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2011/08/06

Rewrite terraアフター (Rewrite短編)

「まさか本当に月まで行けるなんて思いませんでしたねー」
「それもそうだが、月に一つだけとはいえ植物があったことの方が驚きだ」
「とーかに面白いお土産話ができた」
「…」
「…」

 ゆっくりと歩いている俺の前方には、先ほど行ってきた月の話題で盛り上がっている三人の少女と、何か考え込んでいる様な二人の少女。
 後者の二人は時折一番後ろを歩いている俺の方をちらちらと振り返っている。おそらく昔の俺の事を…天王寺瑚太朗だった俺の事を覚えていた、もしくは思い出したんだろう。
 確かに思い出せない事も無い。今は魔物となっている俺だけど、魔物らしい部分は手足にある血で出来た様に赤い具足や両手を繋ぐオーロラリボン程度で、外見は殆ど人間。昔との違いはせいぜい髪の毛が伸びてる程度なのだ。
 しかし二人がそれを覚えていてもまだ俺について聞いてこないのは、きっと自分達が木から生み出した魔物だからこそだろう。偶然似てしまったか、それとも…といった感じで悩んでいる様に見える。
 なにせ俺だって驚いているくらいだ。まさかこいつらの…このオカ研メンバーの魔物になるなんて。

 篝に良い記憶を見せる為に行動し、最終的に魔物化して篝を殺す事で地球を救った俺だったが、その後は殆ど意識なんてものは残ってなかった。
 時間が経つにつれ眠りから覚める様に、少しずつ物事を考えられる様になっていき、気付けば俺は木となり月へ向かってどんどん枝を伸ばし続けていた。意識は寝ぼけている様に曖昧のまま。
 そして徐々に頭に流れ込んでくる様に記憶が呼び起こされた。いや、実際に流れ込んでいたのかもしれない。なにせ俺の知らない筈の世界…月での多重化した可能性世界の記憶すらも存在していたのだ。
 おそらく地球の篝と共に一本の巨木になった事が関係していると思う。手足の具足は俺の能力として、オーロラリボンなんて色違いとはいえ明らかに篝のものだから。

 記憶がどんどん俺という器に注がれるにつれて、月への渇望も大きくなっていった。
 地球の為にひたすら人類の可能性を模索し続け、そしてただ一人月に残った篝。俺は彼女ともう一度出会う為に、曖昧な意識のままひたすらに枝を伸ばし続けていた。
 そして今日、五人の少女達が…小鳥・朱音・静流・ちはや・ルチアが現れたのだ。

 魔物化された初めは意識が曖昧だったが為にきちんと思い出す事が出来なかった。俺自身もなんだか変な事を口走っていた気もする。
 それでも意識が覚醒するにつれて、目の前に居る五人が俺と、俺以外の俺と関わりが強いオカ研メンバーだという事に気付いた。表情や態度には出さなかったが、昔の俺なら声を上げて驚いていたかもしれない。
 上手い具合に会話を誘導して月に辿り着き、篝の葉を見つけた時には完全に記憶と意識が復活していた。だからこそ俺は、このままポチとしてこの五人の執事的立場で行動する事を決めた。

 天王寺瑚太朗ではなくポチとして。魔物として生まれたから魔物として。
 実際俺は膨大な可能性世界における天王寺瑚太朗の記憶を保持してしまっているから、この世界に存在した天王寺瑚太朗とは少し違うのだろうし。
 それに、この世界の天王寺瑚太朗は篝の為に行動し、篝と共に死んだのだ。今の俺は人類の可能性を見届けるただの魔物で、かつ五人を護衛する為に生み出された魔物に過ぎない。
 だからこそ俺はポチだ。もしくは風祭凡人だ。出来れば後者で行動したい。

「ねぇポチ」
「どうした?」

 気が付けば小鳥が俺の隣を歩いていて、何か躊躇う様子で話しかけてきた。
 しかしあんなに生意気でツンツンしていた小鳥がこんな風になるとは、時の流れとは凄いものだ。俺にはわからないが、小鳥に何か思うところがあったんだろうか。

「ポチが木だった時って、やっぱり月を目指してたの?」
「ああ」
「やっぱり、あの月にあった葉っぱ?」
「ああ」
「…あの葉っぱって、篝さんだよね」
「…ああ」

 そうだ。こいつは篝が見えてたし、知っていた。地球と月の違いはあれど絶対に気付かないなんて事は無い。むしろ頭の良い小鳥の場合は可能性で言えば気付く方が大きかっただろう。

「ポチは、やっぱり…ううん、やっぱりいいや」

 そういって、少し早足で離れていく小鳥。…たぶん気付かれたんだろうな。篝か聞かれた時に返事を返さなければよかったか? いや、それでもきっとあいつなら気付く。
 最後の言葉はきっと確認したかったんだろう。でも小鳥は途中で止めた。当たり前だろう。俺が魔物になって復活したなんてそう簡単に認められる筈が無い。
 特に、小鳥にとっては。

 少し離れたところを俯きながら歩く小鳥を朱音が心配そうな表情で見ていた。そういえばこいつも俺の事を知っている人間だ。あの反応からして、俺と小鳥の事も知ってるのかもしれない。
 朱音には小鳥から貰った魔物を渡していたから、そこから俺の事をお互いに色々話したんだろう。二人の仲が良い様で少し安心する。
 そういえば、静流も一度だけ出会っていた筈なんだが…覚えてないんだろうか。案外覚えているけど気付いてないという可能性もあるな。

「ポチ」

 今度は朱音が俺の元に寄ってきた。

「ポチは私達の僕として行動するのよね?」
「ああ。一回断ったが、色々考えて今は納得している」
「そう…なら出来るだけ小鳥を気にかけて欲しいの。あの子が元気無いのは貴方のせいなのだし」
「了解した」

 辛辣な言葉を放つ事もあるが、何だかんだで優しい朱音らしい言葉だ。可能性世界での朱音よりも少し幼い感じがあるのは、やはり聖女の継承に異常が生じたのだろうか?
 ともかく、小鳥に関しては俺も気にかけるつもりではいた。とはいえ、あまり接触するのも小鳥の精神状況に悪いかもしれないが。

「それじゃあよろしく頼むわ…ああ、そうそう」
「どうした?」

 俺から離れて行こうとしていた朱音が何か言い忘れた事があったのか、、途中で首だけでこちらを振り向く。

「貴方から貰った魔物は今でも使ってるわ。でも、女の子から貰った物を別の女の子に渡すのはどうかと思うわよ?」

 にやりと意地悪げな笑みを浮かべてそんな事を言われた。どうやら朱音は完全に俺を天王寺瑚太朗と断定した様だ。
 しかし…確かに端から聞けば最低な男の行動にしか聞こえないなオイ。あの時はしょうがなかったとはいえ、なあ?

 今後の魔物生活が楽しみなのと同時に、かなり面倒な事が待ち受けてそうで少し嫌になった。

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