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2011/07/23

Rewrite 静流ビフォア (Rewrite短編)

「学校?」
「そう、ルチアちゃんと同じ風祭学園高校よ」

 ガーディアンの施設にある一室でのんびりしていると、とーかがそんな話を持ってきた。
 私の次の任務としてとーかが持ってきたその話は、未だ潜入人員が少ない風祭学園高校に生徒として入学し行動する事だった。とーかも教師として学校で活動するらしい。
 そういえばあそこはルチアしかガーディアンの人間が居なかった気がする。勉強はしていたけど、学校なんて小学校以来行ってなかったから少し楽しみ。
 とりあえず学校で何をしたらいいのかとーかに聞いてみたら、基本的には普通に学生として生活してるだけでいいって言われた。一応任務なのにそれでいいのか…

「任務というより、学校生活を楽しんで欲しいっていうのがメインかしら?」
「そっちがメインなのか…」
「ええ、やっぱり若いうちはこういう事を楽しんでおくべきだと思うから。だからこう、私の数少ない権力を総動員♪」

 学校にいけるのは嬉しいが、こんな事に権力を総動員しても大丈夫なんだろうか…?
 
 
 
 私ととーかが来年度から同じ学校に通う事になるとルチアに話すと、ルチアはとても喜んでくれた。最近はあまり会う事が出来なかったけど、これからはきっと頻繁に会う事が出来ると思う。そう言うとルチアはとても嬉しそうだった。
 ルチアは結構寂しがりやだ…そう言うと、ルチアが声を荒げながら否定してきた。勿論ただの照れ隠しにしか見えない。

「ところでルチア、勉強を教えて欲しい」
「勉強?」
「うっかり入試で落ちたら恥ずかしい」

 勉強はしてるけど、念のため。
 
 
 
 入試に合格したので色々と準備する事になった。制服や教科書にかかるお金は一応任務でもあるのでガーディアンが出してくれるらしい。助かる。

「はい静流ちゃん」
「…?」

 学校に通う為に借りた部屋で荷物の整理をしていると、手伝ってくれていたとーかが突然制服を持って私に渡してきた。
 とりあえず渡された制服をクローゼットに仕舞おうとすると止められる。どうやら片付けるのではなく着てほしかったらしい。

「着るのはいいけど、写真は撮らないで欲しい」
「えぇーどうして?」
「…恥ずかしい」

 とーかが可愛いと叫びながら抱きついてきた。任務の時は冷静で凄いのに、どうして普段はこうなのか…昔はまだここまでじゃ無かった記憶もあるのに…
 ともかく仕方が無いので制服を着てみた。風祭高校の制服はひらひらしてて可愛いので私もちょっと気に入っている。意外と動きやすいのもいい。着るのはちょっと大変だけど。

「やっぱり可愛いわ~!」
「…」

 写真は結局撮られた。
 
 
 
 入学。こんなに大勢の同世代の人達に囲まれるのは初めてだったからちょっとだけ緊張した。でも隣の席の子とちょっとだけ仲良くなれて良かった。
 学校はいつもにぎやかで色々な声が聞こえて、音を聞いてるだけで何だか楽しくなってくる。ガーディアンの施設は大人ばかりだし、音も少なかったから。 

「学校はどうかしら?」
「楽しい」
「そう、よかった」
 
 
 
 お昼休みに中庭でのんびりしているととーかがやってきて、そのままちょっとお話。とーかも教師生活を楽しんでいるみたいだ。ちなみにとーかは生徒からの人気が高いという話を教室で耳にした事がある。
 とーかも学校に馴染んでいるみたいだ。

「卒業までは居られるかわからないから、今のうちに色々やってめいっぱい楽しんでおくべきよ?」
「大丈夫。委員会にも入った」
「ああ、風紀委員だったわね」

 前にテレビでやってた学園ドラマでちょっとかっこよかったからやってみる事にした。いつか「廊下を走ってはいけない!」と決め台詞を使って取り締まるのが小さな夢だったりする。
 でもいきなり知らない人にそんな事を言うのもちょっと戸惑うから、とりあえず誰か知ってる人が走ってたら使ってみようと思う。今のところ一番走りそうなのはとーかだ。

「静流ちゃんも学校生活をめいっぱい楽しめるといいわね。なんなら彼氏だって出来ちゃったりして?」
「…」

 彼氏。好きな人もまだ居た事の無い私に出来るのだろうか…今までそんな人は特にいなかったし、何となく出来ない気がする。それに抜け駆け禁止だし。
 むしろ私よりとーかの方が彼氏を作った方がいいのではと思う。

「どうしたの?」
「なんでもない」

 とーかの彼氏になれそうな人…いまみーくらいしか思いつかない。でも多分付き合わないと思う。二人とも大丈夫なんだろうか…?
 
 
 
 学校生活にも慣れてきた頃、風紀委員の仕事で放課後に集まる事になった。今日は確か掲示物の張替えの仕事だ。
 割り当てや場所が書かれたプリントを見ると、どうやら今日は二年生の斉藤という風紀委員と二階を回る事になるらしい。確かこの人はあまり委員会の仕事を真面目にやらない人だったから、早く終わらない可能性がある。
 特に用事はないからいいけど、仕事はキチンとやってもらいたい。今もまだ教室に来ていないし…他の風紀委員はもう殆ど仕事に向かっている。

「あぁそうだ。二年の斉藤は今日休みらしいけど代理が来るらしいんだ。同じ二年の天王寺って生徒だから、来たら説明よろしく」

 風紀委員長は教室に待機している私にそう言って仕事に向かった。代理…早く来て欲しい。

「すんませーん二年の斉藤の代理で来たんすけどー」

 少し待っていると教室のドアがガラガラ音を立てて開き、そんな声が聞こえてきた。
 掲示物の張り替える場所をプリントで確認していた私は顔を上げて出入り口の方へと目を向ける。

 そして、そのまま目を離せなくなった。

「あれ、一人? 他はもう行っちゃったっぽいな」
「…」
「とりあえず君の手伝いすればいいんだよな?」
「…」
「あれ? おーい」
「…! あ、えっと、これ」
「ん? あぁ」

 何回か話しかけられてようやく気を取り直した私は、焦ってプリントをその人に渡した。
 …びっくりした。こんな事が本当にあるのかと驚いてしまった。しかもそれが私に訪れるとは全く予想もしていなかった。
 まさか、一目惚れするなんて。

「掲示物の張り替えか。そういやたまーに見てたなぁ」
「…」

 困った。今度は目を合わせる事が出来そうにない。落ち着け落ち着け…よし、多分これで大丈夫。

「静流。よろしく」
「? あ、名前か。俺は…瑚太朗だ。よろしくな静流」
「…よろしく、コタロー」

 名前を呼ばれて少しだけドキドキしている。何とか冷静に対応出来てると思うけど、顔が赤くなって無いか少し心配だ。早く慣れないといけない。
 とりあえず仕事、仕事をしよう。

 その日は結局、終始ドキドキしながら一緒に行動していた。コタローが明るく気さくな性格だったお陰でそれなりに会話も出来てたけど、会話の内容をあまり覚えていなくて変な事を言ってなかったか心配になった。
 でも、ちょっと仲良くなれて嬉しい。
 
 
 
「静流ちゃーん」
「…とーか」
「こら、学校では西九条先生よ?」
「…にしくじょー先生」

 次の日、またお昼休みに中庭でのんびりしていると例の如くとーかがやってきた。そしてまた少しお話。

「どうしたの? 何か考え事してるみたいだったけど?」
「…なんでもない」
「ふーん…何かあったみたいねぇ? 楽しい事?」

 バレた。でもコタローの事を考えてたとは言えず、何とか誤魔化そうとしてもとーかは楽しそうに色々と質問してくる。
 授業の事、さんまの事、クラスメイトの事と様々な質問を投げかけてくるとーかに、違う違うと否定し続ける。
 何とか逃げられないかと、話の切り替えに使えそうなネタを探して周囲を見渡す。

 そして、廊下を歩いているコタローを見つけた。

「…」
「…うふふふ、見ーちゃった。なるほどなるほど」
「…!?」
「あ、ちょっと痛い、静流ちゃん痛い!」

 バレた。バレてしまった。恥ずかしい…多分今の私は顔が真っ赤になってるはずだ。とーかの馬鹿。
 私はそのままとーかが謝るまでポカポカと叩き続けた。

「静流ちゃん酷い…」
「知らない」
「ふふふ。でも、そっか…うん、天王寺君なら静流ちゃんを任せてもいいかもしれないわね」
「…!」
「あ、痛い痛い!」

 結局休みが終わるまでそんな事を続けていた。
 
 
 
 季節は秋。あれからコタローを見かける度に話しかけているおかげで、多分結構仲良くなれたと思う。
 最初は見た目で一目惚れしたけど、何度かお話しているうちに中身も気に入って、本当に好きになってしまった。ちなみに彼女が居ないのはさりげなく確認済みだったりする。
 そして今日は、ちょっと勇気を出してお昼を一緒に食べようと誘ってみるつもりだ。上手くコタローが捕まればいいが…

「…あ」

 とりあえずコタローを探して学食方面へ向かうと、廊下を走っているコタローを発見する。チャンスだ。
 制服のポケットからホイッスルを取り出す。前に見た学園ドラマで風紀委員の人が使っていたのを思い出して、ついつい買ってしまったものだ。ヅャスコで79円と非常に安かった。
 これでコタローを止めて「廊下を走ってはいけない」と決め台詞を使う。そしてその後に一緒にご飯を食べようと誘う。…うむ、完璧だ。

 さあ、勇気を出そう。一緒に食事という小さな夢の為に。一緒に居たいという小さな願いの為に。

 思いっきり息を吸って吹いたホイッスルからは、私の意気込みとは不釣合いな情けない音を奏でた。

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