気の抜けない過酷なものになりました。昨年よりひとり増えて21名となった審査員の顔ぶれもまた、そうそうたる方々が集まってくれました。賞の価値は「誰が選んだか、誰に選ばれたか。」がもっとも大きな意味を持つと思います。今の日本を代表するクリエイター20人の方々にご協力いただけたことに、心から感謝しています。1チームが7人ずつ、テレビ2チーム、ラジオ1チームで、丸二日間かけて、約7パーセントのファイナリストを選ぶところからスタートです。最長4時間を越えるカテゴリーもあります。ひたすら画面を見つめ、耳を凝らし、自分のクリエイターとしての物差しを信じて、投票と議論を繰り返していく作業になります。
翌週には、メダル候補作品を決めるところから始めました。この関門を通過した作品は必然的にブロンズより上、つまり何色かはともかく、トロフィーが確定するわけです。3パーセントまで絞られた作品は、さすがに見ごたえのあるものばかりですが、さらに審査は続きます。シルバー、そしてゴールド、グランプリ。
数度の決選投票を経て、今年の頂点に輝いたTV-CMは、ソフトバンクの「ホワイト家族」のシリーズでした。昨年からスタートしたこのキャンペーンは、新作が登場するたびに、「予想外のおもしろさ」がどんどんエスカレートして、ユーモアのセンス、キャスティングのうまさと、ストーリー展開の意外性は秀逸と言えるでしょう。「やはりCMはおもしろく、明るく、世の中を元気にしてくれるもの。」を具現化してくれた作品だと思います。クライアントの広告に対する理解と、それに応えたクリエイターたちに心から拍手を贈りたいと思います。最後までグランプリを争ったのは、黄桜の江川さん小林さんの再会のシリーズでした。お酒はまさにコミュニケーションの潤滑液。心のわだかまりを捨てて語り合うお二人の顔がどんどん柔らかくなっていくのを、カメラはしっかり捕らえていました。熟練の企画の技を見せていただいたと思っています。ゴールドに輝いた9本は、さすがにすばらしいアイデアのある企画ばかりです。昨年同様、長尺物とシリーズに票が集まってくるのは伝達力と深さを考えれば当然なのかもしれません。クリエイター、そしてクライアントのためにもより柔軟なメディアの対応を期待したいものです。
ラジオCMのグランプリはサントリーの「胡麻麦茶」、留守番電話。120秒のあいだに血圧が上がったり、下がったり。イライラがだんだんとおもしろさに変わってきて、最後は見事に商品のプロミスに着地しています。企画者の術中に審査員全員が見事にはめられました。モチーフの見つけ方、ストーリーの組み立てとコピーワーク、演出の技量と、どのパートをとってもプロの仕事です。何度聴いても「うまい!」と感服させられる名作だと思います。ラジオのゴールド4本は、20秒ありシリーズありと多様な作品が受賞しています。想像力を味方に、笑わせてくれたりほろっとさせられたり、ふだん接する機会が少ないものも多く、逆にまっサラな気持ちで聴けるのでしょうか、本当に楽しみながら審査をさせてもらえました。日本のCMはまだまだ元気 です。
岩本 恭明
コマーシャルのシャワーを浴びた4日間、また勉強になりました。「広告って楽しい!広告って元気がでる!広告の仕事がやりたい!」と若い人に思ってもらえたらと、グランプリには、ホワイト家族を選びました。大和証券の「現状維持の法則」はスマートでウィットがあり、本当は僕、こーゆーのが好き。ちょっと芸風変えようかなと思わせてくれた一品。ありがとう。
大谷 研一
今年のグランプリ・ゴールドは、表現から見ると非常にオーソドックスなシリーズものが大勢を占めた。シリーズの場合、一つひとつのおもしろさもさることながら、やはりその設定とキャスティングの魅力につきる。今回は特にキャスティングのセンスの良さを感じた。ホワイト家族、宇宙人ジョーンズもすごいが、課長(豊川)とOL(田中麗奈)の演技力に感心した。キャスティングも重要なアイデアであることを 再認識した。
岡 康道
今年は、電通のプランナーたちがいい仕事をした。中治、澤本、福里は圧倒的である。タグボートの麻生も、ヒットさせにくいクライアントを上手く仕上げた。しかし、オンエアー量がもし同じだとしたら、受賞作はかなり違う気がした。それにしても「佐々木CDの一人勝ち」だ。他の200人くらいに及ぶ日本のCDたちは、僕も含 めて、この1年何をやっていたのだろう?
笠原 章弘
テレビもラジオも上位の作品には、「出会い」がありました。宇宙人と地球人。因縁のお二人。奇妙な家族。留守番電話から流れる他人との出会い。バイト仲間。戦争で亡くなった先人への想い。人は、さまざまな出会いを繰り返しています。コミュニケーションがある限り、無限にアイデアは生まれるのだと実感しました。厳しい世の中を明るく元気にくらすバイトのAちゃん、素敵です。
佐々木 宏
佐々木賞を発表します。ラジオのいいこと茶の「今日はいいことがあった。動物園の猿にバナナもらった。」の三井明子さん。ヒロシマの核保有国をこわした木戸寛行さん。あとは、山内健司さんのソフトバンクのお父さん犬への演技指導。これ、立ち会っていたからわかるのですが。全然演技なんてできない、カイ君は。山内さんを誉めたいなと。
サトー克也
すばらしいモノは、すばらしいと、誉めたい。称えたい。人さまが作ったモノを否定することには、まったく無関心。無関係。そんなスタンスで審査しました。改めていろんな価値観があるんだなと実感。2008年の広告界を直視できた4日間。文化は角度をつけ直線ではなく、スパイラル状に変化するらしい。広告もまたしかり。感謝。
澤本 嘉光
今年は審査していて結構茶の間の一員として楽しめるCMが多かった。残念なのは、地方のCMが地方色がなくなってきていることで、アイデアで解決、といった地方色豊かな、地方ならではのCMが見たいと思った。むしろそういうCMが目立つ気がするので。
清水 健
江川投手には何がなんでも巨人に入ってほしかった。誰もバットにあてられない高めの豪速球を見たかった。逆に大好きであった小林投手はタテジマを着た瞬間から敵になった。あの日から。すべてのメディアがこの組み合わせをタブーとしてきたであろう。その2人が出てきた。CMの中に。CMはホントに凄い。そして、この企画をした方々に、もの凄いジェラシーを感じた。
田中 昌宏
審査前から予想していたとおりのものが上位を占めました。「世の中」でも話題になった見事に機能しているCMたちです。ただ、昨年と比較した場合に「今」という時代を感じさせてくれるものが特になかったのは、なぜなのでしょうか。ブロンズの南陽、ファイナリストの銀のさらの元気さにエールを送りたいと思います。こういうところに、「次」が兆しているのかも知れません。
永井 一史
グランプリ最終選考での三つ巴がとても印象に残った。究極の家族で話題をさらった「ホワイト家族」。広告の中で、ひとつの事件を起こした「黄桜」。進化をし続ける「BOSS」。手法としては“ 予測不能なシュールなストーリー”“ 上質なドキュメンタリー”“ 宇宙人を通した世の中への目線”と三者三様であるが、それぞれが今の時代としっかりとコミュニケートできる確かな筋道を見つけている仕事だと、改めて思った。
中治 信博
自分としては、全日空の企業CM(ゴールド)の姉妹編で予選で落ちた「バースデーケーキ」篇60秒にいちばん感動しました。松林景一美容クリニックの「糸にだって」篇は、出ている人が松林医師本人とわかれば、ゴールドに入ったと思います。惜しい。あと、上の賞にばかり目が行きますが、ファイナリストはもっと評価されていいと思います。選ぶ時、すごく討論してますよ。
中島 信也
広告がつまらないのは「悪ノリ」が減ってしまったせいだ。「悪ノリ」それは作り手の自己満足ではない。受け手を究極まで意識して巻き込んでいこうとするクリエイティブのドライブ感のことだ。だからこの「悪ノリ」の減少による一番の被害者はお茶の間だ。そんな中でグランプリの「ホワイト家族」は貴重な「悪ノリ」である。ゴールドの宇宙人ジョーンズも「悪ノリ」である。批判を恐れず突っ走る「悪ノリ」こそがテレビを救う。
中村 聖子
犬のお父さんも黄桜も、CMから世の中に話題を提供している。共感とか笑いだけじゃない、その上を行く「ニュース」。そういうものは強いですね。個人的にはキンチョーの官能小説がゴールドじゃなかったのは残念。ラジオは全体に地味でしたが、ビッグアイデアより、クスクス笑えてコソコソ楽しめるものが、結局リスナーに喜ばれているのかも。「胡麻麦茶」最高!
林屋 創一
グランプリはテレビが30秒シリーズ3強の戦い、ラジオは単品の一騎打ちになり、どちらも彩、特にラジオはユーモアの違いが勝負を分けた。キヤノンのアイデアを伴った上質な笑みに対し、何度聴いても審査員が笑いをこらえ切れなかったサントリーの作りは、東西の彩の差。それを緻密に計算しつくして2年連続グランプリの快挙を達成した井田さんはラジオCM界の女神です。
福里 真一
ACCの審査会に参加すると、小学校時代の「学級会」を思い出します。戦後民主主義教育の象徴とも言える「学級会」。私は、約30年前の「学級会」でも、少数意見を言っては無視される存在だったような気がします…。まあ、それはともかく、日本にACCという、“議論しながら賞を決めていく広告賞”が存在することは、なかなかいいことなのではないでしょうか。
福本 ゆみ
ソフトバンクは文句なしの話題作。が、黄桜のノンフィクションの力にも圧倒される。おまけにBOSSは、昨年よりパワーアップしているし。本当に最後まで行方がわからなかった、今年のTVグランプリ。ラジオは、カンヌグランプリのキヤノンが注目されていたが、サントリーの濃い笑いの前には、やや大人しく感じられた。
古川 裕也
今年は、いちばんヒットしたCMといちばん優れたアイデアのCMとが一致している、とても幸福な状態だった。どんな賞であれグランプリと言うと、あとからだいたい、何であれが的な質問のような文句のようなものを浴びるものだが今年は浴びなくてすみそう。ボスも例年ならグランプリの資格は十分ある。この期におよんで、よりおもしろくなってるところがすごい。
松尾 卓哉
48年間のACCの歴史で初めて、海外から参加した審査員になった。審査会の間に38歳になった。しかし、21人の審査員の中では一番若かった。世界で最も高齢化の進んでいる国であることを改めて実感…。一方で、現場に復帰した博報堂の宮崎晋さんの仕事が2つのゴールドを獲った。日本の広告界に「夢」と「未来」を与え、世界の前例となる偉業である。
溝口 俊哉
キャラクターの時代なのだとつくづく感じた。メッセージを伝えるのはどんな人(犬)なのか。テレビでもラジオでもいわゆる“キャラ立ち”していることが評価につながったと思う。とはいえ個人的にはコッソリと、絵のきれいなもの、コピーの少ないものにも積極的に票を投じた。説明しすぎない、行間のある作品は案外残らなかった。
米村 浩
近頃よくミーティングなどで、“この表現はちょっと広告的なのでは”といった言い方を耳にします。その真意は、広告の常套手段に陥っているんじゃないかと言った意味で、つまりあまり良くない意味ですが。今の時代、あまりに多い情報量の中で、広告が広告然とした顔つきのまま人々に興味深く受け入れてもらえるチャンスはとても少ない。僕個人としては、そんな時代のコミュニケーションを制作者達がどうやって達成しようとしたのかを最も興味深く見させてもらいました。
★イラストは中島 信也さんよりご提供いただきました。